軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第641話、勇者の意志

勇者は自身の持つアイテムボックスに、魔王を封じた。

ソウヤはミストドラゴンの背中に乗り、辺りを見回す。ゆっくりと降下する霧竜に、クラウドドラゴンが近づく。

『うまく乗れたようね、ソウヤ』

「クラウドドラゴンか。さっきの風はあんただったか? ありがとうな」

『どういたしまして』

風の大竜は淡々と礼に応えた。彼女ならば、ソウヤの落下を押し返す強さの風を起こすなど朝飯前だ。

「プラタナムは?」

魔王竜に側面から衝突した飛空艇はどうなったのか? 魔王を収納することに神経を集中させていたから、見ていないのだ。

プラタナム号は右舷を下に墜落していた。エンジン部分が潰れて吹き飛んだのか、後部から煙が上がっている。

燃えているのなら消し止めれば、まだ修理できるのではないか?

ソウヤはミストドラゴンに呼びかけた。

「降りてくれ」

霧竜とクラウドドラゴンは、墜落したプラタナム号のそばへと降下した。ソウヤがドラゴンの背から降りると、彼女は人型の姿になる。

「魔王も捕まえたし、後はプラタナムを何とかすれば、今回の騒動はこれで決着ね!」

「魔王軍も壊滅したし」

クラウドドラゴンも灰色髪の女性に変わる。

「ファイアードラゴンの姿もないところから見て、あれも片付いたでしょう」

「いれば、今頃暴れまわっていたでしょうし」

ミストがニンマリとしたところで、不意に声が割り込んだ。

「ほう、誰を捕まえたって?」

「!?」

その瞬間、ミストの腹部から剣が突き出した。ソウヤもクラウドドラゴンもギョッとする。

ミストの背後に、人が立っていた。

銀髪の青年だ。しかし身に纏う黒き甲冑は、身分の高さを感じさせる。天空城をアイテムボックスに収納する前に、クラウドドラゴンと戦っていた敵で、魔王竜になる前の姿ではないか。

「ミスト!」

光り輝く剣が、彼女の体から引き抜かれる。ミストは力なく倒れた。

「お前ぇっ!!」

ソウヤはアイテムボックスから斬鉄を取る。青年はすっと、ミストを跨いで前に出た。

「どういう手品を使ったかは、知らないが、貴様は実に危険だ」

「……」

ソウヤは斬鉄を構える。だが内心では、疑念が渦巻く。

――俺は、魔王をアイテムボックスに収納したはずだ……!

魔王竜にプラタナム号が衝突し、それと引き換えに時間の止まった空間へ放り込んだはず。

それが何故、外で平然としているのか。

「何を不思議そうな顔をしている? ……身代わりだよ。立場上、私は簡単に死ぬわけにはいかないからな。保険はかけておくものだよ」

その保険が何かはわからないが、アイテムボックスに収納したはずの魔王を、そこから逃す何かだったのだろうか。随分とチートな身代わりだ。

アイテムボックスの中身リストを確認したいが、さすがに魔王を前にして、よそ見をしている余裕はない。

「決着をつけよう、勇者。我が父の仇である」

「親父さんは生きているって言ったら信じるかい?」

ガッ、と魔王ドゥラークが地を蹴った。一瞬で詰め寄り、手にした光りを纏う剣が繰り出される。

刹那。一閃。瞬きの間の斬撃を、ソウヤは大剣で阻止した。

「ほぅ?」

ドゥラークはニヤリとした。

「さすがだ」

魔王が連続して剣を繰り出した。それは光。だがソウヤは防ぐ。突き、切り、払い、あらゆる方向からの多彩な猛攻を、斬鉄は弾いた。

「見事だ、勇者。……だが!」

秒速で放たれる魔王の剣に、斬鉄が欠ける。ヒビが入り、端が欠け、ボロボロに砕けていく。

元々剣の形をした塊といった斬鉄も、今や大剣の形を留めていない。刃は欠け、もはや斬ることもできない金属の棒は、しかし折れない。

「よい剣だ。だが、この太陽の剣には耐えられまいっ!」

魔王の斬撃に、斬鉄が折れた。否、砕けた。まるで最後まで折れるのを拒んだかのように。

見事だ――魔王は、勇者の持つ大剣の不屈の魂に、ほんの一瞬敬意を抱いた。あの愚かな炎の大竜よりも、遥かに誇り高い。

だがこれで――

魔王は勝利を確信する。次の瞬間、勇者の体を太陽の剣が引き裂いて……。

光が走った。

突然、ソウヤの手に新たな剣が現れ、ドゥラークの一撃を防いだ。

清き光を宿した神聖剣――ディバインブレード。勇者の剣だ。

ドゥラークは一瞬心臓が止まった。

神聖剣を見たからではない。剣を持った勇者の目を見て、その鋼よりも固い意志を感じたのだ。

いや感じたなどという生易しいものではない。その意志は力を持って、魔王の精神を威圧したのだ。

ファイアードラゴンからさえ感じなかった威圧感。そしてその熱き意志が、マグマのようにドゥラークの精神を飲み込んだ。

ソウヤは神聖剣を振るった。途端に、ドゥラークは守勢に回った。攻守が逆転した。

速い。これまで見てきたどの攻撃よりも。

重い。これが人間の繰り出す力だというのか。

一撃一撃が、強靱な体を持つドゥラークの神経を痺れさせ、腕に負荷が掛かる。軋む、体が悲鳴を上げる。

魔王を倒す存在。

その名は勇者。その豪腕は魔王さえねじ伏せる。圧倒的なスピードとパワー。

太陽の剣は折れない。だが、ドゥラークは反撃の間すら掴めない。剣を前に出しても、防ぐ以上は進めない。出せない。

――これは、死んだな……。

ドゥラークは己の運命を察した。これが勇者、魔王を倒せし者。その剛の者と最後に刃を交わせたことは、我が人生の最期にふさわしい。

――だが……!

剣が弾かれた。次の瞬間、ディバインブレードがドゥラークの胸を貫いた。全身を駆け巡る浄化の炎。

――私は負けず嫌いでね。

続きはあの世で。

ドゥラークの体がエネルギーとなり、広範囲爆裂魔法を発動させた。爆発がソウヤの体を飲み込み、辺りを焼き払った。