軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第521話、彷徨う海賊船

『魔王軍の船を攻撃している船は、海賊船のようです!』

ゴールデンウィング号のマストの見張り台から、サジーが報告した。

海上に海賊が出るのはわかる。この世界でも港町などでたまに耳にした。しかし、飛空艇に乗った海賊など、ソウヤは空想の物語の中でしか知らない。

――まあ、飛空艇がある世界なんだから、なくはないのか。

飛空艇自体、とても希少で、空を飛ぶ海賊の話はこれまで噂でも聞いたことはなかったが……。

青い飛空艇――海賊船は、魔王軍の船を次々に戦闘不能ないし撃沈に追いやった。奇襲したとはいえ、たった1隻で、4隻の敵を撃破したのだ。

「手慣れているな」

まさに完璧に近い襲撃だった。それだけあの海賊たちは経験豊富なのがわかる。

「あれはサフィロ号だ」

ジンは言った。

「ライヤーの言った通り、あれの同型艦が、私のコレクションの中にある。もっとも、私が保有しているのは、あれのコピーだがね」

「つまり、あっちの船がオリジナル?」

「そういうことだ」

老魔術師は手すりに手を置き、眉をひそめた。

「だが、本来この世界に存在しない船なのだがね」

「この世界に存在しない船?」

ミストとクラウドドラゴンが顔を見合わせる。ライヤーは首を捻る。

「どういうこった?」

「別世界の船――そういうことか、爺さん?」

ソウヤが言えば、ジンは頷いた。

「何故こちらの世界に現れたのか、さっぱりだが……」

そこで、老魔術師は動きを止めた。その様子にソウヤは怪訝な顔になる。

「爺さん?」

「……」

「ソウヤ――」

ミストが顔をしかめる。

「強い魔力の波動が……あの青い飛空艇から飛んできているわ」

「魔力の波動?」

ますます分からなかった。

・ ・ ・

海賊船『サフィロ号』、そのブリッジにいた青年船長エイタは、部下たちが魔王軍の船の制圧を果たしたことに満足していた。

手下のパンプキンヘッドは魔族兵を排除した。切り込み隊長である椿は、敵の指揮官を討ち取り、こちらの被害は軽微。あとは海賊らしく、敵の船の物資を回収するだけではあるが……。

「船長」

「どうしたヴィオラ?」

長い金髪に、吊り気味な目の瞳は紫色。端正な顔立ちの女性――サフィロ号副長であるヴィオラは、一点を指さした。

魔王軍が襲おうとしていた船団の船だ。離脱する他の船とは別に、迎撃しようとしたらしい1隻が留まっている。

「あちらの船は、どうします?」

「どうって……」

エイタは視線を、そちらの船へと向けた。

「こっちは海賊旗を掲げているんだぞ。普通は逃げるでしょうよ」

「その様子もありませんけど」

ヴィオラは、事務的に言った。

「こちらを警戒しているのかも。魔王軍に備えて戦闘態勢をとっていたようですが、そのままですし」

「俺たちが追ってきたら迎撃しようって魂胆かな?」

――このサフィロ号にサシで勝てる船なんてそうそうないがね。

エイタの肩に乗っていた黒猫のようなものが飛び降りた。

「ねえ、エイタ。あの船、盛んに魔力をこっちに飛ばしてるよ」

「そうなのか、リム?」

少女のような声を発する黒猫のようなもの、リムは手すりに飛び乗った。

「何か強いヤツがいるね。……それも複数。人間じゃないものもいる」

「人間じゃないもの? 魔族か?」

「んんっ!?」

リムが突然、声をあげて前のめりになる。落ちる――と思いきや、ヴィオラ副長が両手で掴んで事なきを終えた。

「気をつけてください、リム」

「どうしたんだ、リム?」

「エイタ、あの船、乗りつけて!」

リムが声を上擦らせた。いつもは飄々として、周りのことでもどうでもよさげな態度を取る彼女にしては珍しい。

「あいつがいる! アタシのディアマンテを持ち逃げした魔術師が!」

ディアマンテと聞いて、エイタもヴィオラも苦い顔になる。彼らにとっては、少々因縁があったからだ。

「魔術師って、あの人のことを言ってるんだろうけど――」

「そう! アタシにこの首輪をつけやがった、あいつ!」

猛るリムに、やれやれという顔をするヴィオラ。その目が『どうします?』と船長であるエイタに向いた。

「でも、その首輪のおかげで、お前は更生できたじゃないか?」

「そうだけど! そうじゃなくて! いいから、あの船に、あいつがいるんだから、乗りつけるんだよ!」

リムは喚き、エイタはうんざりする。

「わかった。わかったよ。でもなあ、リム。ここは異世界だぞ。確かにあの人は生死不明だけど、こんなところにいるわけないじゃないか」

「行くのよ! エイタ!」

「はいはい。……じゃあ、とっととカボチャたちを引き上げさせてくれよ」

うむ、とリムが目を閉じると、漂流する魔王軍飛空艇から、カボチャ頭たちが飛んで戻ってきた。

「おっと、私も忘れないでほしいでござる」

女サムライ――椿が、こちらも人間離れした跳躍で戻ってきた。――まあ、人間じゃないんだけどな。

「サフィー、針路変更。あちらの船に向かって前進!」

「よーそろー!」

操舵輪を握る少女――船と同じ青い髪の少女は元気に返事した。椿が、エイタの隣にやってくる。

「今度はあの船を襲うのでござるな。……只ならぬ気配を感じますな。我が刃が疼くでござる」

「こっちとしては戦う理由はないんだがね……」

エイタはマストの上をチラと見上げる。

「海賊旗……見えちゃってるよなぁ、やっぱり」