軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第628話、黄金の魂

陰気で暗い遺跡だった。いや、明るい遺跡など、野外でなければそうそうないものだ。

わずかに滑りのある石の床を踏み、ソウヤたちは深部へと到着した。

エイタの肩に乗っているリムが恍惚とした口調で言う。

「ここ。ここに魂があるわ……」

「……」

ここが神殿だった、というのなら、祭壇があるのは当然だったかもしれない。整列している20名ほどのローブをまとう魔族たち。

祭壇の上には、黄金に輝く球体があり、その側で魔術師らしい魔族が、聞いたことのない呪文を詠唱している。

ジンが、ソウヤの肩を叩いた。

「いたぞ、ザンダーだ」

祭壇脇に、灰色ローブの魔術師がいて――

「フードしているのに何でわかるんだよ?」

この場にいる魔族たちは皆、お揃いの灰色ローブ姿である。しかもザンダーの素顔を知らないソウヤである。

魔法大会の時もフードで顔を隠していた。

「……それはそれとして、何か雰囲気がヤバくないか?」

魔族たちは何らかの儀式の最中なのは明らかだ。ジンは言った。

「彼らが以前から企んでいた、主とやらを蘇らせているのだろう。……あれだけの魂を集めたのだから」

――やっぱ、あの金色の球体は魂か。

ソウヤは祭壇の上に浮いている球体を睨む。

「爺さん、あれが何だかわかるか?」

「魂だろう?」

「そうじゃなくて、あいつらが呼び出そうとしているモノってのは何だってこと」

「私にわかるものか。神様ではないのだから」

ジンは冗談めかすが、目は笑っていない。祭壇や魔術師の一挙手一投足を注視している。

「だが、確証はないが、神様を喚ぼうとしているようだ」

「わかるのか?」

「少しな。彼らの主というのは、神らしいが……それがどんな神かはわからない」

悪神か、そうでないのか。魔族が儀式をしているからといって、それが悪と決めつけるのは偏見というものだろう。とはいえ――

「悪神なら、すぐにでも止めないとヤバいだろ」

ソウヤが呟くと、近くの柱に身を潜めていたミストがわずかに動いた。

「……行く?」

「少し待て」

魔族たちに気づかれないように声を落とすソウヤ。ミストなどはいつでも突入できるように竜爪槍を握り込んでいるし、ガルなども素早く動けるように構えていた。

「……爺さん?」

「待て。この手の儀式というのは非常にデリケートなんだ。無闇に突っ込んで、バランスを崩せば、こんな遺跡くらい軽く吹き飛ばすような――」

老魔術師が言い終わる前に、祭壇に変化があった。詠唱していた魔術師が突然、言葉を切ったのだ。

詠唱が終わったのか――そう思ったソウヤだったが、そうではなかったようで、当の魔族たちが困惑しているようだった。ザンダーと思われるフードを被った魔術師もまた動揺しているようだった。

と、そこで祭壇の上に浮遊していた黄金の球体が、ふらっと動き出した。

「って、こっちへ来る!?」

「リム!」

エイタの声がした。見れば黒猫もどきが飛び出し、それが黒髪の美少女の姿になると、その手に巨大な黄金の球体を掴んだ。

「フフ、いっただっきまーす!」

あいつ――! 何をやらかしたのか、ソウヤたちは理解できないが、おそらくマズイことをしているのだろうことはわかった。

当然、魔族たちは侵入者の存在と、その侵入者が魂の球体を奪ったことで臨戦態勢に入った。

そんな魔族たちの前で、リムは両手で抱えるより大きな魂の球体を喰った。貪り喰うように、グチャグチャとムシャムシャと、意地汚く、魂を喰らうとはこうも醜く、そして音が出るものなのか?

『ニンゲン!』

魔族が慌てるのも無理もない。しかし黄金の球体だった魂の密集体は、美少女によってあっという間に食べ尽くされてしまった。

「ごちそうさまでしたァ」

指先に残る欠片でさえ舐めとるリム。

「やはり、魔族の魂って質はいいんだけど、味は良くないわねぇ。人間の魂も混ぜたらもう少しマシになるのかしら……?」

『貴様、よくも――!』

魔族魔術師が魔族共通語で怒鳴る。

『闇の神を降臨させるための生贄が――』

「異世界の神様へのお供え物なんて、アタシの知ったことじゃないわ」

リムは拗ねたように唇を尖らせた。

「捕られる方が悪いのよ、クズども」

『殺せぇー! 殺せぇー!』

魔術師が叫ぶと、魔族たちは武器を抜き、一斉に向かってきた。ミストやガルが飛び出し、こちらも迎え撃つ。

「リムが、凄ぇ悪いことをしたんだろうなってのはわかる」

ソウヤは斬鉄を振るい、突っ込んできた灰色ローブをなぎ倒す。

「だが、魔族がやっつけろっと言ったのもわかった」

魔族共通語も、片言だがソウヤは理解している。馬鹿とかクズとか、大抵、人間や他種族への罵詈雑言になるが。

「爺さん、リムなんだが、アレいいの?」

多数の魔族の魂を喰らい、見た目は少女なれど力が溢れているのを感じる。それだけ生物の魂というのは力強いものなのだが。

「いくつの魂かは知らないが、ここに来る前に彼女が言っていたのを信じるなら、数千の魂だ。そんなものを直接取り入れて平然としているのは、器が違う」

「褒めているのか、爺さん?」

「まさか。化け物だよ、彼女は」

ジンはアイスブラストの魔法で、敵魔族を貫く。

「ソウヤ……!」

新たな声がした。目の前に灰色ローブの魔術師が立つ。この声は――

「ザンダーか?」

「まさか、こんなところで再び会うとはな……」

「本当はこうなる前に、話がしたかったんだがな……!」

斬鉄を構えるソウヤ。

「何か、うちの仲間が、おたくの大事な儀式を潰しちまったようで、とりあえずすまん。まだ話をしてくれる気があるなら答えてくれ。闇の神ってのを呼び出して、何をするつもりだったんだ?」