軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第642話、そして伝説になった

ウェルド大陸を襲った魔王が倒れて、3年の月日が流れた。

「セイジ社長! よろしいですか!」

「はい」

セイジは呼ばれたので振り返った。

ここはエンネア王国、トリス村――森の中にある集落。その村の真ん中に、浮遊バイクと浮遊車の一団が止まっている。それぞれ銀色の翼のマークが描かれている。

「村長さんがご挨拶に」

「や、これはセイジ社長」

「ヘクトンさん。わざわざお見送りとは痛み入ります」

セイジは答えた。すっかり禿げ上がった頭のヘクトン村長は頷いた。

「今回もありがとうございました。また次に来られるのを楽しみにしております」

「こちらこそ」

セイジは村長と握手を交わした。

「もう、3年ですな」

「そうですね……」

どちらともなく、空を見上げる。

ウェルド大陸を襲った魔王の軍勢とファイアードラゴンの軍勢。それを勇者ソウヤが撃退し、はや3年。

魔王ドゥラークは、勇者ソウヤに討たれた。魔族も炎の大竜の軍勢によって滅ぼされ、暗黒大陸からも姿を消した。

平和が訪れた――人々はそう思っている。

「初めて銀の翼商会さんが訪れてくれた日のことを、今でも思い出します」

ヘクトンは視線を落とした。

「わしが生きている間に、もう一目だけでも、ソウヤ様のお姿が見たいですなぁ……」

3年前、魔王は倒された。だがその最後の自爆は、勇者をも消滅させた。

セイジは現場を見ていない。銀の翼商会の面々も誰ひとり、その最期は見ていない。

「……ま、そのうち、会えるかもしれませんよ?」

セイジは微笑を浮かべた。内心では、嘘をついている気分だが、顔には出さなかった。

「だってあの人、一度死んだことになっていましたからね」

先代魔王を倒して十年、眠り続けた勇者。公式には死んだとされていたが、3年前に銀の翼商会を立ち上げ、またも魔王を倒した。

「そうでしたな」

苦笑するヘクトン。

「また、会えるといいですな」

・ ・ ・

勇者ソウヤと魔王は炎の中に消えた。だが誰もそれを見ていないなら、本当に魔王が死んだかどうかわからないではないか?

その問いに対する答えは、アクアドラゴンの証言だった。

『魔王はソウヤに討たれた。それは間違いない。大竜として保証する』

水の大竜は、それだけを言い残して去った。

ソウヤと魔王、その場にいたミストとクラウドドラゴンも、姿を見ていない。魔王の自爆はかなりの範囲に及んだ。それに巻き込まれたのでは、と残った銀の翼商会の面々は考えた。

魔王は消え、魔王軍もなくなった。人類連合も解散となったが、尊き勇者の献身と犠牲に、それぞれの国で追悼が行われた。

銀の翼商会は、それぞれの追悼式典に招待され、亡き勇者に哀悼の意を表する人々を見守ることとなった。

エンネア王国では、アルガンテ王、ペルラ姫、カロス大臣。ニーウ帝国では、ブロン皇帝など、多くの者が涙を見せた。

一方で、銀の翼商会は、残ったメンバーの話し合いにより、その規模を大きく縮小となった。

万能のアイテムボックスを保有するソウヤがいなくなった結果、業務のいくつかが遂行できなくなったのだ。

こればかりは教育云々でどうにかなるものではなく、商売道具がないので店仕舞い、というのが正しいだろう。

大陸に知れ渡った銀の翼商会の名だが、こうした追悼式典は、事業の縮小を顧客たちに伝えるいい機会にもなった。

銀の翼商会の創設者であり、大黒柱だったソウヤがいなくなっては仕方ないと、皆理解を示した。銀の翼商会=勇者ソウヤの商会だったのだから。

それがあったから、というわけではないが、一つのきっかけではあった。

銀の翼商会のメンバーたちも、それぞれの道を歩み出した。

何せお金は、個々のメンバーが一生遊んで暮らせる分以上を稼いでいたから、言ってみれば仕事をする必要もなかったのだ。

ただ、それでも銀の翼商会の最初期メンバーである、セイジは、ソウヤからもらったアイテムボックスを宝物として大事にしつつ、輸送業と行商としての銀の翼商会を続けた。

あいにくと生き物は入らないし、保存もさほどできないが、容量だけはたっぷりあるからこと輸送では、全然活用できた。

なお、セイジが銀の翼商会を続けるにあたって、ソウヤの使っていた浮遊バイク、コメット号を引き継いだ。

まだ人数のいなかった頃、ソウヤとセイジでこのコメット号を動かしていたから、セイジとしても愛着があった。

また飛空艇も、『ゴルド・フリューゲル号』を銀の翼商会は保有しているが、残りの船は売却した。

1隻は個人に、2隻は、グレースランド王国に。

ライヤーは、ゴールデンウィング二世号を、銀の翼商会から購入した。

彼は探検家兼、古代文明研究家として、世界中を飛び回るという夢を叶えた。

「ソウヤの旦那に、お前が船長だって、コイツを預かったからな。……新しい船を買うって気にはなれなくてよ」

そうライヤーは笑った。それでも律儀にゴールデンウィング二世号は買い取るのだが。

ともあれ、彼は相棒であるフィーアと共に、研究と冒険の日々の羽ばたいていった。

なお、勇者ソウヤとの日々と冒険を綴った本を書いているのだという。完成したら、一番にセイジに届けると、ライヤーは言った。

あまりに長くなるから、複数冊になるとのことだ。たぶん、クレイマンの浮遊島が出る辺りが一番人気が出るんじゃないかとライヤーは言ったが、セイジは否定しておいた。

やはり、魔王との戦いの場面だよ、と。

「だが、そこ、おれら見てないんだよな!」

カラカラと彼は笑うのだ。

不明者といえば、ジン・クレイマンも、魔王軍との最終決戦で消えて以来、誰もその姿を見ていなかった。

聞いた話では、ドラゴンの眷属を異世界に飛ばす過程で、ジンもまた海賊船サフィロ号と異世界へ行ったらしい。

帰ってくると言っていたらしいが、セイジたちの前に現れることはなかった。

リッチー島に言ってみれば、そこにあった町もなくなっていて、彼の浮遊島もまた行方がわからなくなっていた。

人形たちには、自分が消えたら姿を隠せと命令していたのかもしれない。彼の遺産は、誰も手の届かないところに消えてしまったのだ。

セイジにとっても、あの老魔術師は教師のような人だったから、彼に何一つ礼が言えなかったのは心残りだった。

「社長、社長!」

「何だい、ティス」

呼ばれてセイジは顔を上げた。ゴルド・フリューゲル号に乗り、移動しようとしたところで、魔法格闘士であり、銀の翼商会の同僚であるティス・リゼルは声を張り上げた。

「生まれるって! ……子供!」

「……! それって!」

セイジは目を見開いた。

「ソフィアが!?」

1年前、セイジはソフィアと結婚した。