軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おまけ1:新年といえば、着物でしょう(前編)

魔族との戦いが終わり、一度は……いや10年ぶり二度目の死んだと思われた勇者ソウヤは、命を取り留めた代償にハーフドラゴン化し、現在、人間社会に適応できるようにリハビリの最中だった。

ジン・クレイマンの浮遊島は、世間に知られることなく、大空を巡回しており、ソウヤも誰の目も気にすることなく過ごすことができた。

「あら、お爺ちゃん。今日は変わったローブを着ているわね」

ミストが、伝説のクレイマン王ことジンを見かけて、そう声を掛けた。何事かと視線をやったソウヤは、思わず目を見開いた。

「和服だ!」

魔術師ローブ? 否、老魔術師は、日本の伝統衣装である和服姿で正装していた。ミストが顔を向けた。

「ワフク?」

「オレの世界の、故郷の伝統衣装ってやつだよ」

もっとも、普段から着るものでもないから、ソウヤ自身は数えるほどしか身につけた経験はない。

「どうしたんだよ、爺さん。めかし込んで、どこかへお出かけか?」

「こちらの世界でも、明日で新年だからね。つまり日本風に言えば、今日は大晦日、明日はお正月ということになる」

ソウヤと同じく、異世界人で日本人であるジンである。

「長年、色々な世界を渡り歩いているが、こういう行事をやっておくことで、自分のルーツを忘れないというね。……まあ、儀式みたいなものだよ」

「こっちの世界じゃ、和服は見ないからなぁ。新鮮だよ」

懐かしく思うソウヤ。確かに正月とかだと、着物や振袖で初詣に行く姿を見かけたものだ。

「初詣は服装自由で、和服に拘ることはないんだが、まあこれも伝統だよ」

ジンは袖に手を入れて腕を組んだ。……普段の魔術師姿でのそれと違和感がないのは、不思議ではある。

「こっちの世界のルールではないが、この島には神社があるから、個人的に初詣をしているのだがね……。ソウヤ、何なら付き合うか?」

「……そうだな」

初詣――家族で出かけたりはあったが、ここのところご無沙汰だったので、久しぶりに行ってみるのも悪くない。

「新年を迎えるんだし、いいかもな」

「衣装はどうする? 着物も一通り揃っているぞ」

「あんま着物って着たことないんだよな……」

「なら、いい機会だ。そう毎日着るものでもないし、たまには着てみたらどうだ?」

ジンが勧めてきた。話に加われず、興味津々の顔をしているミストを見て、彼女に見せてみるのも悪くないかもしれないとソウヤは考えた。

・ ・ ・

クレイマン屋敷。機械人形メイドたちが働く姿をよそに、ソウヤとミストは、ジンに連れられて、その一角にある衣装部屋に到着した。

「親戚の結婚式を思い出した」

大きく広い衣装部屋だった。ジンが、機械人形メイド――ヴェルメリオに合図すると、衣装棚が展開した。

「好みはあるか?」

「あんま詳しくないんだ。着れれば何でもいいよ」

「衣装に無頓着な男の言いそうなことだ。とりあえず、色くらいは選べよ」

ジンに促され、ソウヤは早速眺める。と、そこへドラゴン勢がやってきた。仙人風のアースドラゴン、灰色髪の美女クラウドドラゴン、青髪ツインテール少女のアクアドラゴン。

「呼ばれてきてやったぞー!」

アクアドラゴンが声を上げる。クラウドドラゴンが首を傾げて、ミストを見た。

「大事な話って何?」

「明日、人間たちの世界では年が変わるそうなのよ」

ミストの説明に、伝説の四大竜の面々は頭の上に疑問符を浮かべた。わからない3人にミストが、ジンから聞いた話を説明した。

「――人間の行事か」

ふむ、とアースドラゴンは、何とも言えない顔になる。ミストは腰に手を当てた。

「気持ちはわからないでもないけれど、この二人がお参りする場所が問題なのよ」

「お参り?」

「人間の神のことなど知らぬぞ」

怪訝なドラゴンたちに、ミストは深刻な表情のまま告げた。

「祀っているのが、神竜様なのよ」

「!!!」

四大竜の面々に雷が走った。伝説の四大竜のさらなる伝説。ドラゴンの中の頂点、ドラゴン界の神である。その神竜を崇める儀式と聞いて、ドラゴンとしては捨て置けなかった。

「それを知ったからには、無視もできぬ」

アースドラゴンの言葉に、風、水の大竜は頷いた。普段、神だの他の種族のことはどうでもいいドラゴンたちにとっても、神竜だけは特別なのである。

「そこにあるのが、その儀式用の衣装か?」

「え? は?」

ソウヤは目を丸くする。人間流の行事、初詣については、先ほどミストから聞いているドラゴンたちである。ジンは頷いた。

「男性用、女性用はありますがね。まあ、特にルールはないので、気に入ったものを選んでくれれば、着付けはしますよ」

人間姿のドラゴンたちは、明日の衣装の物色を始めた。ドラゴンたちが、人間ナイズされた衣装を選ぶ――ソウヤはその光景にただただ呆然である。

ソウヤが紺色の着物を選び、アースドラゴンは灰色を選択した。――何故かはわからないが仙人風のせいか、和装がよく似合っていた。

そして女性陣は――ああだこうだ言いながら、振袖選びをしていた。

「凄い模様……」

「キラキラしているぞ! なんじゃ、この細かい造りは!」

「あ、これよさそう――」

何とも騒がしいことだ。ソウヤは目を細めて、ドラゴンたちを見守るのだった。