軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第394話、十年前も今も

アジトの外へ出る通路をソウヤは歩く。外の空気を吸おうと思ってだ。

イリクがついてきた。

「それにしても、思いがけず魔族の拠点にぶつかりましたな」

「領主の兵が行方不明って話が出て怪しいと思ってきてますからね。外れでなくてよかったというべきかは、微妙なところですが」

「どれほどの規模なんでしょうかね? 手に負える程度ならよいのですが」

その結果は、シェイプシフターの偵察待ちである。

「状況によっては、態勢を整えて一度下がる必要があるかもしれない」

敵が数百もいるような大規模拠点ならば、力押しでどうにかするのは難しい。

外に出た。中は臭いがこもっていたから森の空気が新鮮に感じた。夜の鳥の鳴き声が聞こえ、改めて付近に危険な敵がいないと感じる。

しかし見回せば、氷のオブジェと化した盗賊たちがあちこちにあって、異様な雰囲気があった。

「あ、ソウヤー!」

ソフィアが手を振ってきた。

「これ、アイテムボックスに閉じ込めておけない? また動き出したら厄介だわ」

「おう」

氷漬けの盗賊たちは、完全に動きが封じられていた。だが心臓がなく、この状態では不死身のような状態なので、氷が溶ければまた襲ってくる可能性がある。

時間経過無視の空間に放り込めば、復活されることもない。

ソウヤは冷凍盗賊をアイテムボックスに収容していく。

外の戦いで何人か負傷したようで、レーラやダルが治癒魔法で治療をしていた。見たところ、重傷者はいないようだった。軽傷で済むほど新人たちのレベルが高かったか、あるいはレーラたちの魔法の腕がいいのかはわからないが。

「ソウヤ様」

レーラが気づいた。

「お怪我はございませんか?」

「大丈夫。こっちは無傷さ。悪いな、仲間の手当てをしてもらって」

「いいえ、これが私の役割ですから」

レーラはニコリと微笑んだ。

一瞬、ソウヤは十年前に戻った気分になった。魔王討伐の旅で、戦いの後、レーラは仲間の傷を癒やしながら、体だけでなく心にも温かさと優しさを周囲に与えていた。

先ほどまでの魔族アジトについて感じていた不安や得体の知れなさが、かなり緩和される。

「どうしました?」

「いや……何でもない」

レーラの顔を見てニヤニヤしていたなんて恥ずかしい。ソウヤは小さく首を振ると、聖女のそばに立っていたメリンダに気づいた。

「やあ、メリンダ。久々の実戦はどうだった?」

「いきなりアンデッドもどきとは、中々ハードだった」

女騎士はやれやれと肩をすくめる。

「だけど私的には数週間のブランク程度だから……久々か」

考え込む真面目女騎士。これでも十年前は頼りになる前衛の騎士だった。

「しかし、気分的には魔王軍と戦っていた時とさほど変わらないな。十年経ったと聞いてなければ時間の経過などなかったように」

「……つまり、お前さんからすると、あの頃と今も変わってないってことか」

それはそれで、少々複雑な気分になるソウヤ。

魔王を討つことで平和な世界を取り戻すという目的のためにあの頃は戦っていた。その結果は? 世界は平和になったはずだが、戦っていた頃と変化がないのでは、何のために戦ったのだろうかと思わずにいられない。

だがふと、自分も十年前を思い出したばかりではなかったか。それに気づいてしまい、ソウヤは考え込む。

「平和は守っていくもの」

レーラが目を伏せた。

「たとえ大きな戦いが終わっても、それで全てが終わるわけではありません。……以前、魔王との戦いが終わったら、戦うことしかできない自分はどう生きていけばいいか、と相談を受けたことがあります」

そんな相談をした仲間がいたらしい。相談されるとは、さすが聖女である。

「魔王を倒しても仕事はなくなりませんよ、と私は答えました。残念ながら、世界には戦いが溢れていて、守る戦いに終わりはない……。聖女がどこででも求められるように」

どこか自嘲するようにレーラは言った。どうやら気を使わせてしまったようで、ソウヤは苦笑した。弱音を吐いたわけではないが、顔に出てしまったようだ。

「そうだな。あの頃と変わらないのは、あの時同様、戦いの場にいるからだ。そりゃ、変わらんさ」

ソウヤは屈託なく笑った。

「しかし、レーラに相談した奴じゃないが、俺も魔王を倒した世界には勇者はいらないって思ってた。それで始めた商人だけど、早まったかもしれないな」

銀の翼商会を始めて、商売もそこそこ上手くいっているが、十年前と同様、魔王軍絡みで戦っている。

元勇者だから。戦えるから。そちらで力を発揮できるなら、使わないのは宝の持ち腐れだ。

――結局、オレは骨の髄まで勇者が抜けきれないらしい……。

「ソウヤ」

カーシュが呼びにきた。

「シェイプシフターがぼちぼち戻ってきた。いま、内部の大まかな図を描いてもらってる」

「おう!」

さて、勇者のお時間だ。ソウヤは魔族のアジトがどうなっているか確かめに戻った。

・ ・ ・

「地下へ下る階段の先の通路を進むと、大きな空洞が存在します」

カエデが紙にそれを描いていく。シェイプシフターが集めた情報を、ソウヤやミストら幹部らが見守る。

「空洞には居住区画があって複数の小屋のようなものが天井と壁にあります。魔族の兵士が住んでいて、人数はおよそ50人ほど」

「結構な数がいるな」

ソウヤが呟けば、ミストは笑みを浮かべた。

「退屈はしなさそうね」

「――それで奥に、祭壇があります。魔術師の工房のようで、そこでリザードマンの魔術師が何やら実験をしていました」

カエデが書き込む。見たところ建物ではないようで広場めいた広さの場所に祭壇と、他に実験機材などがあるらしい。

「――ここに、鳥カゴ型の牢があって、人間を確認しました。三人」

「領主の調査隊の生き残りかな」

「人質か。いや、実験材料ですかな?」

イリクが唸った。ソウヤは頷いた。

「助けないとな」

「中は照明はあるのかな? 光源が必要か?」

イリクの質問に、カエデは答える。

「照明があるので、やや暗いですが、特に光源を持っていかなくても行動はできそうです」

「そいつは結構。オレたちの行動だが――」

ソウヤは、カエデの描いた地図をなぞり、作戦を説明していった。