作品タイトル不明
第537話、お部屋訪問2
「うわぁ、ここがリアハの部屋!」
ソフィアは声を弾ませて、その部屋に侵入を果たした。
王都の被害の確認と応急処置を手伝って、グロース・ディスディナ城に戻ったリアハとソフィア。
せっかくお城にきたのだからと、友人を案内したリアハは、ソフィアに自分の部屋も紹介した。
「思っていたより無骨っていうか、真面目っていうか……」
ソフィアの一見した印象がそれだった。ソフィアは知らないが、部屋の大きさは、レーラの部屋と同サイズ。
天蓋つきベッドや家具なども、ほぼ同じだ。ただし、姉レーラの部屋と決定的な違いといえば、壁に飾られた品の存在だった。
ソフィアは、飾られた品々を眺める。
武器である。剣や槍、弓、盾、さらに鎧まである。一瞬、武器庫かしら、とソフィアは思ったが、右から左への並びをみて、ピンと来る。
「これ、リアハが使っていた順番?」
「そうですね」
子供の頃から武器と接してきたリアハ姫である。最初は子供サイズに始まり、段々、大きくなっていく武器や防具。体が成長していったのが、武具からでも想像できた。
「リアハって、子供の頃から騎士姫になろうって考えていたの?」
「ええ。王国のために貢献できる人になるにはどうすればいいかと考えて、武器を取る道を選びました」
窓に近づき、リアハは外を見やる。
「……私は、姉様のように聖女にはなれないから」
「なに?」
「いいえ、何でもありません」
振り返り、笑みを浮かべるリアハ。
姉レーラのことは尊敬していた。卓越した能力と癒やしの力。それは全ての人間に望まれ、救いの力と慈悲深い姿は、女神の降臨と呼ばれた。
その妹でありながら、姉のような力はなかった自分。リアハは魔法ではなく、武器の道を選んだのも、そのあたりの事情が関係する。
聖女になれないなら、せめて人々を守れる騎士になろう。王族として、模範となろうとやってきた。
「お姫様の部屋って、もっと華々しいものだと思っていたけど、案外そうでもないわね」
ソフィアの言葉に、リアハは苦笑する。
「すみません。女っ気がなくて」
侍女や騎士たちからも、たまに苦言めいて言われたことはあった。
「いいんじゃない。私はリアハらしくて好きよ」
ソフィアは、すっと鏡台のそばにある引き出しを開けた。
「あ、そこは――」
「あら、可愛い」
ソフィアはニンマリして、リアハを見た。
「綺麗なリボンね。色んなカラーがあるわ。……わっ、こんな綺麗な青とか、この紫の色違いとか、何色あるのよこれ」
夢中になって眺めるソフィア。数えるのも大変な数のカラーバリエーションのリボンが収められている。
「可愛いわね。リアハは、リボンしないの?」
「ええっと、私にはあまりリボンは似合わないかなって……」
「えー、ウソよ。絶対、似合うって。リアハは美人さんだし、似合わないわけないじゃない」
「……」
とても恥ずかしがるリアハである。騎士姫として凛としたイメージに、リボンは合わないと考えているリアハである。子供っぽいから、と『自分は』つけないが、リボン集めは密かな趣味ではあった。
「いいわね、リボン。私もつけてみようかしら……」
「あ、それなら、気に入ったものあったら、あげますよ、ソフィア」
「ほんと? ありがとう。でも、もらえるなら、同じものがいいわ」
ソフィアはリボンケースを指し示す。
「これ全部揃っているのが綺麗過ぎて、抜き取るのがもったいないもの。これでひとつの芸術品みたい。抜けがあるとすっごく気になるわ!」
「そ、そうですか……」
ソフィアがそう言うのであれば、それでいいのだろう。
「でも安心した。リアハも、ちゃんと女の子で」
割と失礼なことを言いながら、ソフィアは勝手にクローゼットを開けた。
「わあ、素敵なドレス! なんだ、ちゃんとあるじゃない」
「これでも、一応お姫様ですから」
リアハはそっぽを向いた。
「パーティーなどでドレスを着ることはあるんですから」
「そりゃそうよね。……でもいいなあ。私、ほんと小さかった時しかドレス着たことないのよね」
ソフィアはドレスに羨望の目を向ける。
「リアハは知っているでしょうけど、私、屋敷に閉じ籠もっていたからさ。社交界とか出たの、子供の頃の数回くらいしかないし」
つい最近まで引きこもりだったので、当然、今のサイズに合うドレスをソフィアは持っていない。貴族令嬢ではあるが、これまでは魔法が使えなかった故に、パーティーと縁がなかった。
その時のソフィアの孤独を思い、リアハはしばし視線を落とす。周りから見てもらえない。そういう部分に、リアハは共感をおぼえる。
騎士姫。人々の模範。それは本当の自分だと言えるのか。本当にそれが自分になりたかったものなのか、と。
しかし、おくびにも出さず、リアハはソフィアを見た。
「ではこれからは、色んなパーティーに引っ張りだこですよ」
六色の魔術師、エンネア王国魔法大会優勝者――その名は、おそらくエンネア王国の魔術師たちの間に伝説として語り継がれるだろう。
それだけの偉業を成し遂げた魔術師であり、貴族であれば社交界から無視されることはあり得ない。
「うんざりするほど、お誘いが来ますよ」
「それはそれで、勘弁してほしいわね」
ソフィアは表情を曇らせた。引きこもりが長く、貴族の付き合いがなかった彼女は、思考はかなり庶民的である。
「でも、ドレスは憧れる!」
「いまなら、イリク様にお願いしたら、買ってくださるのでは?」
魔法第一主義者である父イリクも、今ではすっかりソフィアを溺愛している。言えば、これまでの負い目もあって何でも買ってくれそうではある。
「別にお父様に買ってもらわなくても、私のお金で買えるのだけれどね」
銀の翼商会で魔法を開花させたソフィアだが、商会での仕事もしているから給料をもらっている。さらにクレイマン王の遺産からも、相当分のお金を頂戴しているので、彼女個人の持ち金は、そこらの貴族よりある。
「でもまあ、お父様に花を持たせてあげるのも、いいかもね」
ソフィアは言ったが、そこで振り返った。
「セイジはどういうのが好みかしら……?」
「……本人に聞いたらどうですか?」
リアハは苦笑するのだった。ごちそうさま。