軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第426話、ドラゴンの念話とは

「ドラゴンの念話とは……?」

イリクが代表して問うた。ジンはマジックボード――要するに黒板のように使える板に指先から魔力で作ったインクをつけて書き出した。

「大変興味を抱いてくれたようで悪いが、ドラゴンの念話を話す前に、そもそも念話の形態について軽く説明しておく」

大まかに分けて、二種類。

「まず一つ目は、放射型念話だ。一定の範囲内に、言葉や意思を乗せた魔力を飛ばす。風魔法の拡声魔法があるな? あれを声や音ではなく、念話に置き換えたものと考えてもらいたい」

基本的に、放射型は短距離、それも視認できる範囲内が有効範囲である。

「念話の難度としては一番簡単ではある。メリットとしては、対象を目視しながら念話を飛ばせるから、確実に相手に届きやすい。また応用として対象とその周りにいる者に範囲を広げて同時に念話を送ることも可能だ」

ただし――ジンはマジックボードに書き付ける。

「こちらからの一方的な念話だから、相手も念話を使えなければ念話による返事を受け取れない」

「まんま、拡声魔法ですね」

サジーが発言し、ジンは頷いた。

「まったくその通り。うまく対象を制御できないと、敵味方関係なく範囲内の全員に内容を教えてしまう危険性もある」

それは問題だな――と、魔術師たちが顔を見合わせる。

次に――老魔術師は新たな項目を書いた。

「相手を指定して、直接念話を繋ぐやり方。相手を強くイメージすることで、その人に対して念話を飛ばす。これは放射型に比べて標的が絞られている分、より個々での通信に向いている」

これが難しいんだ――とアーチがぼやいた。ジンは続ける。

「使い手の魔力が届く範囲にもよるが、放射型よりも遠方、相手の姿が直接見えない位置での交信も可能な傾向にある。……と、前回講義したが、あれからうまく使えた者はいるかな?」

一応――と、何人かが手を挙げた。

「正直、誰もいない部屋なのに声が聞こえて、ビビりました」

「突然、念話を送られてビックリしたというか……」

「なんか声みたいなのが聞こえるんですが、何を言っているのかさっぱりでした……」

まるでホラーみたいな話が続出する。

「まあ、念話だから相手がいないとわからないからね。慣れないうちは仕方ない」

ジンは顎髭を撫でた。

「さて講義に戻ろう。この相手を指定して念話を送るやり方は、相手をイメージすることが重要だ。ゆえに、まったく知らない人間に送るのは困難でもある」

知らない人間には送れないとみたほうがいい。

「一方で、何故イメージだけで相手に念話が送れるのか。その詳しい理由や仕組みについては、残念ながらわからない。ただ『魔法』だからと非論理的ではあるが、そう割り切ると何故かうまくいくこともある」

案外、魔法だからと受け入れたほうが、かえって習得しやすいのが魔法だ。

「私のかつての師も言っていた。『難しく考え過ぎるな。できないと思うことが失敗の原因だ』と」

ジンの『師』の言葉と聞いて、さっそくメモにとる真面目な者がいた。

「もっともイメージで相手に念話を飛ばすやり方も、術者次第で届く範囲が違うから、世界のどこにいても交信できるわけではない。どこまで届くのかは、試してみないとわからないが……。近いうちにソウヤに頼んで検討の時間を作ろう」

はい、と魔術師たちは頷いた。自分の念話がどこまで届くかは、やはり気になるだろう。

「さて、ここで話を戻してドラゴンの念話について説明しよう」

魔術師たちの背筋が自然と伸びる。

「ドラゴンという種族は魔力による探知に長けている。遠方から対象を見つける術を持っていて、中には千里眼なる魔法の目を持つものもいる」

千里眼……! 魔術師たちはざわめく。

「そしてドラゴンは念話を飛ばしたい対象を見つけると、魔力を繋げる。見えない糸を繋げられるような感じだ。そうなるとドラゴンは対象に直接、魔力念話を当ててくる」

先ほど突然念話を送られてびっくりしたとか言っていたが、よりはっきりとした声として聞こえてくるのだ。

「そして念話を当ててくるドラゴンというのは、大抵、その種族の言葉を習得している。ドラゴンからの念話は話し合いを望んでいると考えていい。……ただし、この念話が咆哮だった場合は警告だ。殺すぞ、と脅されているので、さっさと逃げるように」

一同が苦笑を浮かべた。冗談めかしているが、本当のことなので覚えておいたほうがいい事柄である。

「ドラゴンは相手を見て念話を使う。つまり、我々、人種族よりも遠方から、かつ正確に念話を使う。状況によっては、相手とその仲間たち全員に、放射型念話を浴びせてくることもあれば、魔力を繋いで個々でのやりとりもできる」

つまり――イリクが口を開いた。

「ドラゴンは複数の魔力念話を使い分けている、ということですね?」

「その通り。君たちが師から教わった念話こそ、魔力念話だとあぐらをかいている間に、ドラゴンは様々な方法で念話を使いこなしているのだ」

おおっ――魔術師たちが感嘆の声をあげる。ジンはボードに書く。

「ドラゴンによっては、念話を使えない相手であっても、ただ呼びかけるだけでなく、相手の言葉を念話に変換して受け取ることもできる」

「そんなことが……!?」

「先にも言ったとおり、ドラゴンは相手を見ているのだ。呟きや口の動きから言葉を推察し、それを魔力に変換して自分のもとへ送るという芸当もこなすのだ」

「ドラゴンってすげぇんだな……」

アーチが目を丸くしていると、ジンは笑みを浮かべた。

「私がかつて出会ったドラゴンには、その姿を見せる前から念話を送りつける要領で『竜の威圧』を送ってきた者もいた。ドラゴンは遥か彼方にいても『見ている』からね」

竜の威圧と聞いて、何人かがぶるっと震えた。実際にミストが威圧を使って挑戦者勢の大半を動けなくしたのを覚えていたのだ。

「さて、ドラゴンが充分凄いことはわかっただろうが、かといって我々人間にも同様のことができないとは言っていない。ドラゴンの念話も、我々が使う念話と被るところも多々ある。関係している部分から入り、工夫していけば君たちにもドラゴンの念話を習得することができるだろう」

ドラゴンの念話を習得と聞いて、魔術師たちの目が輝く。やる気になったところで、念話の実地訓練を――と思ったところで、来客があった。

「ジン、いるか?」

クラウドドラゴンだった。灰色髪の美女が淡々とした表情でやってきた。彼女を見た魔術師たちは、一様に緊張する。まだ伝説の四大ドラゴンに対して畏怖の感情が先行してしまうのだ。

「何かご用ですかな?」

一方、不老不死の魔術師は、ご近所さんがやってきたとばかりに鷹揚に応じる。

「ツウシンキなるものを作ったと聞いた。見せて」

好奇心旺盛でフラフラすることに定評のあるクラウドドラゴンである。大方、ライヤーあたりが通信機を使っているのに興味を持ったのだろう。

「まだ試作段階なんですがね……」

ジンがブローチ型の通信機を出せば、ふんふんと説明を聞くクラウドドラゴン。授業が中断されているが、ドラゴンの反応が気になって魔術師たちは注目している。

「そういえば、念話玉をあなたは持っていましたね?」

「うん。だからどちらが使えるのか、見定めようと思ってきた」

クラウドドラゴンは水天の宝玉を出した。