作品タイトル不明
後日談120話、告白と、空気の読めないドラゴンたち
ナダのナギへの告白は、思いの他多くのギャラリーを呼び込んでしまった。
肺活量が大きいナダの一喝するような声は、宴会の喧噪さえ掻き消されるほどであったのだ。
ただでさえ、主からの告白という想像外の出来事に動揺していたナギは、もう完全にパニックだった。
そもそも身分差がある。王子と結婚できるような身分ではないのは、ナギも重々承知している。……もちろん、想像しなかったといえば嘘にはなるが。
だが公然とナダが告白してきて、嬉しい反面、それは無理な話と理性がナギを押し止めた。
ここから自分がいかに、ナダの相手にふさわしくないか、懇切丁寧に語って聞かせよう――というところで、城中の人間を集めてしまったのではないか、というほどの注目を浴びてしまい、そんな冷静さなど吹っ飛んでしまった。
……告白された時点で実は感情面グチャグチャで、何が懇切丁寧かというほどの精神状態ではあったのだが、そこは棚上げである。
始末が悪いのは、ナダが一通り言ってしまい、ナギが返答する状況だったということ。家臣一同、王、王妃、ナダの兄姉たちの前とあれば、何を言っても危ういのでは、とナギをすっかり萎縮させてしまったのである。
そしてその沈黙は、ギャラリーたちによって破られる。
「いやいやいや、ナダ様、何を言っておるのですか!?」
「そうですぞ! 王子殿下が忍びの娘など――」
ざわざわと広がる動揺は、波のように襲いかかるが――
「誰か! 忍びの娘など、と下げた者はッ!!!!」
ナダが一喝し、前のめりになりかけた家臣一同が、腰を抜かすほどひっくり返った。竜の威圧もかくやの迫力に、しんと静寂に包まれる。
かつてミストの気で、何とか踏ん張って耐えたナダだが、その時に膝をついた他の者たちと同様の光景が広がる。
一番最初に立ったのは、ナダの兄、第一王子であるシラナミだった。
「ナダ、貴様は、本気で言っておるのか?」
「兄上、本気も本気。我が心に偽りなし!」
「……そうであろうな。酔っておったとしたら、余計に本心であろうし」
腕を組み、シラナミはすっと顔を上げた。そのまま黙してしまう王子。次に口を開いたのは王妃だった。
「ナダ、その娘が、どのような者か、わかっていっているのですか?」
「私に仕える忍びにございます」
はっきりとナダは返した。
「ですが、それが何だと仰るか? 些細なことです」
「周りがそなたたちをどう見るかは――」
「母上、それは関係ございません」
ナダは頑と受け付けない。
「王族の恥というのであれば、ヤマカミ一族から縁を切り、放逐すればよいこと」
「馬鹿者!」
唐突にシラナミが吼えた。ナダにも負けぬ声に、見守っていた家臣たちが再び腰を抜かす。
「言いたいことはわからぬでないが、母上に向かっていう言葉ではない! 腹を痛めて生んでくださった母上に謝れっ! ナダッ!」
あまりの迫力。ナダはぐっと堪え、そして頭を下げた。
「言葉が過ぎました、母上。申し訳ありません」
「……」
妙な空気が流れ、家臣たちも気が気でない。しかし余計な口出しができる雰囲気ではなかった。
……なかったのだが。
「ははははっ」
場の雰囲気をぶち壊す若い娘――もといアクアドラゴンが嬌声を上げた。
「いやはや、愉快愉快。声量対決かぁ? しかしドラゴンと比べたら、まだまだじゃな」
グビッと、大皿で酒を呷る。
「それはそれとして、婚約か? おお、いいのぅ、人間だとお祝いになるんだったな。めでたいめでたい、酒のお代わりもってこーいっ!!」
水を司るドラゴンは、酒が大好物である。そして合法的に酒のお代わりができるとふんで、さらにテンションが上がるのである。
「ナダっ、おい、我が弟子ぃ! めでたいついでにお前に加護をくれてやるぞ、アハハ」
「うむ、私からも加護をやろう」
クラウドドラゴンが、ちびちびとお猪口で酒を舐めながら言った。
「……いつから、彼はあなたの弟子になった?」
「うーん? 知らん」
笑って流すアクアドラゴンである。いい加減である。すっかり変な空気になってしまった場。黙って成り行きを見守っていたソウヤは、ドラゴンとして人の問題に首を突っ込むのは野暮と決め込んでいるミストや影竜と顔を見合わせる。
「……これ、どうするべきだと思う?」
うーん、とミストは恨めしげに、場の空気を変えたアクアドラゴンを睨めば、影竜は澄まし顔になる。
「知らん顔していればいい」
「いいのか……? う――」
ソウヤは、アクアドラゴンとクラウドドラゴンから睨まれているのに気づいた。
「ソウヤ、おい、大地の! お前も空気読んで、あいつに加護をくれてやれっ!」
「は? そういうノリだったの?」
一番空気が読めないドラゴン族が何を言うのか。呆れるソウヤをよそに、クラウドドラゴンが優しく、何もわかっていないフラムに語りかけている。
「フラム、あなたも火の代表なのだから、加護をしてあげなさい」
いくら四大竜の一角を担うだろうことになるフラムとはいえ、まだ幼女である。悪い大人が拐かしているようにしか見えない。
そこで、すっと動く者があった。老魔術師――ジンがドラゴンたちのもとを離れ、家臣一同の間を抜けて、庭に出る。呆気にとられているナダがそれに気づく。
「ジン殿?」
「まずは、よくぞ告白をした。セイジ君の魔法大会優勝インタビュー以来かな、こういう劇的な告白は」
「いや、さすがにセイジ殿には負けます。というか、あれは真似できません。セイジ殿は男ですよ」
あの告白を見て、銀の翼商会入りを決めたナダである。しかし――
「ここまで衆目がある場になるとは予想していなかったのですが……」
「だろうね。……それで、ナギさん」
老魔術師は、場の状況についていけず硬直しているナギに優しく声をかけた。
「君は、ナダのことは好きかね?」
「え……ああ、はい。好きか嫌いかでいえば、好き……ですが」
赤面して顔を逸らすナギである。それをじっと見たジンは頷いた。
「わかった。それならば――」
少し離れ、そして老魔術師は、ドラゴンの姿に化けた。家臣団から悲鳴じみた声が上がる。
『竜玉を授けし、カイザードラゴンが、ナダとナギの婚約を認める。皇帝竜の加護あれ』
「りゅ、竜玉……っ!?」
それを聞いた時の衝撃は凄まじかった。歩国王家の宝、そして伝承にある竜玉伝説は、東方の国では子供でも知っている。
これには、王族含め、当のナダさえも、皇帝竜に平伏するのであった。