軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第450話、とある問題の浮上

ルガードーク商業ギルドが、ドワーフの機械工房の職人たちに、銀の翼商会提案の飛空艇建造の話を聞きまくっている間、ソウヤとジンはブルーアの部品工房を訪れた。

勇者時代の初代ゴールデンウィング号の機関士を務めていたドワーフのヴァーアの弟である。

「――魔力ジェットが順調そうでよかった」

「順調だよ」

ジンは短く言い、ソウヤも頷いた。

「ヴァーアの残してくれたエンジンは、空を駆けてる」

「兄貴のエンジンを引き継いで完成させたのはあんたたちだ」

ブルーアは少し照れくさそうだった。

「そういや、そのエンジンが、ルガードーク中で騒ぎになっているらしいな」

「港についたらドワーフの職人たちが詰めかけてきてた」

ソウヤは苦笑するしかなかった。

「それで、新しい飛空艇の話を持ち込んだんだ。新造船が欲しくてね」

「今度は船を作れ、か」

ブルーアは腹をゆすって笑った。

「船を作るとか、相当銀の翼商会ってのは儲けているんだな!」

「これからもっと儲かるさ。飛空艇の建造ラッシュが始まる。あんたんとこの工房も忙しくなるぞ」

船を作るには材料がいる。ブルーアの工房もエンジンや機械部分で使うパーツを製造している。当然、ここにも仕事がくる。

ソウヤは飛空艇の設計案をブルーアに見せた。部品製造をやっている専門家の意見も聞こうと思ったのだ。

「なんつーか、デザインがシンプル過ぎやしないかね?」

「商業ギルドの人にも言われたよ」

無駄を削ぎ落とした結果の簡易量産船である。もう片方の標準船については、セイル用のマストがないことを除けば、多少はマシだが。

「船体に曲線がないな。作りやすいだろうが、こりゃ水上に着水できんな」

「しないから問題ないさ」

商業ギルドのギプスとも同じようなやりとりをした。

そもそも飛行石があるのだ。浮遊できるのだから、無理に水面に降りる必要はない。

「部品屋としては特に言うことはねえわな。エンジンは既存のそれと同じだ。ただ……やっぱり船のデザインがな。シンプル過ぎてつまらん」

「帆船からいい加減、脱却しなよ」

マストがあって帆を張って、ブリッジが後ろにあって――というこれまでの飛空艇の形がテンプレになっていて、それ以外の形に違和感を抱いているようだった。

そこでジンが口を開いた。

「まあ、ドワーフは凝り性でもあるからね。自分の作るものには、それなりにこだわりがあるのだ」

「その通り。自分の主義に反するモノはとことん嫌うからな」

「自分たちの趣味や主義は、自分たちの船でやればいい。それなら好きなように飾り付けしたり凝った作りにしてもいいだろう。だが、こちらとしては複数の船をできるだけ急いで用意したい」

「急ぎなのか?」

「実用レベルの人工飛行石の存在が明らかになれば、船を作ろうと注文は殺到する」

このルガードーク中に、その情報が流れるのは時間の問題だ。そこから旅の商人や冒険者たちの耳に入って、さらに噂は拡散する。

「その前にモノは作っておきたい。ルガードーク中のドックが全て埋まり、順番待ちにならないうちにさ」

「なるほど、読めてきた」

ブルーアは顎に手を当てた。

「完成した飛空艇を用意して、売れるようにしておこうって魂胆だな。さすが商人」

ある程度、需要があると見越しての行動だ。これもひとつの投資である。

「なるほどなあ。注文が殺到するなら、さっさと作れる設計のものがあったほうがいいわな。このシンプル過ぎる船もそれを見据えてとするなら、これ以上ないデザインだ! くそっ、こんなのでもワクワクしてきちまったじゃねえか!」

自身の頭をかくブルーア。

「こりゃ世界が動くぞ……! 一度火がつきゃ、もうルガードークは、いやこの辺りのドワーフは大忙しになる!」

人を増やさねば、とブルーアはブツブツと呟く。実家の父親や親族も引っ張り出さないと……などと興奮気味にまくし立てている。

大いにやる気を刺激してしまったようだ。ソウヤは、ブルーアを観察している老魔術師に言った。

「オレたち、とてもどでかい事に関わってるんじゃないか?」

「ああ、とても大きな物事の中心にいる」

ジンはソウヤの肩を叩いた。

「飛空艇が作れるものとなって世界に拡散したら……君の名は、この世界の歴史に残ることになるだろうね」

「もう勇者としての名前は残ってるんじゃねえか?」

「商人として、残るんじゃないかな?」

ジンの口ぶりに、ソウヤは何とも言えない顔になる。

「商人として、か」

まんざらでもない気分だった。力が自慢の勇者だった自分が、まさか商人として名を残すことになるかもしれない。考えもしなかったことだ。

「それよりも、ソウヤ」

ジンは、ブルーアに視線を向けた。

「彼が何か考え込みはじめたぞ」

見れば、ブルーアは腕を組んで再度、飛空艇の設計図を覗き込んでいる。

「どうしたんだ?」

「いや、近いうちに飛空艇関係のところが忙しくなるって話だったし、おたくらは早いうちに複数の船を作らせるつもりなんだよな?」

「そのつもりだ。もちろん可能なら、だ」

できないことを強要するつもりはない。ソウヤは言ったが、ブルーアは小さく唸る。

「そうなると、材料の調達が問題になってくるんじゃねえか? いかに簡易船といえど、材料がなけりゃ作れんぜ」

確かに――ソウヤは首肯した。

「つまり、今の状況だと、材料不足の問題が出てくると?」

「エンジンに使う鉄やミスリル、その他金属……まあ、この辺りは、オレたちドワーフで何とかなると思う。だが、船体に使う木材はな」

水上船もそうだが、主な部分は木材を使用している。大きな船ともなると、消費される木の数も多くなる。

「地元の山の木全部を切り倒すことになるやもしれんな。だが当面はよくても、そのうち、余所から木を取り寄せないといけなくなって……建造にかかる時間も――」

ブツブツと考えにのめり込むブルーア。

――そうか、材料か……。

そこまで考えていなかった。飛空艇作りが流行ることになれば、当然、木材の需要が増加する。

至るところで木が多量に切り倒され、環境激変の原因に……。と遠大な問題はともかく、色々なところで木材を買い漁ることになれば、在庫不足と価格の高騰を呼ぶことになる。

結果、材料不足により工事の遅れ――となる問題も出てくる。

事は飛空艇建造以外の、木で作られた品の製造や販売価格にも影響する。これは行商としても、まったくの他人事ではなかった。