作品タイトル不明
後日談105話、王子、訪問
グーファイ国の王都に向かい、リーシン姫の偽者をどうにかする。そして本物の姫を戻す――その策を実行するため、その日はやむなく野宿となった。
フォルスは、アイテムボックスから人間用のテントを出して、姫様用のプライベート空間を設置した。従者のフォイは、その配慮に感謝した。
「よかった。さすがに姫様を野晒しのままにするわけにも行きませんでしたから」
ナダ、そしてナギは野宿旅を続けているので苦はない。しかし、リーシン姫はそうではない。
「すまんな、フォルス」
「いいってこと」
姫様用の寝床を確保したところで、ナダはフォルスに、魔族のアジトで回収した品を出してもらった。
まず敵を知らねばならない。もしかしたら、グーファイ国の偽者姫のことや、本物の姫が襲われた理由がわかる手掛かりなどがあるかもしれない。
……結果的にわかったことは、ほとんどなかった。何やら手紙のようなものがあったが、魔族の言語で書かれていたため、読めなかったのだ。
わざわざ人の読める文字で計画の全貌を書き記したものを、魔族が持っているはずもなかった。
魔族の目的がわからないとなると、これは偽者姫は生かして捕まえないといけない、とナダは考えた。
とはいえ、成り行きによっては討たねばならない展開もあるだろう。何より本物の姫の安全が第一であり、ついで周囲の人間に危害が及ぶ場合も、偽者を殺害しなくてはならないこともあると心に留めておく。
情報を優先し、身内に犠牲が出てはいけない。ナダは優先順位を確かめつつ、翌朝に備えた。
・ ・ ・
そして朝、ナダとナギは、王都へと向かった。
リーシン姫とフォイは、フォルスに任せて、普通に旅人としてナダとナギは王都に入った。
グーファイ国王都ガイラン。東方の国にあって、西方とも比較的近いために、西で見かけた品や意匠が景色に混じる。東の国ではあるが、西の息吹も感じる。東洋的、つまりオリエンタルな中に、不思議な西洋感があった。
「同じ東方圏なのに、懐かしさを感じないというのがまた面白い」
ナダが正直な感想をいえば、ナギは言った。
「東の国といえど、歩国とはまた別。ひとまとめにされても困ります」
「西からみれば、全て東よ」
「その理屈で言えば、歩国より西の国はすべて西方ということになりますが?」
「東方圏なのに西方か、こりゃ面白い」
ナダは笑ったが、ナギは首を横に振った。
朝から町は賑やかで、見たところ平穏な日常の中という印象だった。昨日のお姫様騒ぎなどなかったかのようだ。
いや、偽者とはいえ姫が王都に戻ったことで、取り戻した平穏なのかもしれない。不明のままであったならば、住民たちも不安でざわついていたに違いない。
ナダは住民の会話に耳をすませつつ、特に自ら話しかけるでもなく王都を歩いた。異国の旅人に不思議そうな視線を向ける者たちもいたが、この程度はどこでもある普通のことだった。
警戒すべきこともなく、ナダは王都の中央を目指した。ボソリとナギが口を開く。
「道はわかります?」
「いいや。だが、あれだけ目立つ城があるのだ。迷うことはあるまい」
王都の中心、グーファイ国の王城グーランテンがそびえ立つ。どちらかといえば東の意匠が強い作りだ。無骨な西方の城と違い、神殿のような趣さえ感じる。
適当に道を流れて、城門にたどり着く。平時ゆえ、開かれた門。当然ながら警備の門番が立っていた。
「止まれ。何用か?」
この国の者ではないのは格好で判別がつくのだろう。門番が武器を手に威圧する。
――これはそよ風だな……。
銀の翼商会で本物の威圧を知ったナダは、門番が必死に威圧するさまに、可愛いとさえ思える精神を獲得していた。
しかし若いナギは、そうではないようで――
「無礼者。それが異国の客人を迎える態度か!」
「なに!?」
門番が、若い娘に非難気味の声を当てられ、眉をひそめる。他の門番たちも警戒感を露わにした。
「よしなさい」
ナダは、やんわりとナギを注意した。
「こちらの方々も、己の本分を尽くしておるだけだ。グーファイ国の兵士は優秀なのだ」
それはそれとして――ナダは、兵士に向き直った。ナギも背筋を伸ばして言った。
「こちらは歩国の第三王子である、ナダ・ヤマカミ殿下である。先触れにも通達した通り、今回はグーファイ国にお忍びで参られた。貴国の第一王子殿下との約束があるのだが……」
そんな約束はない。まったくのでっち上げである。
「歩国の王子だと……!?」
門番の顔が険しくなる。この手の王族の来訪などは、先触れといって事前に連絡をしておくものだ。それが知らされていない上に、お供がわずか一人で、王族に見えない戦士風の男。王子と名乗られても、疑わしく思っても不思議はない。
「先触れは出した。聞いてないのか?」
ナギは強い調子で言った。
「まさかお前たちは、王子と知って、なお無礼な態度を取るつもりか? 王子に何かあれば、歩国とグーファイ国は事を構える覚悟があるというのだな!?」
矢継ぎ早の言葉に、門番たちが少し引いた。もしかしたら――本物の王族かもしれない。その疑いが、彼らから自信を失わせる。
事前連絡があったにも関わらず、無礼を働けば、非はグーファイ側となる。それで国同士の問題に発展した場合、下っ端門番など責任をとって最悪死刑もあり得る。その迷いが、兵たちを不安にさせたのだ。
「しかし……いや――」
門番は同僚と顔を見合わせる。どう対応すべきか戸惑ってしまっているのだ。経験が浅いな、とナダは思った。
するとその門番の後ろから、別の兵が早足でやってきた。
「申し訳ありません、歩国の王子殿下。連絡の不備があった様子。殿下にお知らせいたしますれば、しばしこちらでお待ちいただけますでしょうか」
その門番が城内を指し示す。中で待てということだろう。ふむ、とナダは頷いた。
「よかろう。苦労をかける」
ありもしない訪問約束に混乱させて申し訳なかった。しかし、事はグーファイ国のリーシン姫の今後に影響する。お国の姫の事が絡むゆえ、勘弁してほしい。
しかし――ナダは苦笑する。
まさか、この旅で王子であることを明らかにすることになるとは、と。