軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談124話、女王様の憂鬱

サキュバス・クイーン、ブルハは、魔王軍幹部であり、熱心な魔王信者だった。

特に魔王ドゥラークに対しては、深い愛情と崇拝の念を持ち、先代以上に忠実なしもべとして振る舞った。

が、勇者ソウヤとの一騎討ちに魔王が敗れると、魔王軍残党と共に地下に潜った。

もっとも、この時の彼女は、ドゥラークを失ったことで茫然自失となっており、残党軍としての活動は特に行動しなかった。

魔王没後の、魔族と残党の混乱。各地の指揮官級が独自に動いていた理由も、魔王の側近だったブルハが動かなかったせいでもある。

そして三年も経てば、ブルハも立ち直るもので、残党軍をまとめて、魔王の復活と人類への報復に動き出した。

この頃になると、頭角を現しそうな血気盛んな残党勢力は軒並み排除されていた。初期の、火属性ドラゴンへの報復に動いたとある残党に端を発した行動が、ドラゴン族の逆鱗に触れ、掃討が行われたせいだ。

一属性とはいえ、身内を滅ぼしかねない攻撃を受けたことは、全ドラゴンを敵に回した。結果、魔王軍残党と見れば即ブレスを吐かれるほど関係は悪化してしまったのである。

残っていた魔王軍残党は、ブルハに逆らうような気概も力もなく、彼女のもとへ集った。

手始めに、魔王軍とさほど交戦していない東方諸国を狙い、自軍強化と侵略を並行して進めたのだが……。

ヴァンパイアのカネールは、何とも言えない表情になる。

魔王軍残党拠点、地底城の玉座の間。その支配者であるサキュバス・クイーンは、玉座の左の肘掛けに腰を下ろしていた。

それは魔王の玉座に対して、失礼極まりないのではないか、と思うが、それをカネールは意見したことはない。

魔王関連のワードは、何が爆発物となるかわからないので、できれば言いたくないというのが本音なのだ。

ここ最近のブルハは、上はローブ風のマント、下はかなり際どいラインのハイレグであり、生足どころか尻肉が少々という案配である。

サキュバスとして男を虜にする点では、ある意味正装ではあるのだが、その尻肉の置き所が玉座の肘掛けなのは、行儀が悪すぎないかとも思うのだ。

もっとも、以前同僚から聞いた話では、ブルハが玉座に座らないのは魔王への特大の敬意の現れなのだという。

魔王でもない自分が、魔王様の座った場所に座るなど言語道断、ということらしい。

では肘掛けはいいのか、と言えば、そこが彼女のねじ曲がった愛情のなせる業なのだという。

『あれだ、ブルハ様は、ドゥラーク閣下の妻になりたかったのだろう』

だから、常に座る肘掛けは左側。魔族領では、魔王の妻は左側というのが儀礼上のポジションなので、そういうことなのだろう。

ただ、あくまでブルハの願望であり、魔王自体は彼女を娶るつもりはなかった。もちろん婚約など欠片もなかったから、ブルハは玉座の左側に自分の席を置くことはせず、愛人かペットのごとく、玉座の肘掛けに座るという意地汚さを見せるのだ。

浅ましい。未練たらしくていけない、……とは、カネールも面と向かって言えない。

「それで、話を聞きましょうか?」

いつものポジションからブルハは、カネールとインモルタルを見下ろすのだ。

内心渋々ながら、カネールは歩国での作戦失敗の説明を行った。失敗報告をするというのは、気分のいいものではない。しかし、嘘をつくわけにもいかない。

「――竜玉は、残念ながらドラゴンの邪魔が入り失敗いたしましてございます」

「……」

この無言の間が怖いのだ。カネールは話は終わったとばかりに押し黙る。ブルハは気怠げに息を吐いた。

「何故、ドラゴンが邪魔をした?」

「わかりません」

カネールは正直だった。いい加減、礼儀正しく振る舞うことに疲れてきたので、素が出始めている。

「わたくしめも考えたのですが、おそらくは竜玉は、ドラゴンのテリトリーであったのでありましょうな。だから歩国だけではなく、ドラゴンが介入してきたものと、思われます、はい」

「黙りなさい」

「はい……」

自分でも饒舌になることがあると認めるカネールである。ブルハは唇を歪めた。

「カネール、あなた疲れているのかしら?」

「え……は?」

「私の部屋に来る?」

その妖艶な笑みを見て、カネールはゾゾゾと寒気が走り、片膝をついた姿勢のまま一歩分体を下げた。

「いえ、ご心配なく、わたくしめは元気でございます、はい」

「そう? 私が格別の快楽であなたを包んであげてもよくってよ?」

サキュバス・クイーンの微笑みを受けて、人間ならば立ち所にいいなりになってしまうのだろう。

この誘いの結果、快楽に包まれたまま根こそぎ精を吸い取られ死ぬということを知っているカネールは、全力で辞退するのである。

「東方侵略策は、上手くいっていない。……そうね、インモルタル?」

「遺憾ながら、仰せのままに、女王陛下」

主の前でもフードを取らないインモルタルは答えた。

「竜玉の件は、その名に竜を冠していることもございまして、これ以上の深入りは避けるべきでしょう」

「どこぞの馬鹿どものせいで、ドラゴンが完全に我々を敵と見なしている」

苛立たしげに自身の髪をはらうブルハである。……その頃、あんたは何もしていなかっただろうに――カネールは心の中でのみのツッコミに留める。

「偉大なる魔王様復活の鍵になったかもしれないのに――」

そう言った時のブルハは、感情が削ぎ落ちたように無表情で、しかし視線だけは氷のように冷たかった。これは相当腹に据えかねていると、部下たちは察した。

魔王の復活は、彼女の悲願である。……それが本当に可能なのかは、カネールにはわからなかったが。

「ごくろうさま。今日のところは、休んでいいわ。下がってよし」

ようやく解放される。カネールは頭を下げ、玉座の間から退出しようとすると、ブルハは口を開いた。

「インモルタル。私の部屋に、人間奴隷を連れてきなさい」

この場合の人間奴隷――容姿に優れた、いわゆるイケメンと評価される若い男たちである。魔王軍残党は、機会があれば人狩りをして、一定数の奴隷を確保している。大抵、長生きはできないが。

「承知しました。……十人ほどでしょうか?」

「三十人」

「……承知しました」

インモルタルは恭しく頭を下げた。カネールは、ブルハから表情が見えないのをいいことに、フッと小さく笑った。

気の毒な三十人の男たち。相当ご立腹のブルハと行為を強制され、精気を全て吸い取られ干からびて死ぬのである。サキュバスの女王様は底なしだ。

救いは、男たちはこれまで味わったことのない快感と恍惚の中で最期を迎えられるということか。

病気や寿命で死ぬのと、サキュバスに殺されるのは、どちらが幸福な最期なのか。果たしてどうなのか――カネールは考えつつ、その場を後にした。