軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第417話、消えたコング

デュロス砦を包囲した汚染魔獣は全滅した。

しかし問題もあった。

この大量の汚染された魔獣の死骸である。

「さすがにこれは処分しないとまずいよな……」

「死体は病原菌の温床だ。しかも汚染という厄介な代物だ。どこでどんな病気となるかわかったものじゃない。大丈夫だ、ソウヤ。魔術師たちにやらせよう」

ジンはきっぱりと告げた。

「火属性の魔法の練習に持ってこいだろう。周囲を気にして加減する必要がないから、爆裂魔法なりの訓練にちょうどいい」

魔術師師範の顔が出た。銀の翼商会にやってきた新人たちは、ここに魔法修行にも来ているわけで、実践の機会は大いに利用しようというのがジンの心理だった。

「じゃあ、任せるよ」

ソウヤは、ジンと魔術師たちに魔獣の処分を一任した。

さすがに汚染された魔獣からは、素材利用や食用肉を取るのが怖いので、集めたりしない。

――これが汚染魔獣じゃなけりゃあな。解体して、うちの品にしてたのに。

汚染魔獣の肉など売り物にはならないだろう。

ゴールデンウィング号が降りてくる。ドラゴンたちは戻ったのか、空にその姿はない。一言、お疲れさんと声をかけておきたかったが。

ソウヤは砦の門を出て、汚染魔獣の死骸を眺める。どうやって避けたら進めるだろうか。足をつけられる地面が少ない。

「リアハが言ってくれなかったら、まだ時間が掛かっていただろうな。ありがとな」

「え? い、いえ、お役に立ててよかったです」

リアハは、はにかんだ。少し顔が赤いのは照れているのだろうか。

「それにしても、ここはいったい何だったんだろうな?」

ソウヤは腕を組んだ。

「留め置かれた汚染魔獣の集団。これが魔王軍の戦力になったら脅威だったが、結局、魔族は現れなかった」

忘れられた汚染魔獣たち、魔王軍の置き土産だろうか。

「牧場……」

ぽつり、とリアハが呟いた。

「もしかしたら、時が来るまで、汚染魔獣たちを留めておく場所だったのかも」

「牧場かぁ」

なるほど、とソウヤは思った。

「時が来たら、というのは魔王軍による再度の侵攻か。もっともらしく聞こえるな」

だとすれば、魔王軍の未来の戦力を減らしたことに成功したわけだ。しかも汚染魔獣の情報や、その対処方法もこちらが獲得した上でだ。

ただ気がかりは、ここ以外にも似たような場所が世界には存在しているかもしれないということだろう。

「ソウヤさん」

リアハが一点を指した。見れば魔獣使いのコレルと、リザードマンのフラッドだった。

ソウヤは申し訳ない心象を抱く。

「コレル……」

「ソウヤ、クレルは見つかったか?」

ギガントコングのクレル――その姿は、ついぞ見ることはなかった。

「見かけてはいないが……汚染魔獣となっていたなら、おそらく――」

「クレルは死んでいないぞ」

コレルは断言するように言った。ソウヤは困惑した。

――いや、ここの汚染魔獣を見れば、もしいたなら助からないことくらいはわかるだろう。

「左様、クレルは死んでおらんでござる」

フラッドが胸を張った。

「誰も、ギガントコングの姿を見ておらんでござる。魂を呼んだが応えなかった。まだ生きておるでござる」

「そうなると……」

ソウヤは改めて死骸の山を見た。

「汚染されていたら大気が変わったことで死んじまうよな。それがないってことは、そもそもクレルは汚染されていないってことか?」

「場所はわからないのですか?」

リアハは質問した。フラッドは首を横に振る。

「さすがに現在位置まではわからんでござる。申し訳ない」

「い、いえ。別に謝らなくても……」

困惑するグレースランドの姫騎士。ソウヤはコレルの横に立った。

「どう思う? 死んでいない。汚染魔獣でもない……」

「どこかに移動したと考えるべきだろうな」

腕を組んで唸るコレル。

「少なくとも、この土地で十年間汚染されずに生きるのは不可能だろう。そうなると……」

「……」

ソウヤは押し黙る。もしかしたら、と思ったことがひとつあるが、それを言うべきか迷ったのだ。

しかし、コレルはその可能性に行き当たっていた。

「魔王軍に捕獲された……」

何のためかはわからないが、割と希少なギガントコングを、何かの実験に使おうとして連れ去られた説が脳裏をよぎった。

「そうなると、お手上げじゃないか?」

もし連れ去られたなら『どこに?』という話になる。いつ、どこで誘拐されたかわからなければ、場所もわからない。

「わかっているのは、生きているということだけ」

ソウヤは渋い顔になる。

「天狼や大牙で、ニオイとか追えないのか?」

「いつ消えたかわからない痕跡を探せと?」

コレルも表情を歪めた。

「汚染魔獣でないなら、ここを離れたのはだいぶ前だろう。ニオイが残っているとも思えん」

「だよなぁ……」

昨日今日というなら、やってみる価値はあったかもしれないが。

「ン?」

フラッドが顔を上げた。

「ボートが来るでござる」

浮遊ボートが東の空からやってきた。情報収集に出ていたカマルだ。

「野郎、もう終わっちまったのに」

戻ってきたカマルとソウヤたちは合流した。

「もう終わっちまったぞ。汚染魔獣の件は片がついちまったぜ」

「そうか、せっかく情報を集めたのに無駄足になってしまったか」

さほど気にした様子もなく、淡々とカマルは言った。コレルは眉をひそめる。

「だが、まだクレルは見つかっていない」

「ギガントコングだろう。その件なんだがな――」

カマルは、やはり淡々と告げた。

「十年前にギガントコングが捕獲されて、運び出されたという話を聞いた」

意外なところから光明が見えたかもしれなかった。