軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第546話、ニーウ帝国

魔王軍はすでに大陸に乗り込んでいて、人類側の国家ひとつを影ながら支配している。

その情報は、カマルやライヤーを驚かせるに充分だった。

「帝国が魔王軍に……」

「表向きは人間の国だ。だが皇帝を始め、要人の何人かが魔族と入れ替わっているらしい」

ソウヤは苦い顔になる。

魔族艦長ソルテから聞き出された情報は、それだけ衝撃的だった。

「ニーウ帝国は皇帝による圧政で滅茶苦茶らしい。魔王軍のための施設と知らず、飛空艇用の港や工場施設を作らされているという」

施設最優先で人や物資を徴集し、産業や農業、その他産業の人員まで動員しているという。そんなことをすれば、国のバランスが崩れ、帝国は自壊するだろう。

だがそう仕向けているのが魔族なのだから、帝国が崩壊しようが、人間を奴隷として使い潰しても一向に構わないのだろう。

「魔族に支配されるってのは、そういうことなんだ」

だが帝国の民は、自分たちの最高指導者が魔族に入れ替わっていることを知らない。圧政も皇帝の愚かな考えだと思っていて、魔王軍の仕業とも気づいていないわけだ。

「話を戻そう。ソルテの話では、ニーウ帝国北部に魔王軍は秘密拠点を設けて、そこを大陸侵攻軍の本拠地としているらしい。ミストが言った通り、大陸侵攻軍が戦端を開きたくウズウズしているなら、それを静観するわけにもいかないと思う」

「仕掛けるのか?」

ライヤーが眉をひそめる。ソウヤは苦笑する。

「商人の仕事ではないが、元勇者であるからには見過ごすわけにもいかない」

エンネア王国やグレースランド王国の対抗戦力が整うまで時間を稼ぐ意味でも。

「商人の視点からみても、人類側国家があっさりやられてしまっては仕事もクソもないからな」

ソウヤはジンへと視線を向ける。

「さっそく準備したリッチー島傭兵同盟の遊撃部隊の出番だと思うが、どうだ?」

「ニーウ帝国が、一応まだ人間の国である以上、陸路から軍が進むというのはナンセンスだろう」

魔族に支配されているとはいえ、その軍や兵は何も知らない人間である。もし人類側国家に、帝国が魔族に支配されていると通告したところで、軍が動いても人間同士が戦うだけに終わる。

戦力を消耗されるという意味では、魔王軍に利しかない。

「だから狙うなら、魔王軍のみをピンポイントで狙う必要がある。それには、飛空艇を使った空からの侵入が必要だろう」

カマルが手を挙げた。

「帝国の皇帝はどうする? 魔族に支配されたままでは厄介だろう?」

「本物の皇帝陛下が生きているならいいんだが……」

ソウヤはエイタと顔を見合わせる。

「ソルテは入れ替わったとは言っていたが、入れ替わられた皇帝や要人がどうなったか知らなかった」

一飛空艇の艦長レベルには、伝えるまでもない情報ということだろう。そりゃそうだ。ソルテが皇帝がどうなったか知っていようがいまいが、彼の職務には何の影響もないだろうから。

「追加の情報を得られるまでは、迂闊に動けない。まずはニーウ帝国内の魔王軍の大陸侵攻軍をぶっ潰すのが優先だ。表向き人間の国だから、匿っている魔王軍の戦力が失われれば、皇帝になりすましている魔族も、大した手は取れないだろう」

ソウヤの視線に、カマルは首を傾ける。

「そうだろうが、魔王軍が国のトップになりすましている状況は、周りの国にとっても面倒以外の何者でもない。魔王軍に備える前に、帝国が隣国に宣戦布告し、人間同士で戦わせて消耗させるという手も使えるわけだから」

「なあ、カマル。そこまでオレらが出張らないとダメか?」

一商会に何を期待するというのか? ソウヤは淡々と言った。

「お前は、オレらのメンツをみて、スパイ活動が得意な連中がいるとでも――っていたわ」

ソウヤがそちらに向くと、黙って話を聞いていたオダシューが苦笑した。元暗殺組織カリュプスメンバーが、銀の翼商会にいた。

「まあ、確かに銀の翼商会の仕事じゃありやせんが……ボス、おれらは指示とあれば、やりますぜ」

オダシューが立ち上がった。

「何なら、皇帝になりすましている魔族野郎を暗殺してきますが」

「ありがとう、オダシュー。とりあえず座れ」

改めて、暗殺や潜入もこなせる銀の翼商会の人材の豊富さに、ソウヤ自身、自嘲したくなる。

ソウヤ自身、少数の仲間たちと魔王討伐の旅をし、敵地に乗り込んだ過去があるから、やれそうに思えてくるのが怖い。

「ほんと、一商会の仕事じゃないんだがな」

行商であり冒険者でもある。荒事は冒険者の業務ではあっても、討伐はすれど暗殺や潜入は専門外のはずである。

商品として扱えるなら何でも扱う行商を目指してやっていたのに、気づけば何でも扱うではなく『何でも屋』である。

「カマル、エンネア王国に、魔王軍捕虜の情報は送れ。グレースランドなど近隣国とも相談するんだろうが、諜報やニーウ帝国皇帝の件で、王国が手を打つというなら任せるし、余裕がないというなら……こちらで対応しよう」

国家の指導者絡みの問題だから、一商会が勝手に行動するわけにもいかない。

「だが、ニーウ帝国内の魔王軍拠点については、こっちで早々に叩く。大陸侵攻軍が勝手に戦端を開いたら、近隣国が真っ先にやられる」

グレースランド王国も、その近隣国に含まれる。防衛態勢が整わないうちに、先手を取られるのは何としても避けないといけない。

「変に国が絡む前に、拠点を潰しておけば、一応、人間の国であるニーウ帝国が周辺国に報復する、なんてことはないだろうからな」

どの国が、どこの組織が仕掛けてきたのかわからないうちにやっつけてしまえば、魔王軍にしろ、皇帝になりすましている魔族にしろ、どこに報復すればいいかわからないだろう。

「爺さん、何か意見は?」

リッチー島傭兵同盟の管轄はジンである。ソウヤは、魔王軍大陸侵攻軍の拠点を叩くべきと考えるが、それが理に適っているか、可能かどうかを判断するのは、ジン・クレイマン王次第である。

――何せオレは、艦隊の指揮なんてしたことないし。

直接乗り込んで敵の親玉を討つ戦いは得意ではあるが。

そんなソウヤに、老魔術師は笑みを浮かべた。

「ここからは、勇者のターンだな。やろう」

ミストが、クラウドドラゴンが、ライヤーが頷いた。離れた席で聞いていたレーラも同様だ。

「だが無策で突っ込むわけにはいかない。作戦を考えないと」

ジンは静かに周りを見渡した。

「ソウヤのオーダーは、こちらの正体を悟らせないように襲撃をかけることだからね」