軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第333話、セリア、到着

グラスニカ邸での晩餐。ソウヤは、イリクがメイドから、ソフィアとアヴラの様子を聞いているのを横から見ていた。

「――だいぶ打ち解けられたご様子で、楽しそうでした」

「そうか、ご苦労」

イリクが頷き、メイドが下がった。グラスニカ家の主は、ソウヤたちの視線に気づき、口を開いた。

「妻と、娘の話です。荒れることもなく、穏やかに会話しているとのことでした」

「それはよかった」

ジンが言えば、リアハもホッと息をついた。

――こらこら、ミスト。騒動を期待して不満そうな顔をしないの!

ソウヤは口には出さなかったが、そう心で呟いた。

問題がないのなら、それでいいのだ。

――奥さんに、イリク氏がよく話したか、あるいは親子としての情念はしっかりあったんだろうなぁ。

家族から冷遇されていた、とソフィアは言っていたが、案外、行き違いやすれ違いの部分もあったのかもしれない。

大抵の問題は、腹を割って話し合えば解決するものともいう。知らないから、理解できないから対立や差別が生まれるというのはよくあることだ。

「旦那様」

執事がやってきた。

「セリア・グラスニカが到着いたしました。旦那様へ至急の報告があるそうです」

「来たか」

イリクは表情を引き締めた。

ソフィアを陥れようとしている従姉妹とやらが、とうとう現れたようだ。

――こらそこ、楽しそうな顔をしない!

ミストがウキウキしているのを尻目に、ソウヤに対してイリクは頷いた。

「では、彼女と会ってきましょう。そばに控えていてもらってもよろしいでしょうか?」

「もちろん」

断る理由がない。ソウヤは、イリクとセリアの会談を隣室で見張ることになった。

・ ・ ・

セリア・グラスニカは、覚めるような青い髪の少女だった。

年齢はソフィアと同じという。キリリとした表情と相まって、すでに魔術師として貫禄を感じさせた。

何より、自信に満ちあふれた顔をしている。

「緊急報告ゆえ、急ぎ馳せ参じました、イリク様」

片膝をついて、恭しく頭を垂れるセリア。向かいに立つイリクは『うむ』と頷いた。

「バロール方面からよく戻った。して、緊急報告とは?」

「はい、残念なお知らせですが、バロールの町にあったお屋敷が燃やされました! 放火です!」

「なんだと!?」

知っているのだが、イリクは初めて知ったように振る舞った。隣の部屋から聞き耳を立てていたソウヤたちは、思わず表情が緩んでしまう。

「いったいどうしてそうなった!?」

「まことに申し上げにくいのですが……」

セリアは、ためらいの表情を浮かべる。

「犯人は、ソフィアです。彼女が屋敷に火を放ったのです!」

「何故だ!?」

「わかりません……。ただ、推測になりますが――」

セリアは言った。

「一族を逆恨みしての犯行と思われます。目撃者の証言によれば、ソフィアは魔法を使ったとのこと――」

「魔法だと?」

――来るぞ来るぞ……。

ソウヤは、イリクの芝居にニヤリとする。

「ソフィアは魔法が使えないではないか。どうして魔法を使ったというのか?」

「実は、先日、こちらのお屋敷から、グラスニカ家に伝わる秘伝書の盗難事件がありましたが……それに、ソフィアが一枚噛んでいたようです」

「どういうことだ!?」

「は、秘伝書を盗んだ者は、元魔術師でソフィアと共謀していたのです。盗んだ秘伝書をソフィアに渡し、彼女はその力で魔法を身につけたようです」

――ほうほう、秘伝書泥棒は、ソフィアではなく、共犯者の仕業か。

バロールの町の屋敷に引きこもっているはずのソフィアでは、王都で犯行は無理という点を、そうカバーしてきたか。

「して、その共謀者は?」

「わたくしが始末致しました」

セリアは頭を下げた。

「秘伝書盗難の犯人を追い詰めたのですが、すでに秘伝書はソフィアの手に渡っていたようです。いまも、彼女が持っているものと思われます」

「その共謀者とは何者だったのだ?」

イリクは問うた。セリアは、間髪入れずに答えた。

「元冒険者の魔術師でした。冒険者の認識票ではウォルトという名前でしたが……お心当たりは?」

「ない」

適当にでっち上げた名前か、それとも本当にウォルトという魔術師がいたのか――

「こちらが、その冒険者票となります」

セリアがそれを提出した。

中々やるもんだ、とソウヤは思った。物証になりそうな品を提出したことで、話に真実味が出てくる。

冒険者ギルドに問い合わせれば、ウォルトなる人物のことが多少はわかるだろう。ソフィアが雇うのは無理だから、実際にはセリアの共犯者かもしれない。殺してしまえば、死人に口なしである。

それかクエスト中に死んだ魔術師から、とってきたものかもしれない。

「それで、お前はどうするべきだと思う、セリア?」

イリクが問うた。

「わたくしとしましては、行方をくらましたソフィアを追うべきかと」

セリアはきっぱりと告げた。

「彼女が、秘伝書を持っている以上、取り返さねばなりません。バロールのお屋敷を燃やしたことからして、おそらく一族への反逆を企てていると思われます」

――よくもまあ、ベラベラと。

「場合によっては、生死を問わず……」

重い口調でセリアは言った。一族に害をなす存在であるなら、やむを得ない。そう覚悟した調子で。

「あいわかった」

イリクもまた重々しく言った。

「他に報告すべきことはあるか?」

「ございません」

「そうか。……私が聞いた話と違うのだが、説明してくれるか?」

「と、申されますと……?」

「屋敷に火を放ったのは、お前だと聞いているのだが……これをどう説明する?」

イリクはセリアを睨みつけるのだった。