軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第397話、心臓がいっぱい

魔王軍の残党の地下拠点。研究室を調べた結果、透明なガラスケースに保存された心臓を発見した。

何らかの溶液に満たされたケース内の心臓は、繋がっていないのに鼓動を繰り返している。盗賊たちと、他にもそれなりの数だ。

「何だか、これ自体が生き物みたいですね」

「不気味」

リアハとソフィアが眉をひそめている。ソウヤは首を傾ける。

「でも、これが人間なら誰もが胸の奥にあるんだぞ。オレも、お前たちもな」

「うー、こんなのが私の中にもあるのー?」

ソフィアは心底嫌そうな顔をしたが、リアハはさほど反応を示さなかった。

人間の臓器なんて、初めてみたらそれは奇妙なものに見えるかもしれない。

人の腹の中が剥き出しになっているのを見て気分が悪くなったり吐いたりというのは珍しくない。戦場でそういうのを沢山見てきたソウヤである。

――リアハとソフィアの反応もそれが関係しているのかな……?

ソウヤは思う。魔法騎士であるリアハは、より敵と近いところで戦い、その血や贓物の臭いなどを感じている。

だが、後方から魔法を使うソフィアは、同じ臭いを遠くに見たり感じたりしているので、その受け止め方も違うのではないか。

どちらがいいとか悪いとか、そういう話ではないが。

ジンとイリクが、回収した心臓を見聞していた。

「ジン殿、これはいったい?」

「死霊術の類だろうね。心臓を抜かれた人間は、半アンデッドとして生きていることから見ても、闇の魔術だよ」

「魔族にこのような魔法が存在するとは……」

驚くイリクに、ジンは皮肉げに言った。

「真の魔術だ。どうしてこうなるのか、考えてもさっぱり説明できない事象をコントロールするのだからね」

「真の魔術……?」

「いいとか悪いとかは別にしてだ」

ジンは顎髭を撫でた。

「科学的な事象を再現するのが魔法へのアプローチのひとつだ。だがこの心臓を抜いても、なお生かすというのは、神の領域、神話の世界、科学的には証明できない力によって働いている。これもひとつの魔法、魔術というものだ」

「ジン殿はこの術を?」

「かつてネクロマンサーの友人がいてね。死霊術もある程度理解しているよ」

「なあ、爺さん」

話を聞いていたソウヤは口を挟んだ。

「するとこの心臓を、あんたなら元の体に戻せるのか?」

「ぶっちゃけ、心臓を再生させたほうが早いがね」

「再生!? できるのですか!」

イリクが食いついた。ジンは片方の眉をつりあげた。

「できるだろう。治癒魔法なんて、人体の損傷を再生で治す魔法だ。きちんと理解を深めれば、損傷した臓器はもちろん、体の部位の欠損だって治せる」

「おおっ!? 何と!」

宮廷魔術師は驚愕した。彼にとっての常識と、異世界を放浪した不死の魔術師のそれは、微妙どころかかなり開きがあった。

「高位の治癒魔法には、あらゆる傷や病を治すと言われるものがありますが……。ひょっとして、その人体に対する理解度が効果に大きな影響が出るとか……?」

「まさに。漫然と『治れ』と対象の再生を高めるよりも、どこにどう力を送るか理解しコントロールすれば、君たちが高位という治癒魔法の習得も難しくはないね」

「何と……! それでは今からでも勉強すれば、私にでも高位大司教のような魔法を――」

「できるだろうね。むしろそれ以上になれると思うよ」

おおっ、とイリクが興奮し、ソフィアもこっそりやる気になっていた。親子だな、とソウヤは思った。

「それで爺さん。心臓、戻せるのか?」

「条件付きで可能と答えておく」

「条件とは?」

イリクが早速問うた。

「心臓を抜かれた人間と心臓をどうつないでいるか、その処理の方法をまず理解しないといけない。ただ心臓を元の位置に戻せばいいというものでもないんだ」

そこでジンは声を落とした。

「処理を間違えれば、くっつかずに殺してしまうだろう」

「……」

イリクもソフィアも興味深げに聴き入っている。これは他の魔術師たちもこの場にいれば同じ反応だったに違いない。

むしろジンのありがたい講義の場にいられなかったことを地団駄を踏むのではないか。

「じゃあ、やっぱあのトカゲ魔術師を締め上げて方法を聞き出したほうが安全か」

ソウヤが言えば、老魔術師は言った。

「正直に話すかどうかはわからないがね」

「尋問しますか?」

イリクは言ったが、どこまで情報を引き出せるか。ジンの言うとおり、魔族がそう簡単に情報を漏らすとも思えないが。

――拷問もありなのだろうが……。オダシューに相談してみるか。

暗殺組織の者なら、その手の情報の引き出し方も知っているだろう。

「ソウヤ様ー」

「お、レーラ」

やってきた聖女。彼女にはひとつ仕事を頼んだのだが。

「領主んとこの騎士たちはどうだ?」

「回復しました。心臓は盗られていないそうです」

「そいつはよかった」

魔族兵の捕虜となっていた騎士たちは、若干の衰弱が見られたが、レーラの治癒の力で特に問題はないようだった。

もっとも、聞いた話では救出の段階ですでに七人が死亡していており、生き残ったのは三人のみだったが。

彼らは領主に報告に戻るだろうが、こちらも王国――カマルに報告をしておく。王国内に魔王軍の残党のアジトを発見、これを制圧せり、と。

捕らえた魔族の件も報告すれば、引き渡しを要求されるだろう。王国も魔王軍の残党の動きを知りたいと思っている。

ソウヤとしても、情報を共有してくれるなら捕虜を提供しようと思った。むしろ、そのほうがこちらで尋問をしなくて済む。

――ついでにここの領主と話をつけてくれると面倒がなくていいんだがな。

エンネア王国にも多少は苦労を分かち合ってもよかろう、などと考えて、憂鬱になりかけた気分を吹き飛ばす。

「とりあえず、一度外に戻ろうか」

ここはどうにも蒸しっとして暑さを感じた。