軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第398話、ナールのお願い

地下拠点から地上へと移動する道すがら、ソウヤにイリクは問うた。

「このアジトはどうしますか?」

「放置する」

ソウヤは即答した。リアハが聞いた。

「使えないようにはしないのですか?」

「その判断は王国に任せる。この場所は王国に引き継がせるが、それまでは監視を置いておこうと思う」

「監視ですか?」

眉をひそめるイリク。ジンが口を開いた。

「ここに、別のところから魔族兵が来ないか見張るのだ」

魔族の連絡員が来るかもしれない。その者がこの拠点を確認した後、自分のテリトリーへと戻るだろう。そこを追跡すれば、敵の別の拠点まで案内してもらえる、という寸法だ。

「まあ、使えないようにしてもいいんだろうけど、何か危険な設備があるわけじゃないし、すぐにどうこうする必要はない」

エンネア王国が、ここをどうするかについては知らないが。

「旦那ァ~」

大人の癖に情けない声がした。ここの盗賊団の料理番であるナールだった。武装していない上に、これまで無抵抗だったので見張りはすれど拘束はしていない。

「旦那ァー、魔族をやっつけたんだってぇ?」

「ああ、これから撤収だ」

「なあなあ、オレの心臓はどうなってた?」

自分の心臓が気になっていたか。当然と言えば当然である。ナールが聞いてくるので、ソウヤは答えた。

「回収したぞ。戻して欲しいのか?」

「当たり前だろう? 自分の心臓だぞ? ないと困るだろう?」

「でもお前、生きているよな?」

「半分死体なんだって。だから早く戻さないと、体がじわじわ腐っていくって、トカゲ女は言っていたぞ」

「なるほど」

ソウヤは、ナールから漂ってくる臭気に眉をひそめた。

このアジト、独特の臭気があると思ったが腐臭に近いものだったようだ。

「なあ、頼むよ旦那ァ。何でもするからさぁ、心臓をオレに返してくれないか?」

「何でもするって?」

「ああ、オレは料理番だからメシを作るし、皿洗いだってするさ。だから頼むよ!」

必死にお願いをするナール。大の大人がまことに情けないのだが、それだけ必死ということなのだろう。恥も外聞もないのだ。

「爺さん。物は試しだ。こいつでやってみるか?」

心臓を元の体に戻す実験台として、色々調べて成功率を高めようという魂胆。本人が熱烈に希望しているし、前科持ちの盗賊の一員だから失敗してもこちらのダメージは小さい。

非道と思うかもしれないが、何事にも危険を承知で実施する最初というものがあるのだ。

「試すのはいいが、できれば術を使った当人から話を聞いてからにしたいね」

ジンは鷹揚に答えた。

「さすがに人の命が掛かっているからね。やるにしても失敗はしたくない」

「じゃあ、あのトカゲ魔術師を出すか」

ソウヤは頭をかきながら、ナールを見た。

「とりあえず、お前らの心臓を抜いたというトカゲ魔術師は捕まえてある。そいつから話を聞いたら、心臓を戻してもらう」

「恩に着る! ありがとう! ありがとうっ!」

ナールは少々大げさに感謝を露わにした。こうして見る分にはお調子者というか、そう悪い奴には思えなくなるから不思議だ。

・ ・ ・

というわけで、盗賊たちのアジトの一角。その大広間で尋問ををすることになった。

銀の翼商会の新人――魔術師たちが集まり、様子を眺めている。

何せ人の心臓を取り出しながら生かすという秘術の使い手である。それには魔法を使う者として関心が強かった。

他にオダシューとアフマルが尋問での荒事に備えていて、治癒魔術師のダルもまた近くで様子を見守っている。

ソウヤはアイテムボックスからトカゲ魔術師――カイダを出す。

彼女は弟子のダークエルフに蹴られたダメージが抜けきらない状態で、時間経過無視のアイテムボックスに入ったので、すぐには起き上がれなかった。

その間に、ジンが拘束の魔法を使って、カイダの行動と魔法を封じた。

「じゃあ、爺さん。後は任せていいか? カマルに送る報告書作りたいから」

「ああ、任せてくれ」

老魔術師は頷くと、カイダの正面に立った。

「さて、魔王軍の魔術師くん。お話を――」

「ふん、人間ごときとお喋りなどするつもりは――」

「――する前に、ちょっととある魔法を使うからね」

ジンは相手を無視しながら言った。右の袖を引き上げ、手から肘までの肌を出す。

「さあて、諸君お立ち会い」

老魔術師は芝居がかった仕草で、商会の魔術師たちに言った。

「これから、ひとつの魔法を披露する。よい子は決して真似をしないように――」

するとジンの右手が光りはじめた。おおっ、と周囲から声が漏れる。

「悪いが、動かないように押さえてもらえるかな?」

「わかりました」

オダシューがカイダを後ろからつかんで固定した。

「ちょっと!? 何をする気ぃ?」

トカゲの魔術師が喚く。オダシューも首を傾げた。

「で、ジンさん。何をするつもりなんです?」

「まあ、見てて」

そう言うと、ジンは、カイダの胸の中心に光る右手を当てた。

次の瞬間、魔術師ローブごしに、ずぶっと老魔術師の右手がカイダの体の中に入った。

「うおっ!?」

周囲から驚きとも悲鳴ともとれる声が上がる。まさか、魔族を処刑した?――などとざわめきが起きる。

「あ……あ……あぁ」

カイダは口を開き、痙攣しているようだった。ジンの手がめり込んだまま動いて、やがて、赤黒い血に濡れたその腕を引き始めた。

「まさか!?」

ナールが叫んだ。

「あんた、嘘だろ!? まさか心臓をとったのか!?」

覚えのある光景に、ナールは察したのだ。同時にその答えでもあるカイダの心臓が老魔術師によって引っ張り出された。

あっ、と魔術師たちが驚愕する中、ジンは右手の心臓を見やり、肩をすくめた。

「久しぶりにやったが、これはまた、しばらく肉が食べられなくなるな」

ドクっ、ドクっと、ジンの手の中で鼓動を繰り返している心臓。

体から心臓を抜かれたカイダは、しばしピクピクと体を震わせているが、生きているようだった。

「さて、ハイリザードの魔術師よ。これを専用の溶液に入れた容器にしまわないと、たぶんそう長くないうちに死ぬだろう」

ジンは淡々とカイダを見下ろした。

「その前に、あそこにいる男に心臓を返してやってはくれないか? 私もできるのだが、なにぶん自信がなくてね。ほら、右手の握力がどうにかなりそうで……」

ぐぐっと掴んでいる心臓を握りしめれば、カイダは呻いた。心臓を握られ、痛みがダイレクトに伝わっている。

「さあ、頼むよ」

老魔術師は事務的に言った。