軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第77話、共有化領域

ヒュドラ肉に醤油ベースのステーキタレをかけて味わう。肉が、口のなかで溶けた。懐かしい醤油風味が肉と共に口いっぱいに広がって、あまりの懐かしさと美味さにソウヤは泣いた。

ミストは、舌の上で踊る新しいタレの味を、とことん味わうように、まるでワインを嗜んでいるような顔をしているし、タルボットとセイジは、声にならない声を発しながら、ステーキを頬ばっていた。

至福の時は、長いようで短かった。ごちそうさま、の後、三人は誰ひとり口を開かなかった。

ミストは、恍惚とした様子で皿の上に残るステーキ肉があった跡とタレの残りを見つめている。

タルボットは満足したようにお腹をさすっていて、セイジは緩みきった顔で、何やら思い出し笑いのような表情。

……少々、気持ちの悪い集団だ、とソウヤは思った。しばらく余韻に浸りたいところだが、後片付けを始める。

その様子を見ながら、タルボットがようやく口を開いた。

「こんな美味しいものが食べられるのなら、ショーユを作った甲斐がありました」

「魚や貝にも合うぞ。……ってそれは知ってるか。お前、漁師たちに勧めてたもんな」

「網で焼いたものに、ショーユをかける。美味しいですよね」

またもタルボットが満面の笑みを浮かべた。ソウヤもニッコリする。

「これが王国にも広がっていくんだぞ。タルボットの醤油! お前も有名人だ」

「まあ、それについては追々ですかね。ただショーユは、いっぱい作らないと」

「そうだな」

頷くソウヤに、タルボットは声の調子を変えた。

「ソウヤさんのアイテムボックスって、容量に制限がないんでしたっけ?」

「そうだが……どうした?」

「いえ、ちょっとした思いつき……だったんですけど、あーこりゃダメだ」

「何だ、聞かせろよ」

ソウヤが問うと、タルボットは頭を掻いた。

「いや、ショーユが注目されると、それを狙ってくる輩とかいたら怖いじゃないですか」

フランコ・アイアン商会の手下どもに襲撃された経験があるタルボットである。

「そこで、できた醤油をソウヤさんのアイテムボックスに保存できたら、絶対安全だと思ったんですよ」

元勇者のアイテムボックス内では、誰も手が出せないだろう。

「でもこれ、ソウヤさんが近くにいないとできないから、意味がない思いつきだなって」

「アイテムボックスを共有化するか?」

「はい? 何です共有化って?」

当然の質問が返ってくる。ソウヤは説明する。

「お前に新しいアイテムボックスをあげただろう? アレの中身を、オレのアイテムボックスの共有スペースに入るように設定すれば、お前が入れた醤油はオレのほうからも取り出すことができる。そしてオレがその共有スペースに何か入れたら、それをお前も取り出せるってシステムだよ」

もちろん、取り出せる品についての設定は、基本的にソウヤのほうでやらないといけない。

設定が少々面倒だが、アイテムボックス内の共有スペースは、勇者時代に仲間たちを相手に使っていた。

それぞれ持たせたアイテムボックスに、予備の武器やポーションなどの薬を共有したのだ。

貴重で数が少ないアイテムを使う時、誰に持たせたか、いちいち確認しなくても済む利点があった。共有スペースに入れておけば、必要な時にすぐに取り出せる……という風に使っていたのだが。

「ちょっと待ってください、ソウヤさん。それって……」

タルボットがそれに気づいた。

「ひょっとして、ソウヤさんたちが、わざわざバロールの町に来なくても、僕の作った醤油を受け取れるってことじゃないですか?」

「……そうなるな、うん」

「それって凄くないですか?」

タルボットが目を輝かせた。

「だってこれ。輸送の手間がほとんど掛からず、即時、発送、受け取りが可能ってことじゃないですか! めちゃくちゃ画期的ですよっ、これは!」

「……!」

王国東端のバロールの町から、たとえば王都やエイブルの町で、一切移動しなくても荷物のやり取りができる。

ワープ輸送? 輸送の概念が、ひっくり返る仕様だ。

――なんてこった! なんでこれに気づかなかった!

その仕様を、有効活用できていなかった。何故、今まで思いつかなかったのかと、ソウヤは頭を抱える。

しかし、これは諸刃の剣だ。物資輸送の概念を覆す一方、周囲に認知されると、それはそれで厄介なことになる可能性が大だった。

たとえば、軍隊。兵の移動には、食料や物資も必要で、従軍する兵が増えれば、それを維持するための物資や消費される食料もまた跳ね上がる。

だがその物資輸送、補給を、アイテムボックスの共有化利用を活用すると、軍隊の移動そのものが変わる。

随伴する糧食や物資だけではない。兵が携帯する重い装備を、移動中はアイテムボックスに入れて、戦場が近くなったら出す、とかの使い方もできる。兵の疲労を軽減し、身軽な分、従軍の速度も上がる。

食料も現地調達が不可能な場合でも、アイテムボックスの共有化で安全な後方から、すぐに届けられる。補給部隊の移動も護衛も不要、それに掛かるはずだった戦費も限りなく削減できると、いいことづくめだ。

――要は使い方だが……。あまり人に知られないほうがいいやつだコレは。

王国の軍や貴族たちに目をつけられたら、絶対に自らの手中に収めようとするだろう。ソウヤがいないとフルに活用できない、というなら、銀の翼商会ごと取り込んで、こちらの自由を奪うだろう。

それはなんとしてでも避けたい。

「タルボット、このことは、オレと信用できる奴の間だけの秘密にする。家族や恋人にも他言はするな」

ソウヤの真剣な表情に、タルボットも緊張を露わにした。

「は、はい」

「これは権力者に知られたら、身を破滅させる毒になるかもしれない」

有用ではあるのは間違いない。だから使わない手はないが、使うにしても、バレないように上手く誤魔化す方向で活用しないと危ない。

「だが……おかげで、依頼の受注問題が解決するかもしれない」

ひとつ、思いついたのだ。アイテムボックスの共有化を利用した連絡手段を。

相手にもアイテムボックスを持たせる必要があるが、容量を小さく、ポストサイズにしてしまえば、他の魔道具として誤魔化せる。

どこでもポスト! 何だか未来からきた猫型ロボットの登場するアニメに出てきそうなネーミングであるが、これを使って距離を問わない手紙による連絡ができるようにしよう。

まずはタルボットで試し、うまくいくようなら、お得意様に配ればいいだろう。

ソウヤは商売の幅が広がるのを確信し、胸を膨らませた。