軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第300話、ソフィアの問題

ソフィア・グラスニカは、魔術師になるための修行をしていたのだ。

彼女に魔法を教えたミストとジンという二人の師に言わせれば、ソフィアは充分に一線級の魔術師である。

「グラスニカ家は、エンネア王国でも有数の魔術師の家であり、ついでに貴族である」

魔法が使えないということで、ソフィアは実家から冷遇されていた。ただ冷遇されていただけではない。家族か親族、あるいは近しい者から、魔法を使えなくなる呪いをかけられていた。

「家族に対しては、目の前で魔法を使ってみせれば解決するでしょう。冷遇していた理由が魔法が使えないってことなんだから」

ミストはそう指摘した。

「問題になるのは、ソフィアに呪いを仕掛けた奴ね」

その犯人は不明だが、ソフィアが凱旋した時、おそらく何らかの攻撃に出てくる可能性が高いと思われる。

「ワタシの本音を言えば、せっかくここまで育てた娘を、忌々しい敵の毒牙にかけさせたくないということ」

「それには同感だ」

仲間として、それは見過ごせない。

「ついでに言えば、そのふざけた奴には相応の報いを与えたい」

「……」

ドラゴン族に多く見られる『やられたらやり返せ』という絶対報復主義。

――こうなると、ドラゴンってしつこいんだよなぁ。

それだけソフィアに対して、弟子として認めていたということだろう。そこは種族は関係ないようだった。

ジンは天を仰いだ。

「そうなると、誰が呪いをソフィアに施したか調べる必要があるな」

いきなり乗り込んで、怪しい人間すべてを殴る、とか野蛮な真似はできない。

「ソフィアの家ってどこにあるんだろうな」

初めて会ったのが、エンネア王国東端の港町バロールだった。町かその近辺あたりか。本人に聞けばいいだろう。

あとついでに、カマルに転送ボックスで手紙を送って、グラスニカ家について問い合わせることにする。何かわかるかもしれない。

・ ・ ・

「わたしの家? お屋敷ならエンネア王国の王都よ。……実家はバロールの町だけど」

ソフィア本人は、そう答えた。

ソウヤはミストらと話し合ったことを、ソフィアにも打ち明けた。

「え、なに、ひょっとしてわたしが、邪魔だったり?」

「んなわけねえだろ」

いきなり実家の話が出たせいか、ソフィアの表情がわずかに曇った。

魔術師になって、家族を見返す。その思いで頑張ってきた彼女だが、冷遇された過去は半ばトラウマに近く、憂鬱にさせるようだった。

「そりゃあ、いつかは対峙しないといけないって思うけれど……」

なかなか踏ん切りがつかない、という顔をしている。

「自信がないのか?」

ソウヤが聞けば、ソフィアは考え込んでしまう。ミストは口を開いた。

「あなた、自分の魔法が家族に負けてるって思ってる」

「いや、それは……わからないわ」

ソフィアは慎重だった。

これまでの旅で見た彼女の魔法を思い起こせば、かつての魔王討伐メンバーだった魔術師たちと互角以上だとソウヤは思っている。

つまり、魔術師としては人類上位の使い手だと、ソウヤは認めているのだ。

「わたしは、ミスト師匠やジン師匠の足下にも及ばない」

――それが原因か!

ソウヤは納得した。

いくら人類としては上位といっても、上級ドラゴンや不老不死の伝説級魔術師と比べれば、どうしても勝てない。

これは比較対象の問題だ。比べる相手が悪すぎた。

盗賊を広範囲魔法で蹴散らしたりしたのは、残念ながらソフィアの中で自信には繋がらなかったようだった。

ソウヤは視線をジンに向ければ、老魔術師は言った。

「資格は充分にある。だが実績があるほうが自信にはなるだろう」

家族の前で、魔法を披露するにしても、トラウマ一歩手前の精神状態では、うまくやれない可能性もある。

「まず、本人が自信を持てることだ」

「自信ねぇ。……何かある?」

ミストが問うた。ジンは首を傾ける。

「やはり、実績だろう。悪名高き魔獣を討伐したとか、何かの大会で優勝したとか」

「家族に魔法を見せるよりハードルが上がってね?」

思わずソウヤは言っていた。師匠たちのやりとりに口出ししないと決めているのか、ソフィアは、先ほどから沈黙している。どこか居心地が悪そうだった。

ふと、ソウヤは、子供の進路について話し合っている両親の場面を想像した。進学する学校をどうするか、本人に聞かず親で決めているみたいなものだ。

さて、悪名高き魔獣がどこかで暴れているとか、魔法を披露できるような大会などに疎いソウヤである。こういう時は、情報通を頼るのがよいだろう。

ということで、困った時はカマルに聞いてみよう。

・ ・ ・

グレースランド王国滞在中に、カマルからの返事はきた。

魔術師の成り上がりプランについて、だ。

王都で、近く魔術大会が開かれるそうで、国中の腕利き魔術師が参加して、その魔法を競うらしい。

有力者に仕えたい者、賞金を得たい者、純粋に腕試しがしたい者など参加理由はそれぞれ。大会で優勝すれば名誉と願いの報酬を得られ、成績上位者も国や有力貴族からスカウトされることもある。

――腕試し、いいじゃない。

なお、大会には、王族に加え、魔術師エリートであるグラスニカ家当主らも来るという。ソフィアの魔法披露の面でも、まさに打ってつけと言える。

……しかし、王都出身のソフィアが、この大会のことを口にしなかったのは何故だろうか? 魔術師一族で、大会の視察にも行くような家の生まれなら、この行事のことももちろん知っていてもおかしくない。

いや知らないはずがない!

ということで、さっそく本人を問い詰めてみれば――

「お父様が来るから、言いたくなかったのよ……」

いまだに自信がいまいちのソフィアである。大きな大会、そして親が観に来るとあれば、怖じ気づくのも仕方がないかもしれない。

だがせっかくの機会だ。利用しない手はないだろう。

話を聞いたミストは満面の笑みを浮かべた。

「出るわよ、ソフィア! そしてもちろん、優勝するのよ!」

ちなみに、カマルの手紙によれば、グラスニカ家の内情については調査を開始する、とあった。

誰がソフィアに呪いをかけたのか、その犯人がわかるといいのだが。

ともあれ、大会までのソフィアの魔法トレーニングが開始されることとなった。