作品タイトル不明
後日談121話、この場の主役は――
ナダのナギに対する告白は、ジン――カイザードラゴンの介入で、正式に婚約となった。
しかし場の空気は、第三王子の婚約よりも、歩国の伝説にある竜玉を授けた伝説のドラゴンが降臨したことに持っていかれていた。
元の姿に戻ったジンは、上座に通され、歩国の王族よりも高い位置について、歓待を受けていた。
竜玉絡みのドラゴンともなれば、神にも等しい。完全に部外者であるソウヤは、この東方の国での竜玉伝説とドラゴンへの信仰を改めて感じ取っていた。
――何か、凄いことになっちまったな……。
先ほどまで一緒に飲んでいたジンが、一番高いところに連れていかれたので、ソウヤは、ぼっちとなる。
ミストは影竜と、フラム、フォルスの子供組の相手をしていて、周囲の盛り上がりとは距離を置いていた。
アクアドラゴンは城中の酒を飲み干す勢いでいる一方、クラウドドラゴンはマイペースを貫いている。あちらはあちらで盛り上がっているが、可哀想なのは、事の発端であるナダとナギが、放っておかれているところか。
歩国の者たちは、カイザードラゴンの歓待に忙しい。むしろここで全力でやらねば、バチが当たるというものなので――ジンはそんなことは気にしないのだが、歩国の立場では手は抜けない。
ソウヤは、のそのそと、居心地悪そうなナダたちの元へ移動した。
「あー、ナダ。それとナギさん」
座敷で正座になり、向かい合う。
「まずは、婚約おめでとう」
周りが祝わない――というか、それどころではないから、せめてオレだけでも、とソウヤは挨拶する。
するとナダも背筋を伸ばした。
「ソウヤ殿に祝われるとは、これ以上ないお言葉。恐悦至極」
「オレのことはいいよ。ほんと、おめでとうな。それと悪かったな、うちのドラゴンたちが主役をとってしまったようで」
「いえいえ、むしろ、こちらこそ感謝せねば。ジン殿やアクアドラゴン様が入ってくだされなければ、まだ場は揉めておったでしょうから」
それはそうである。ナダとナギの身分違いの恋愛は、世間一般でいうところの常識から考えれば、揉めに揉めて、祝宴どころではなかっただろう。そう考えるならば、文句をつけるのは筋違いだ。
「でもお前、本当は自分で筋を通したかったんじゃないか?」
「……」
ジンがカイザードラゴン云々と言わずとも、ナダは自分の伴侶のことは、自分の手で解決したかったのではないか。そういう一本気な男であると、ソウヤは見ていた。
「そのつもりではありましたが、私も子供ではありません」
ナダは小さく笑みを浮かべた。
「場がよい方向に転がったのならば、それを利用しませんと。筋という面では、確かに名残惜しい面もありましょう。ですが、願望としては、これ以上望むべくもないほど恵まれておりますから」
少なくとも、この婚約について、もはや動かしがたいものとして周囲に認知された。言ってみれば既成事実となったようなものだ。
竜玉を人々に授けたカイザードラゴンが現れ、この婚約を祝福した。これについて文句を言おうものなら、それはカイザードラゴンをも批判することになり、竜玉伝説を神聖化している歩国の民から総スカンをくらうことになるだろう。
王族ですら、異議を挟めないほどの効能であり、伝説のドラゴンの祝福を受けたとあれば、それは天がこの婚約を認めたと同義なのである。
身分違いの恋、カイザードラゴンの祝福したカップル――これは、後々にまで末永く語り継がれるお話になるのではないか、とソウヤは思った。
数百年、数千年後、昔話、お伽話の類いとして、大人たちが子供に語り継ぎ、誰もが知るお話になるのではないか。可愛らしい絵本になって、または多少脚色されて、読み聞かせなんかにもなったり……。
「ソウヤ殿……?」
「悪い。オレ、昔話になるエピソードの誕生の場に出くわしたのかもしれない」
「何を言っているのですか、ソウヤ殿」
そんな大げさな、という顔をするナダ。ソウヤは真顔である。
「いやいや、大げさじゃないって」
ともあれ、神に等しいドラゴンの祝福を受けたことで、この二人の前途は明るいだろう。周囲から身分がー、どうこうで傷つけられ、結婚はしたけど、駆け落ちしたり、村八分にされて不幸になるということはない。そんな不心得なことをするような者は、罰が当たると控えるだろうから。
周りが盛り上がる中、ナダは落ち着かないようだった。
「まだ、この場にいなければいけないのでしょうか?」
周りがドラゴンへの歓待に夢中であるなら、自分たちは居なくてもいいだろう、とナダの顔に出ていた。ナギといい雰囲気になりたいのだろう、とソウヤは見当をつける。
「いいんじゃないか。この場でお前たちに話がある奴もいないだろう」
もう二人を主役に祝うという雰囲気ではない。行っていいぞ、とソウヤは言った。……これでナダとナギが抜け出したことを、後で何か言われたも、ソウヤが言ったからと言い訳になるだろう。
黙って抜け出した、ではなく、ちゃんと断りを入れた、と。
「二人で、仲良く過ごしな」
おめでとう、と言うと、ソウヤはのそのそと後退した。
・ ・ ・
その頃、地底の奥深く、ヴァンパイアのカネールは、一人の魔族と会っていた。
「まったくもって参りました。人質をとっているのに活用する間もなく、殴られましたからねぇ……」
歩国の秘宝、竜玉を手に入れるべく潜り込んでカネールの部隊だが、追ってきた一団との遭遇で、返り討ちに遭った。
「おかげで、竜玉を手に入れることもできませんでした」
「……結論を報告するまで、前置きが長かったな」
その魔族は低い声で言う。深々と被ったフードのせいで、よくわからないが、その肌の色は灰色と吸血鬼か、それに近い魔族であろうことはわかる。
「詳しい話を聞きたいと思いましてね」
お喋りなヴァンパイアは、不遜にも告げる。
「簡潔に伝えたら、どうせ詳細を催促されるでしょうから、時間の無駄を省いて差し上げたのですよ」
「……しかし、これは困った」
「あら、もう私は用済みですか?」
魔族はさっさと踵を返すので、カネールはその後を追った。
「計画通りにいかないことは間々あることです。偉大なる魔王閣下だって、予定だけなら世界を征服されていた。しかし現実は違う……」
「貴様、それをあの方にそのままご報告したら、どうなるかわからないわけでもあるまい?」
魔族の言葉に、カネールもしばし口を閉ざした。
「……おそらく八つ裂きでは済まないでしょうねぇ」
「あの方は、魔王様のこととなると、まったく遠慮しないからな――」
二人は、地底通路の奥へと消えていった。