軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談17話:ソウヤ、夕焼けを見る

「子供の成長ってのは早いもんだ」

ソウヤは目を細める。

フラムは、すくすくと育った。ドラゴンを野生生物というのは、少し違和感があるが、物覚えが非常に早く、言葉を話す前に走ったり飛んだりできるようになった。

「でも、それを言ったら、アナタも大したものよ」

ミストは言うのである。

「中々様になってるかい?」

「もうアナタは、ひとりで飛べるわよ」

ドラゴンとしての成長で言えば、ソウヤも同様だった。

人としての姿の時の力加減には、相変わらず苦労していたが、ドラゴンの姿になった時の動作は、一通りこなせるようになっていた。

本意ではなかったものの、次のアースドラゴンに認められ、受け入れつつあるソウヤである。

大地属性竜は、空を飛べないものも少なくないが、ソウヤはミストドラゴンの血の影響か、しっかり翼を出して空を飛ぶことができた。

「日の入りを見に行かないか?」

「二人で?」

「二人で」

ソウヤはドラゴンの姿で、クレイマンの浮遊島を飛んだ。背中の翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。人間ではちょっと味わえない感覚だ。飛空艇に乗るのとはまた違う。

浮遊島から飛び上がり、さらにその下に広がる大地を見下ろす。雲が流れ、山があり、海があって、町なども小さく見える。

上空を吹きすさぶ風も、さほど寒く感じないのはドラゴンの身体のおかげか。

俗世と離れ、隠遁生活。リハビリということもあるが、仕事や時間に追われることもなく、のんびりした時間が流れていく。

『時間の感覚ってのが、変わってきた』

『人間は、一日一日せこせこし過ぎるのよ』

ミストドラゴンは、ソウヤドラゴンの隣を飛ぶ。

『ドラゴンとしては、何もせず、巣穴でのんびりゴロゴロするのが当たり前なのよ』

『ああ、ドラゴンたちと接して、身に染みているよ』

銀の翼商会の頃も、ミストや影竜親子、クラウドドラゴン、アクアドラゴンが一緒にいたが、ソウヤの中では、あくまで人間社会の時間の中で生活していた。

朝起きて、皆に挨拶をしてご飯を食べて、一日の仕事をする。ジン・クレイマンの浮遊島での生活は、これまで通りの人間として過ごしているのだが、部分部分でドラゴン的なルーズ感覚が身につき出した。

つまり、昼まで寝て『おはよう』を言えば、ジンから『もうお昼だぞ』と突っ込まれはしても怒られない。商会の仕事もしていないから、寝坊がないのだ。

好きに起き、好きに寝る。ジンとて、ソウヤの生活に何も言わなかった。アクアドラゴンは、適当に惰眠を貪っているし、クラウドドラゴンも自由だ。

『ただし、フラムは除く』

あの幼いファイアードレイクは、好奇心が旺盛なのか、とにかく起きて、動き回る。

ソウヤなどが寝ているもお構いなしだ。なので、最近は寝ている間に蹴られたり潰されたりしても大丈夫なようにドラゴン姿で寝ていたりする。

『アナタ、少し鈍感になり過ぎていない? いくらドラゴンでも、周囲の変化に即応できないと、人間に狩られるわよ?』

『フラムが俺に乗ってることか?』

寝ている間に背中に乗ったり、頬をペシペシと叩いたりと、フラムは構ってほしいのか、いたずらっ子じみた行動をしているという。

だがドラゴン状態だと、ちょっとやそっとでは傷つかないし、再生力もあるので、無視できる範囲ではある。

『その辺りは、確かに鈍感になっているかも』

一種の無敵感があると、攻撃に対しても平然としていられるのだ。ただ、油断はするべきではない。

『わかった。気をつけるよ』

ソウヤドラゴンとミストドラゴンは、滞空して地平線に沈んでいく夕日を眺める。浮遊島の空はすでに赤と黒の中間に紫となっていて、星が瞬き出している。

『これも贅沢だよな……』

『そう?』

『人間だと、こんな特等席で大自然を感じている余裕は中々ない』

『人間は細か過ぎるのよ』

ミストは笑った。ソウヤは苦笑する。

『そういう社会なんだよ。人間ってやつは』

『そうかなぁ……。住む場所、種族とか、色々違うと思うけど?』

『確かに』

都会人と自然に住む人では、環境も習慣も違う。一括りにはできない。

『こんなことを言ったらなんだけど、ワタシは見慣れた自然より、人間社会から見る景色も刺激があって嫌いじゃないわよ?』

『人それぞれ、ドラゴンでもそう、か』

大自然が当たり前の生き物にとっては、この雄大な景色も日常であり、ソウヤのように特別な感動は薄い。

『そう聞いてしまうと、人間社会も懐かしくなるな』

もうドラゴンでもいいかな、と思いつつあるソウヤである。大地属性ドラゴンの長として、どっしり大自然に構えるというのも悪くない。

――まあ、長と言っても、別にすることはないんだけど。

四大竜で顔を合わせる時とか、ドラゴン界隈での危機の際に集まるくらいで、それ以外は自由だ。何なら人間社会に戻って、再び商売を始めて過ごしてもいいのだ。

『人間社会に戻るなら、リハビリ、早く終わらせないとね』

ミストは目を細める。ソウヤはドキリとした。ドラゴン顔なのに、人間が異性にときめくような感情を抱けるようになったのは、だいぶドラゴン化が進んだ影響かもしれない。

白きドラゴンのミストは、美人だとソウヤは感じるのだ。

『向こうが落ち着いたら、銀の翼商会の仲間たちにも、たまには会ってもいいと思うわ』

『そうだなぁ……』

向こうにとっては、ソウヤもミストも死亡扱いではあるのだが。

仲間たちは、それぞれの道を歩き出している。十年前のそれと、同じように。ソウヤがいようがいまいが、世界は回っている。

会わないという選択肢もある。このまま人間世界から、フェードアウトすることも。ただレーラとかセイジとか、ソウヤの生存を信じている者たちのためにも、報告はしたいとは思っている。

――その後は、どうするか、だよな……。

半分ドラゴンとなったソウヤ。世俗と離れたことで、その生き方、今後の身の振り方についても考える必要がある。

銀の翼商会に戻るか、と言われると、どうなんだろうというのが今の気持ちだ。

――ま、追々考えるさ。

今は、リハビリを終えて、人間の姿でも自立できるようになるのが先。後のことは、その時考えればいい。

……もしリハビリが上手くいかなければ、ドラゴンとして隠居生活である。

地平線に沈んだ太陽に背を向けて、ソウヤとミストは浮遊島の大地に戻るのだった。