軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談114話、王子の帰還、そして地下へ

さっそく都の中央にそびえる王城へと、ソウヤ、ナダたちは向かった。

当然、門番らが来るのだが、すぐにナダとナギに気づき、姿勢を正した。

「これは! ナダ様でございますかっ!?」

「久しいな。うむ今、帰った」

ナダが応じると、門番たちは口々に『お帰りなさいませ』と頭を下げた。それを見たソウヤは、ナダを見る。

「三年、いやそれ以上、留守にしていたのに皆すぐにわかるんだな」

「私が何年ここに住んでいたと思うのだ、ソウヤ殿」

苦笑するナダ。

「私の顔など、見飽きておろう。数年いなかっただけで忘れるようなものでもあるまい」

「そうかなぁ、そうかも。でも都じゃあ、ほとんど気づかれてなかった様子だったぜ?」

「あれは……おそらく、私がお忍びだと思って、皆自重してくれていたのだ」

ナダは、民に騒がれなかったことについて、そう解釈していた。普通、王子様が都に出れば、民はみな平伏したりするものではあるが、ここではそんなことがなかった。

ナギが目を細くした。

「いえ、あの様子は、本当にナダ様と気づいていなかったのだと思います」

だよなぁ、とソウヤは、都の民たちが、まったく気づいていなかったように思っていたから、ナギの発言に同意する。

しかし収まらないのがナダだ。

「いや、まさか、たかだか数年顔を見ていないだけで、王族の顔を忘れるものなのか!?」

ショックを受けていた。ソウヤが、ナダを指しながらナギを見れば、彼女は頷いた。

「本人は自覚がないようですが、数年前に比べると、だいぶむさ……いえ、逞しさが増しましたから。今は旅の剣士といった格好ですし、パッと見ではわからない人がいても、無理はないかと」

「――だってさ。まあ成長したってことだろう? よかったじゃないか、ナダ」

「ソウヤどのぉ」

恨めしそうな目になるナダである。それはそれとして――

「見たところ平穏なんだよなぁ」

ソウヤが、ミストに目を向ければ、油断なく周囲に気を配っていた彼女は、口を開いた。

「一部から臭ってはいるけれど、それ以外は特に魔族の気配はないわね。……兵隊に入れ替わっているとかは、なさそう」

クラウドドラゴン、アクアドラゴンもまた周囲を探っている。集まってきた兵たちが、王子の帰還を歓迎する雰囲気なのだが、一緒にいる三度笠の集団に、どうしたものかといった顔になっている。

ナダは咳払いし、手近な臣下――その中の年長者にして顔見知りに声をかけた。

「タツ、元気そうであるな」

「ナダ様、よく無事に戻られました! 大変よろこばしくございますれば、殿やご家族様も大変お喜びになりましょう!」

「ふん、兄上たちには、仕事もせずぶらついていたことで小言を言われるだろうがな」

何度目かわからない苦笑をするナダ。

「大事はなかったか?」

「はっ。歩国は、ナダ様が心配するような大事はございませぬ。……まあ、些事は、いくつかございましたが、大半が片がついています」

「大半、ということは、まだ些事とはいえ問題があると」

「なあに、地方で化け物が潜伏しているとか、獣の数が例年より多いといった程度の問題でございます。豪族同士が争っておるとか、乱がどうのというものではございませぬから、ご安心めされよ」

「乱などがあったら、それはもう大事だがな」

ナダは、真顔になる。

「城に、大事はなかったか」

「もちろんです。殿や奥方様含め、皆、御壮健にございますれば――」

「タツ殿」

別の臣下が、眉間にしわを寄せて言った。違うでしょ、という顔をしている。タツもまた眉間を険しくさせた。

「……まだ、決まったわけでは」

「タツ。申せ」

ナダは短く、しかし刃物のような鋭い調子で言った。その緊張を感じ取り、タツは頭を下げた。

「はっ、ここ数日、殿を含め、王族の方々の様子がどこかおかしいと、噂になっております」

「まるで別人のように、か?」

「そこまで極端には……、しかし、どこか様子がおかしいのは確かなようで。お具合がよろしくないのかと疑ったのですが……」

「全員揃って、というのも妙な話、ということだな」

「左様で。……ナダ様は、何かお心当たりが?」

「そういうことだ。それで戻ってきたのだ」

ナダは、ソウヤたちに振り返った。

「聞いての通りだ、ソウヤ殿。おそらく入れ替わっておるのは、我が一族のみで、他の者は気づいておらぬ」

「そうみたいだな」

ソウヤは片目を閉じて、はっきりと告げた。

「地下に下りるか」

「うむ」

「ナダ様、失礼ながら、そちらのお供の方々は?」

タツが尋ねたので、ナダは答える。

「私の友人、いや恩人の方々だ。そして今回、歩国に迫る危機をはらうために尽力してくれる方々でもある。くれぐれも失礼のないようにな」

「は……、ははっ! 仰せのままに」

タツ、そして臣下たちは頭を下げ、王子からの言葉を受け取った。

・ ・ ・

「でー? 結局、この地下の秘密とは何なのだ?」

アクアドラゴンが、青髪ツインテールをぶん回しながら、ナダに聞いた。そろそろじっとしているのに耐えられなくなってきたという顔である。

その地下に下りている道中。巨大な地下空洞といった様子で、むき出しの岩肌。ところどころに置かれた魔術式の松明の明かりに導かれて先を進む。

「この先にはダンジョンがあるのです」

ナダは、ドラゴンには敬語で話す。

「歩国の王族は、武人であれという言葉がありまして、成人の儀式だったり、王位継承の儀にこのダンジョンが活用されておるのです」

「魔王軍残党の狙いは?」

クラウドドラゴンが直球を放った。王族の儀式用ダンジョンに、魔族がやってくる理由とは何か?

「ドラゴンの方々に申してよいのかわかりませんが……。このダンジョンの最奥に、竜玉と呼ばれる宝珠があるのです。おそらく魔族が狙うとしたら、それかと」

「竜玉?」

ソウヤが振り返り、ドラゴンたちを見るが、ミストと影竜はおろか、クラウドドラゴンとアクアドラゴンさえ顔を見合わせている。

さもドラゴンに関係ありそうなものなのに、伝説の四大竜すら反応しないそれに、ソウヤは何とも言えない顔になる。

「……」

が、一人だけ、あからさまに視線を逸らしている者がいた。

我らが異世界トラベラー、老魔術師のジンが、あらぬ方向に顔を背けるのだった。