軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談108話、姫様、脱出する?

リーシン姫は、呪いをかけられていた――と、偽者は言ったという。

ナダは、偽者姫が調べられた時、正体露見を防ぐための口実を作っているだろうことは、予想していた。

……できれば、対策していない間抜けであって欲しかったが、さすがに潜入する者が無策などという虫がよすぎる展開はなかった。

それでも、ナダは、楽な方向で問題解決できないか食いついてみるのである。

「何故、今になって言ったんでしょうね?」

カーセン王子が首をひねったので、ナダは付け足す。

「呪いであるなら、早いうちに告白すれば治療を受けられたかもしれないのに」

「どうなのだ?」

侍女に確認すれば――

「はい、あまりに強力な呪いらしく、周りに言うのが怖かったと申しております。姫様のお話では、従者のフォイ殿が、討ち死にしたのも、呪いがうつったのが原因なのだそうです。これ以上、身近な者にうつして死なれるのは嫌だと、姫様は涙ながらに……」

侍女も感情移入しているのか、おいたわしや、とばかりに顔を伏せた。

「……」

いかにもトラウマっぽい言い訳ではあるが。

「苦しい言い訳ですね」

「……まあ、な」

ナダの発言に、カーセンは困ったように頬をかいた。

「多少強引にいっても、いけそうではありますが」

「ここの者は、ここにいる妹を本物と思って対応しているからな。実際、目の前の姫と王都の外にいるという姫、どちらを信じるか、という話でもある」

カーセンは、ナダの話に耳をかたむけているが、他の者もそうであるかといえば違う。本物以前に、偽者の存在すら知らないし、言ったところで証拠はと言われるとない。

「ナダ殿、貴殿の考えを聞こうか」

先に、考えがあると言ったナダである。その考えについて、カーセンは問うたのだ。

「まずは人払いを」

余計な口出しをされても困るし、それが回り回って、偽者の耳に届いても困る。カーセンは、部屋から侍女を追い出すと、ナダに近づいて声を落とした。

「それで、どうするつもりだ?」

・ ・ ・

カーセンは、リーシン姫が休んでいる部屋へ近づいた。廊下には侍女たちが控えていたが、カーセンが近づくと古参侍女が一歩前に出た。

「カーセン様」

「リーシンを見舞いにきた」

「申し訳ございません、カーセン様。今、姫様は誰にもお会いしたくないと、申しておりまして……」

「実の兄が来たのにか?」

「恐れながら。呪いをうつしたくはないと――」

「構わん。私は呪いを受けぬ秘術をまとうておる。リーシンにかけられた呪いなど、恐るるに足らず!」

入るぞ、とカーセンは強引に部屋へ入った。

室内の中央にある大ベッドに、リーシン姫が横になっていた。いかにも呪いの影響で、衰弱したような顔をしている。一日でここまで変わるものなのか、とカーセンは驚いたが、すぐに頭を振る。

「リーシンよ、大丈夫か?」

「お兄様、来てはいけません」

か細い声で言いながら、リーシンは布団を頭から被った。

「呪いがうつってしまいます」

「心配無用だ。今、旅の賢人が来ておってな。どんな呪いも無効化する護符を持っておるのだ。お前のかけられた呪いも、私は怖くはない。さあ、その顔を見せておくれ」

「いけません、お兄様」

リーシンは顔を出さない。

「この呪いは、非常に強力、いかなる解呪も護符もきかぬもの。きっとお兄様の護符も貫いて呪いを与えてしまいます。……リーシンは、そんなの嫌です」

何と健気な――カーセンは、そう思ってしまう。事情を知らなければ、これは彼女に肩入れしてしまうだろう。

「そうか。……しかし、困った」

「……」

「リーシン、お前は本物のリーシンか?」

「!? お兄様!? いったい何を――」

すっと顔が半分出てきた。信じられないと目が語っている。カーセンはいかにも同情するような目を向ける。

「実は、つい先ほど、もう一人リーシンが現れたのだ。魔族にさらわれたと申しているが……」

「そんな! 私が本物にございます! そのリーシンは偽者ですわ!」

「……」

「お兄様、まさか私を疑っているのですか!?」

「リーシンが二人もいれば、どちらかが偽者であろう?」

カーセンは淡々と告げた。

「父上は、あちらのリーシンを本物と見ているようだ。私はお前こそ本物と思っておるが……」

「お兄様、ああ、お兄様。そうです、私が本物のリーシンです」

感極まったように声を振るわせるリーシン。カーセンは頷いた。

「そうだ。しかしこのままではお前の身が危ない。故に、ここから避難し、身を隠すのだ」

「そんな! 私が本物なのに!」

リーシンは大きな声を発して、頭を抱えた。

「私が本物なのに、何故に離れなくてはいけないのです!?」

「父上がカンカンなのだ。一度、ほとぼりを冷まさねば話にならぬ。私がお前が本物であることを証明するまで、身を隠すのだ」

「そん、な……」

愕然とするリーシン。涙を浮かべ、しかし首を横に振った。

「わかり、ました……。お兄様」

「うむ、では行こう」

カーセンが手を伸ばせば、リーシンはその手を取った。

「ありがとうございます、お兄様。お兄様だけは私を信じてくださるのですね」

――……。

「もちろんだ、我が妹よ」

カーセンは、リーシンの手を引き、部屋を出た。侍女たちは驚いているが、言葉も出ない。そのまま部屋を出て、庭へ通じる廊下を足早に抜ける。兵たちが何事かという顔をするが、構わず進む。

「お兄様、どちらへ?」

「まずは城の外に出よう。兵を固められたら抜けるに抜けれなくなる」

「はい……!」

中庭に出る。そこでふと、子供のような声がする。

『あ、出てきた』

上?――とっさに顔を上げたリーシンの前を、さっと陰が過る。

『ごめんねぇ』

「あーれー!」

その瞬間、カーセンとリーシンは、ドラゴンの手にそれぞれ掴まれ、そして空へと飛び上がった。