軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第454話、ソウヤ、追い詰められる

ドラゴンに道徳。馬の耳に念仏。

ソウヤは、ミストから生命の神秘、男女の接触について教えてほしいと頼まれた。要するに、人間の男女の夜の営みを迫られたわけだ。

好奇心から端を発したそれについて、ソウヤは語らなかった。

「疲れているようですが、大丈夫ですか?」

毎朝、顔を合わせるレーラから早速心配されてしまった。

「ちょっと遅くまで起きてた」

「働きすぎは体に毒ですよ。それでなくても、銀の翼商会のお仕事抱えてますよね?」

美少女聖女様から、優しい言葉をかけられただけで、心が浄化されるようだった。――聖女様って本当にいるんだよなぁ。

レーラがソウヤの背後に回り、その背中に手を添えた。

「私にはこういうことしかできないのですが――」

さわさわと温かな魔力が背中に流れ込んでくる。ソウヤは温泉につかっているような気分になる。

「えいっ!」

ポンと優しく叩かれた。

「これで、少しは元気になりましたか?」

「ありがとう。気持ちよかった」

精神だけでなく、体の疲労もたまっていたようで、朝からソウヤは調子がよかった。

アイテムボックスハウスは、皆出かけていてソウヤが一番遅かった。朝食を作るという気分でもなかったので、食堂で摂ることにする。レーラも一緒だった。

白米に味噌風味のスープ、これだ。日本人の朝ご飯――とそこへ配膳にやってきたナールが声を落とした。

「旦那ァ、いったい何をやらかしたんです?」

「え?」

何の話だろうとソウヤは思った。元盗賊の料理番だったナールは周囲を見渡した。

「何か朝から騒々しかったンですよ。……何でも旦那が、女を部屋に連れ込んだとかどうとか」

女? ――ミストなら間違っていない。しかし彼女なら見ればわかるはずで、わざわざ女と言わなくてもわかるはずだが。

「ソウヤ様?」

レーラが笑顔でソウヤを見た。怖い!――何故か圧を感じた。

「昨日はどなたかとお楽しみだったのですか?」

「お楽しみだったのですかァ?」

ナールもそう言いながら配膳を終えた。

「では、ごゆっくり……」

――ちょっと待て!

妙な雰囲気にさせて立ち去るナールだった。レーラは相変わらずニコニコしている。

ソウヤは、すっ、と息を吸った。

どうしたものか。ミストと一晩一緒にいました、というと間違っていないが語弊がある。とはいえ、ある程度のタッチがあったのは事実。それをレーラに話していいものかどうか。ミストの体面というものもある。

しかし、黙秘してもあらぬ疑いをかけられることになる。ソウヤは苦慮する。

「……こういうのを言ってしまっていいのか、ちょっと悩む話なんだが」

「懺悔ですか? 専門分野です」

聖女様は教会関係者だった。

「悪いことはしていないんだがね。一応、人物名は出すが、公言しないでくれよ」

「もちろんです」

念のため周りを確認するが、食堂は朝のピーク時間を過ぎており他の人間はほとんどいない。

「セイジとソフィアが付き合っているのは知っているな? 最近ちょっとギクシャクしているらしいってことも」

「はい」

それで、とレーラは先を促した。

「そのことで、ミストが大変興味を持ってしまったんだ。その……人間の男女の夜の営みについて」

「……」

すっとレーラがうつむいた。心なしか顔が赤くなってきた。

「それで、彼女はオレに、人間の夜の営みについて教えてほしいと言ってきた。だから昨晩は、彼女にその話をした。オレの部屋で」

「あなたの部屋で」

「プライベートなことだし、デリケートな問題だからな。他の人がいる場所では話せないだろう?」

「確かに、公衆の場でする内容ではありませんね」

コホンと、レーラが控えめな咳払いをした。

「それで……したのですか?」

「ん?」

「えっと、その男女の……」

「何だって?」

赤面してあわふたするレーラ。この手の話は免疫がないのかもしれない。わかっていてソウヤはとぼけた。

「男女の何?」

「……その、お肌とお肌の……ふ、触れあい――」

頭から湯気が出るのではないかというほどの動揺っぷりである。

「まあ、多少はな。だけど、本番をしたかと言われれば、そこまではやってない」

「……そうですか」

ちゃんと意味は伝わっているのだろうか。ソウヤは心配になる。レーラはそっちの知識があるのかわからない。

幼少の頃から聖女として教会の教えに従ってきたというレーラである。

「つまり、健全な範囲内だったと」

触ったり、抱き枕にした程度の接触はあった。ハグなどの延長……と言ったら言い訳がましいだろうか。

――いっそ、ミスト本人に聞いたほうが……。いや、それはマズイか。

あの人間の常識に疎いドラゴンである。どういうこじれ方をして、肉体的接触で表現などしようものなら、逆にレーラの身が危ない。

ソフィアが以前から、ミストに結構な接触的被害を受けていたことを思い出せば、知識を得たミストがどう暴走するかわかったものではない。

「ミストの好奇心だ。そっとしておいてやれ」

言い出しっぺは彼女であるし、ある意味ソウヤは巻き込まれた側である。応じたことについては責任の一端はあるが、よそで問題起こされるのは避けたかったから仕方ない。

――それにしても、俺とミストが一緒に部屋に入るとこを見た奴って誰だ……?

噂の出所が非常に気になるところだ。食堂で働いているナールが噂を察したようだから、少し聞いてみようと思った。

「あの、ソウヤ様」

レーラがまだ赤面したまま、上目遣いを寄越した。

「その、私はそちらの知識がないと申しましょうか……詳しくはないのですが。私にも、そのミストさんにやったように……教えていただけませんか?」

「!?」

ソウヤは硬直した。――それは、つまり……。

やられた。ミストと『同じように』教えれば、アウトかセーフかレーラ自身、判断しやすくなる。しかしそれは、聖女様に教えるのは正直どうなのだろうか。

変な汗がでてくるソウヤである。

「駄目……なのですか? ミストさんには教えたのに……?」

「いえ……はい」

そうまで言われてしまえば、もはや断れば、やましいことをしたと自白するようなものだった。