軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談25話、回想、作り笑いの聖女

レーラ・グレースランドは、聖女である。

生まれた時から、強い魔力を持っていて、その力は周囲に癒しを与えた。彼女が幼少の頃に起きた災害においても、その祈りは多くの死にゆく人々を救った。

当然、そのような力を聖教会が放置しておくことはなかった。

神に祝福されし子供。その力をギフトとして贈られた少女。聖女としての人生をレーラは送ることになる。

聖女は、常日頃から周囲を不安にさせてはいけない。王族というより教会の一員としての行動が増えたが、周囲からの見られ方を意識した。グレースランド王国のみならず、周辺国で活動することが多くなった。

教会の大人たちが言うように出向き、神からの贈り物を、多くの人たちに分け、癒やしていく。それが当たり前の生活となっていた。

いつしか、自分というものを考えなくなった。周りの視線、行動を意識し、それが望むことを先読みして動く。それが自然となった。

私は世界を知っている――成長するに従って、レーラはそう思うようになった。ただ流れに任せていけばいい。聖女としての務めを果たすことが、自分の生きる意味だと。

しかし、世界は魔族の跳梁、魔王軍の侵攻によって、危機に瀕した。レーラを取り巻く環境もまた、破壊されようとしていた。

日ごとに、人々は魔族の話をし、滅びの時が迫っていると暗い話をすることが多くなった。

人々のために癒やしを。日々の祈りの中、自分の周りが壊れ、聖女としての人生が終わるのも、そう遠くないと思い始めた。

そんな時、エンネア王国で勇者召喚が行われた。異世界から勇者を招き、魔王軍に立ち向かおうというのだ。

そしてその勇者がグレースランド王国に来るという。聖女であるレーラは、異世界勇者が、こちらの世界に馴染み、その力を獲得するための修練に付き合うことになった。この時はまだ、レーラ本人も含めて、勇者パーティーに加わることになるとは、誰も思っていなかった。

かくて、レーラは勇者――ソウヤに出会った。

・ ・ ・

「君さあ、それ本当に笑ってる?」

挨拶の後、個人的に会話を試みたレーラは、若きソウヤにそう言われた。

「え、私、おかしいですか?」

「うん。なんつーか、作り笑いっていうのか。あんまり温かみを感じないんだよな」

面と向かって言われて、ショックだった。

周りからそのように言われたことはない。絶えず笑みを浮かべて、人々を安らいだ気持ちにさせてあげなさい――それが聖女。

教会の大人たちにそう言われて、聖女として振る舞ってきたレーラである。自分はうまくその務めを果たしている。それは自信でもあったから、会ったばかりの人間にそれを指摘されたのは衝撃であり、同時に羞恥が込み上げた。

――もしかして、私の笑顔って、みんな作り笑いだって思われていた……?

周りは気づいていても、聖女に遠慮して指摘できなかったとか? レーラ自身、教会の人間もまた作り笑いが多いと感じていた。だから自分はそうは見られないように意識して自然なものを心がけていたのだが。

これまで慰問に訪れた時も、聖女の癒やしを受けた人々は感謝をしてくれたが、そうした人々も内心では、『聖女様は作り笑いをしている』などと思っていたのではないか。

そう思った時、レーラの恥ずかしさは頂点に達して、ソウヤとの会話どころではなくなって、逃げ出した。

「え……? あれ……」

これには、ソウヤも呆然と見送ることしかできなかった。

かくて、レーラとソウヤの一対一での初遭遇は、わずか十数秒で終わった。

その後、勇者としての力を目覚めさせていくソウヤの訓練に付き合い、時に怪我をする彼を治療したり、見守ったりするレーラだったが。

「……あのさあ、無理に作り笑いはしなくていいよ」

見透かされていた。レーラは、自然の笑みを作ることにはそれなりにプライドを持っていて、ソウヤに指摘された後も、より自然なものにしようと努力を重ねた。

自分は聖女だから。何人たりとも不安にさせてはいけない。作り物で取り繕っている、などという『不安』を人々に与えてはいけない。皆が安心できるように、聖女は強く、人々の心を守っていかないといけないのだ。

そんなある日、ソウヤが酷い怪我をして、レーラがその治療をしている時だった。

「なあ、レーラ。人生、楽しい?」

唐突なソウヤの言葉に、レーラは言っている意味が理解できず、しばし固まった。

「楽しい……?」

――何を言っているのだろう? 楽しいって何?

些細な言葉だったはずなのに、それはレーラの心を蝕んだ。

自分が酷く醜悪な生き物に思えた。責められたわけでも、非難されたわけでもないのに、心の中をグチャグチャにかき回され、苦しくなった。

以来、レーラは自分の笑みが不自然なものに感じるようになった。作り笑いだと自分でもわかってしまうほど、酷い笑みだった。

聖女としてやっていけない。これでは人々を安心させられない。これでは駄目だ。自分が保てない。おかしくなる。壊れる。

それから二日ほど部屋に引きこもった。自分が失言したのでは、と気にかけたソウヤが謝りにきた。別に彼が謝ることではないのだが、その時、レーラは一つの決意を告げた。

「ソウヤ様の、魔王討伐パーティーに、私も加えてください」

教会にはいられなかった。こんな醜い聖女がいては、教会も駄目になるし、何より自分が許せない。

逃げたかった。今の世界から。だがそれも口に出来ないから、世界のため、崇高な使命を果たす勇者の旅に同行ならば、周囲への言い訳も立つ。

もちろん、ソウヤは危ないと言われた。王族である両親も、教会の大人たちも猛反対した。

だが、レーラは決めた。

今のままでは聖女はできない。この環境にいたら、自分が壊れるのがわかっていたから。

外の世界に出て、しばし聖女を演じることから距離を取るのだ。

反対を押し切り、本格始動した勇者パーティーにレーラは加わった。旅立ちの日、両親や幼い妹リアハに見送られて、レーラは旅立った。