軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第626話、あの装置の行方

ソウヤが自身の思いつきについて、間違いがないか思考している間、そうとは知らない周りは話を進める。

「障壁を突破するにも、浮遊城を制圧するにも面倒なのが、周囲を取り囲む飛空艇艦隊だ」

ジンが言えば、ライヤーが手を挙げた。

「今でも100隻以上の敵がいるんだよな? 人類側はどれくらいの船があるんだ?」

「先に挙げた五カ国以外にも一応参戦する予定だが、それでも50隻くらい。よくても60隻程度だろう」

「半分以下かよ……」

「大中小、とりあえず戦闘できる船をかき集めてそれだ。しかし敵は全て中型以上、大型未満の船で統一されている」

ジンはきっぱりと告げた。ファイアードラゴンとその眷属に、リッチー島傭兵同盟艦隊がやられた分、人類連合艦隊の戦力が思ったより増えていない。

「こちらは敵を待ち受けるわけだが、数が数だから結局は力押しになる。プラタナム号やサフィロ号が性能で魔王軍のクルーザーを圧倒しているとはいえ、他はそうではない。まともに戦えば、負けるだろうね」

「あー、こっちからひとついいか?」

サフィロ号船長のエイタが手を挙げる。

「何だね?」

「うちのリムが、ちょっと話があるそうなんだが……」

エイタのそばで、黒猫っぽい何かの姿をしているリム。ジンは露骨に顔をしかめた。

「いい予感はしないが、どうぞ」

「どうも……。そう邪険にしないでおくれよ、ジン」

リムはテーブルの上に座った。

「実は、暗黒大陸とやらでドラゴンと眷属がやってくる少し前なんだだけど、魂の声が聞こえたのよ」

「魂の――」

「声?」

レーラ、ミストらが顔を見合わせる。ジンは眉間にしわを寄せた。

「それは、どれくらいの規模の?」

「2000、いえ、3000人くらいかしら……?」

うっとり、というか恍惚とした声を出すリム。

「30秒くらいの間かしら。人……いえ、魔族ね。それだけの魂の悲鳴が聞こえたのよ。もう脳味噌が揺さぶられるくらい、スッゴイやつ! アタシはイキかけたわ……」

ジンが頭を抱えている。どうもあまりよろしくない内容だろうことは、周囲も察した。何がどうよくないのかは、わからないけれども。

リムは続けた。

「素晴らしい芸術だった――。数千の肉体が滅びて、叫びあげる魂の声が――」

「リム」

「……ああ、わかったわよ、そんな顔をしないで。とにかく、何を言いたいかというと、一度に数千規模の生命体の肉体を滅ぼして魂に変えてしまう魔法だか魔法陣が、この世界に存在しているって話よ」

「……!」

ソウヤとジンは顔を見合わせた。ミストやリアハらが驚く横で、ソウヤは言った。

「爺さん、リムの言っている魔法って――」

「魂収集装置だ」

魔王軍が、先代となった魔王を復活させようと、人間の魂を集めようとした魔道具、いや魔法装置。エンネア王国の魔法大会に仕掛けられていたもの――それが使われたのか。

「ザンダーか?」

「だろうね。あるいは彼の所属している組織か」

「――まあ、詳しいことは知らないけれど」

リムは猫の顔で小首を傾げた。

「その魂収集装置とやらを、魔王軍の進撃ルート上に仕掛けられたら……最高に楽しい魂の歌声が聞こえると思わない?」

チロリと舌を覗かせる黒猫もどき。ジンは真顔になった。

「なるほど。確かにそれが実行できたなら、この劣勢を覆し、敵艦隊の殲滅、そしてあわよくば浮遊城と魔王の命も狙えるかもしれない……」

ライヤーやオダシューの目が点になる。ジンは顎髭を撫でた。

「いや、浮遊城の障壁が、装置の魔法効果を無効にするかもしれない。……しかし、やりようによっては、人類連合艦隊に損害を出すことなく、上手く事が運ぶかもしれない」

「いっそ、ドラゴンと眷属たちも、その魂収集装置に巻き込んだらぁ?」

リムはニヤリとした。

「味方の被害を出さずに、一網打尽にできる最良の手かもしれないわ」

霧の魔女、恐るべし。敵を殲滅することにかけては、平然と大胆な手を考える。

殺戮大好き霧の世界の魔女の策は、末恐ろしいことに、敵には致命傷を与え、自軍の損害をほとんど出さないかもしれないという、実に魅力的なものであった。

さらに始末が悪いのは、装置を使って魂に変える対象が、まともに戦ってもどうせ殺し合いをするのが確定しているということだ。

どの道倒さなければならない敵に使用するというのは、普通に攻撃兵器や魔法を使うのと何ら変わりがない。

関係ない人間を生贄にして――とか、そういうことをしない分、生き物を殺して魂を集めるという、どこか嫌悪感を感じさせる行いですら、薄れさせてしまうのだ。

そう、何ら躊躇う理由がないのである。

「どう思う? 爺さん」

「まともに戦い、出るであろう味方の戦死者のことを考えるなら、リムの策は現時点で最善策だ」

ジンは断言した。ソウヤは、エイタを見た。

「リムの策、どう思う、エイタ?」

彼女との付き合いが長いエイタだ。彼らの世界におけるラスボスだった、リムの策に何か裏とか感じ取っていないだろうか?

こうまで慎重な気分になるのは、やはりというかソウヤは、リムに対して一種の疑いというか、危険なものを感じ取っているからだった。

「悪くないアイデアだと思う。犠牲が少なくなるなら、それに越したことはない」

「……オーケー。他にリムの案に、思うところがあるものはいるか?」

ソウヤは一同を見回した。ミスト、クラウドドラゴンは頷き、レーラは神妙な顔をしているものの意見はなし。リアハ、カマル、ライヤーらも異存はなかった。

「決まりだな。魂収集装置を利用して、魔王軍と、できればファイアードラゴンとその眷属も倒して、今回の事態に決着をつける」

方針は決まった。次に細部を詰めていく。

「魂収集装置は、今どこに?」

破壊したと見せかけて、魔族の魔術師ザンダーがすり替え、持ち去ったのを確認している。魔王軍との潰し合いを期待して、しばらく泳がせていたが……。

――もしかしたら、リムが聞こえた魂の声ってのは、その魔王軍相手に装置を使ったのかもしれない。

あるいは逆に使用されたとか。――いや、それはないか。

魔王軍に装置があれば、ドラゴンとその眷属の迎撃に用いていただろう。それをせずにわざわざウェルド大陸に来たということは……そういうことなのだ。