軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第590話、消えた遺体

ソウヤの本音を言えば、エルフとの商売はあまり期待していなかった。

そもそも、他の種族と関わりを避ける傾向にあるエルフである。よそ者が珍しいと思っても、『ようこそ、外の話を聞かせてくれ』より、『さっさと出て行け』がデフォルトなのだ。

とはいえ、せっかく来たのだから、何もしないというのももったいない。さらにエルフの長は、『どうぞ』と許可してくれたので、やらないわけにもいかなかった。

駄目なら、長が許可しないだけなのだ。

そんなわけで始めた商売だが、意外なことに、浮遊ボートに興味をもたれた。今回、森に来た時に、空の飛空艇からボートでやってきたソウヤたちだが、そのエルフは言った。

「ボートは売り物かい?」

「売り物はここにはないが、調達はできるぞ」

リッチー島で、新品の浮遊ボートを手に入れられるのだ。

「買うのかい?」

「ツリーハウスの行き来にあれば便利そう」

そのエルフ曰く、巨大樹群生地帯にあるエルフの家は、その木の上のほうにある。高いところにあるから、上り下りするには梯子やロープを利用する。巨大樹にはそれぞれ橋も掛けられていて、家から家への移動はその吊り橋を使う。

「あの浮遊するボートがあれば、空中の吊り橋の修理に便利そうじゃないかと思ってね」

「なるほど」

場所が場所だけに、普通の梯子では届かない。どこか壊れただけでも、かなり面倒なのだが、浮遊ボートがあれば足場代わりに使える。ついでに脚立などと違って、補修部品や工具も一緒に持ってこられる。

高い場所に住む者特有の需要だった。

「家に上がる時に、重い荷物もボートで運べるな」

「よほど重いものを上まで運ぶ必要がある時は、浮遊魔法を使える者を呼んだりするんだがね……。確かにボートがあれば、わざわざ呼ばなくていいな」

エルフは頷いた。ソウヤはメモを取る。

「浮遊ボート、っと。近いうちに用意するよ」

まずはお試しで一艘。他に需要ができれば、銀の翼商会を通して注文する、という流れになった。

――浮遊ボートか。

十年前の時も思ったが、エルフの戦士は基本軽装。重装備の騎士などもいたが、あまり多くなかった。

弓を武器にしている戦士が多いのは知っていたが、ツリーハウスなどの高所から下の敵を撃つ戦術を多用するが故に、軽装かつ弓兵が多いのだ。

だが理由にもうひとつ、ツリーハウスを上下するのに重い装備はデメリットである。軽装になるのも、ただ弓を扱うからだけではなかったからと理解した。

「ソウヤ」

ガル、そしてミストがエルフ集落の方を注視していた。何やら、そちらでもエルフたちの動きが活発になっている。

「何かあったか?」

「ええ、あったわよ」

ミストが振り返った。

「緑の墓所。ワタシ、魔力眼で見ようとしたんだけど――」

「何か出たのか?」

墓地で出たといえば亡霊。リアハがぶるりと身震いした。ミストは言う。

「出なかったのよ。……遺体がね」

「それって――」

「ええ。アガタの遺体を収めた棺を確認したら、中は空っぽだった。ついでに――」

ミストは声を落とした。

「近くに置かれた棺も、全部遺体がね。なかったみたいよ」

「……それであの騒ぎか」

同胞の遺体が、複数も消えていれば、騒ぎにならないはずがない。

そこへダルが小走りに駆けてきた。

「ソウヤ、厄介なことになりそうですよ――」

ミストから聞いていたソウヤたちだが、覗き見をしていたことがバレるとアレなので、敢えて、ダルに喋らせた。

「アガタの遺体はありませんでした。棺は空でした」

他の同時期に埋葬された遺体も――

・ ・ ・

何かを思い出すかも、と期待して、故郷の森を散策していたアガタと、その護衛を買って出たカーシュが帰ってきた。

緑の墓所に、アガタの遺体はなく、その結果、ここにいるアガタは本物ではないか説が濃厚になった。

死んだ彼女は甦った。だから墓標に彼女の遺体はなかったのだ――

「じゃあ、他の消えた遺体も、全部甦ったってこと?」

ミストが言えば、レーラは首を傾げる。

「どうでしょうか。どれくらいの方の遺体がなかったのですか、ダル様」

「同じフロアにあった40人、全員です」

ダルの話では、緑の墓所とは地下に埋葬所があって、ひとつのフロアに40人収容される。それぞれ棺があって、土をかけられているはずだったが……。

「全部の棺が地面から出ていまして、空っぽでした」

「普通に考えたら、あり得ないんだよなぁ」

ソウヤは唸る。

「なあ、ダル。40人で1フロアって話だけど、それどういう基準なんだ?」

死んだ順? それとも一族ごとに固まっていたりとか?

「亡くなったら順ですね。アガタが収容された時は、魔王軍との戦いで死者も多かったですから、あのフロアが定員に達したのは早かったはず」

「それって、40人丸々、同じ戦場での死者の可能性があったり、とか?」

「どういうことです?」

「いや、別に証拠があるわけじゃねえけど、あの戦場で、魔王軍が死者に効果をもたらす魔法か何かかけていたんじゃねえかなって思っただけ」

「アンデッド化ですか?」

リアハが目を丸くすれば、カーシュが首を横に振った。

「アガタはアンデッドじゃない」

「そうでした」

「ますます謎が深まった感じね」

ミストは眉をひそめた。

「それで、エルフたちはどうするって、ダル?」

「緑の墓所内、そして周辺を徹底的に調べるそうです。消えた遺体の中で、確認されたのはアガタの例のみ。他がどうなっているかわかりませんが、現時点では遺体を持ち出した窃盗ということですからね」

雲行きが怪しくなってきた。