作品タイトル不明
第589話、エルフ集会場
アガタのことは、エルフでも問題になった。
長寿のエルフである。十年前に死んだとされるアガタだが、彼女のことを覚えているエルフは少なくない。
「その謎を解くために来たのです」
ダルは、エルフたちの集会場で説明した。円形の野外集会場である。周囲には大樹がそびえ、ギャラリー用の席が並んでいる。ちょっとしたコンサートなどが開けそう、というのが、ソウヤの正直な感想。
エルフの長たちは顔を見合わせる。
「見れば見るほど、アガタに瓜二つよな」
「しかし、彼女は十年前に命を落とした。葬儀もした」
「して、ゼルファー・ダルよ。その謎、いかに解かんとする?」
「まずは墓の確認を」
ダルの発言に、集会場にいたエルフたちはどよめいた。
――そりゃそうだよな。
聞いていたソウヤは目を閉じる。確認のためとはいえ、墓を暴くとは。親族も含めて、心穏やかではない。
「故人の墓を荒らすつもりか?」
「今では故人かどうかも疑わしいではありませんか?」
ダルは冷静に告げた。
「ここにいるアガタが、本人であるなら、その墓には何もないことになるのでは? 空っぽの棺に意味はありますか?」
ざわつく周囲。エルフの長は人差し指を向けた。
「しかし、お主の話では、姿形は同じでも別人ではなかったのか?」
「可能性の話です」
きっぱりとダルは告げた。
「それを確かめる必要があります」
コピーしたにしろ、別人にしろ、埋葬されたとされるアガタがどうなっているか見てみないことにはわからない。
「確かめた後、どうする?」
長の取り巻きのひとりが言った。
「棺にアガタの遺体があったなら?」
「その場合、こちらのアガタは別人と証明され、このエルフの集落とは何の関係もないことになりましょう」
ダルは答えた。
「逆に棺が空だった場合、あなた方ならどうしますか? 死んだと思われた彼女が甦ったとなったら……? 記憶を失えど、かつての仲間、一族ではありませんか?」
「……」
長たちは再度、顔を見合わせた。野次馬を決め込んでいるエルフたちもまた、ざわついている。
ソウヤは、じっと成り行きを見守っている。やがて、エルフの長が手を挙げると、集会場が静まった。
「よかろう。ゼルファー・ダル。お主の提言、受けよう。緑の墓所への立ち入りと調査を許可する」
「感謝いたします」
恭しくダルは頭を下げた。
調査の許可は出た。ソウヤは、そっと肩をすくめた。ここに来た第一の関門を突破。
後は実際に、アガタの棺を調べて、本人かどうかを確かめるだけである。
集会場は解散の空気になり、野次馬たちが帰り出すが、ソウヤはダルが来るまで待っていた。
許可は得たが、なにぶんここから実際に調べるのに手続きやらが必要のようだからだ。そもそも、ソウヤたち、エルフでない者たちも入っていいかは別問題だから。
エルフの長たちとダルは話し込み、確認作業を進めている。
「緑の墓所か……。どんなところだろう」
十年前も、その場には入ることができなかった。一度見てみたいと思うが、観光気分で行く場所ではないこともわかっていた。
・ ・ ・
「まあ、わかっていたけどね」
ソウヤが苦笑すれば、ミストは憤慨した。
「エルフ以外は駄目、ですって! ワタシも見に行きたかったのに!」
「お墓だぞ。そんなありがたいものじゃないよ」
エルフたちは、墓地である緑の墓所への部外者の立ち入りを許可しなかった。場所が場所だけに仕方のないことだとソウヤは思う。
しかし、自称『地上最強の生物』であるドラゴンにとっては、少々捉え方が違うようで。
「ワタシが見たいと言えば、見せるのが礼儀というものよ!」
「じゃあ、ドラゴンの姿になって、見せろと言えばいいんじゃないかな?」
ソウヤは適当な調子で言った。
他種族に対して閉鎖的なエルフと言えど、ドラゴンを前にして文句は言えないだろう。
「それ本気? やるわよ、ワタシは」
「やめてくれ」
冗談のつもりだったが、冗談として受け取ってくれなかった。
「そもそも、ドラゴンにお墓って習慣がないのよ」
ミストは腕を組んだ。そういえば、とソウヤも頷く。
「聞いたことないな」
お墓を作るドラゴンなんて想像もできない。そもそもドラゴンは群れない。いつも一人だから、死んだ時、誰かがその後始末をつけるとかはないのだ。
「そんなに気になるなら、魔力眼で覗いたらどうだ?」
「そうね」
ミストは今思い出したとばかりに手を叩いた。ソウヤは首を横に振ると、セイジたちの元へ移動した。
「はーい、いらっしゃい! 銀の翼商会です! 森の外の世界の品がありますよ! ぜひどうぞー!」
セイジが声を張り上げる。エルフ集落入り口で、銀の翼商会の露店が開かれている。もちろん、エルフの長らに許可は得ている。
「不用品があれば、買い取り、もしくは交換もやってますー! エルフの皆様ー、いかがですかー!」
レーラも大きな声で呼びかけている。聖女様もここでは従業員である。
外から人間の集団が来ているのは集会場での一件ですでに知られていたからか、エルフのお客さんたちが野次馬にやってくる。
十年前に森を守るために共闘した勇者が商売をやっているということで、好奇心が疼いたのだろう。
ダルが緑の墓所で調査している間に、行商らしくやるソウヤである。エルフと商売するのは、そうそうないことなので、機会は逃せないのだ。