軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第42話、居座るヒュドラをからかってみた

ダンジョンに居座っているのはヒュドラだった。

複数の頭を持つ巨大な水蛇で、ドラゴンの亜種と見なされている。ただ種によっては足があったり、翼があったりするらしい。

非常に再生力が高く、多少の傷はたちまち回復し、首を一、二本落とされても、それすら再生させるという恐るべき能力を持つ。

モンスターランクSの、超危険モンスターである。

ミストは、倒してしまおうとソウヤに提案した。そのソウヤは、ちらとガルモーニのほうを見た。冒険者たちとのやりとりを続けている彼。

「……とりあえず、彼らがどうするか様子見だ。どうしようもなくなったり、頼まれた時は手を出そう」

「あなたやワタシが出たほうが、簡単に始末がつくと思うけど?」

「へえ、お前はあれを倒せる自信があるわけだ」

「あなただってあるでしょ?」

「どうかな。……魔王とどっちが強いと思う?」

「断然、魔王でしょ。あそこにいるのは、ドラゴンもどきよ?」

肩をすくめるミスト。ソウヤは苦笑する。――確かに、負ける気はしない。

「でも、今はギャラリーが多いからな。お前、活躍するのはいいけど、その後、色んな奴が寄ってくるぜ?」

「それはちょっと面倒ね」

ふん、とミストは鼻をならす。

「わずらわしいのはごめんだわ」

ミストの賛同をいただけたので、ソウヤは通路の向こう側を覗いているセイジへと近づいた。大きなバックパックを背負う彼だが、さすがに緊張しているのか、その後ろ姿からでもわかる。

「セイジ、大丈夫か?」

「緊張してます」

振り返り笑みを貼り付けたセイジだが、声にも固さが含まれていた。

「よりにもよってヒュドラなんて……」

「怖いか?」

「怖くないって言ったら嘘になります」

セイジは手を握ったり開いたりして、緊張を紛らわせている。

「ソウヤさんは、怖くないですか?」

「うーん、どうかな」

不安はあるが、恐怖かどうかは、いまいちわからない。ヒュドラ級のモンスターとはこれまで何度も戦ったので、良くも悪くも慣れてしまっているのかもしれない。

「あーでも、オレも緊張してるな」

「そうですか?」

「喉が渇いてきた」

そう言ったら、セイジがくすっと笑った。

「いやいや、オレは大真面目だぞ」

いつも以上に汗をかいたり、喉が渇くのは不安や緊張の表れだ。

「ソウヤ」

ギルド長がやってきた。彼の表情もまた硬い。

「さて、ドラゴンを躱す技があるという話だったが、アレを見ても、まだここを抜けられそうか?」

「まあ、何とかいけると思いますよ」

ただ、ドラゴンより若干面倒になったが――ソウヤは心で呟き、浮遊バイクをアイテムボックスから出した。

おおっ、とガルモーニが驚きの声を上げるのをよそに、シートに座るソウヤ。

「オレとミストで奴の注意を引くんで、ギルド長はセイジを連れて奥へ向かってください」

「お前たちで囮になると? それが躱す手段?」

「そうです。本当は、オレかミストのどっちかで充分だったんですけど、相手がヒュドラだと全部の注意を引き続けるのは、ひとりじゃ難しいかなって」

「……」

絶句するガルモーニ。案としてはあまりに捻りがなさすぎて、呆れているのかもしれない。

「荷物、届けてくださいね。ま、すぐオレらも追いつきますんで。……だよな、ミスト?」

「余裕余裕。要するに、鬼ごっこでしょう? 美少女過ぎるワタシが囮なんだから、楽勝よ」

まったく悲壮感の欠片もない返事に、ガルモーニは呆気にとられる。だがすぐにその表情は引き締まった。

「任せて、大丈夫だな?」

「向こうで会いましょう。オラ、行くぞ、ミスト!」

ソウヤの声に、ミストがコメット号の後ろへ身も軽く飛び乗った。浮遊バイクを加速させ、一気にヒュドラの陣取っているフロアへ雪崩れ込んだ。

強大な多頭竜が、咆哮をあげた。全長は三十メートルはありそうだ。よくもこんな巨体が余裕で動ける空間があったものだ。

――召喚獣ってのも、あながち間違いじゃねえな。

それ以外で、どうやってここに収まっているのか、まったく理解できそうにない。

「耳障りな声ねぇ」

ミストが愛用の槍を手に笑った。ソウヤはバイクで、ヒュドラの足下へ果敢に接近する。

そこで、後ろに乗っていたミストが跳躍したのだろう。気配が消えた。

ヒュドラの複数の頭が、ソウヤとコメット号を睨み、また別の頭がミストへと向いた。長い首が伸びて、ソウヤに迫り……剣のように尖った歯が宙を噛んだ。

「当たるかっての!」

コメット号を操り、迫る首を回避。スラロームを描くように、右へ左へと避けていく。そのスピードと機動に追従できないヒュドラ。

ソウヤたちが魔獣を引きつけている間に、ガルモーニ、セイジ、カエデが通路を出て、壁に沿って駆ける。

距離があるから、気づかれてもすぐに追いかけられないが気づかれずに済むならそれにこしたことはない。

ヒュドラの頭のひとつが、後方を警戒するように首を巡らそうとする。

「あらぁ、ワタシを前によそ見とか、随分じゃない!?」

魔法的な補助だろう。常人離れした跳躍で、ヒュドラの周りを跳んでいたミストが、『竜の威圧』を放った。

その禍々しいまでの上位ドラゴンのプレッシャーを浴びて、ヒュドラのすべての頭が、黒髪の美少女に向いた。

その間にも、ソウヤはヒュドラの足元をウロチョロ動いて、動きを牽制。

「――っ、と!」

ヒュドラの口から炎が出て、滝から落ちる水の如く、ソウヤの頭上から吹きつけられた。だが浮遊バイクのスピードが、炎の滝を間一髪、背後へ置き去りにした。

「アチチっ、熱気すごっ!」

直撃ではないが、熱を肌で感じた。ヒリヒリと焼ける感覚が残る。

お返しに斬鉄で一発――と考えたソウヤだが、頭を振る。おそらく普通に殴っても、分厚く岩のように硬いヒュドラの鱗には通用しないだろう。

お手上げの時は、アイテムボックスに放り込むという手もあるが、突然ヒュドラを消してしまうマジックについて、周囲の目撃者を納得させられる自信がなかった。

人は、理解できないことを恐れる生き物だから。どうせやっつけるなら、ヒュドラを撲殺したほうがまだ、わかりやすいのだ。

「……ほんと、面倒くさ」

独りごちるソウヤ。そうこう時間稼ぎをしているうちに、ガルモーニたちがフロアの反対側通路へと無事駆け込むのが見えた。

中に入ってしまえば、ヒュドラとて手が出せない。――まあ、あいつに手はないけどな。

「ミストォ! 時間は稼いだ。こっちも離脱するぞ!」