軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第297話、悩める人たち

翌日、ゴールデンウイング号は浮遊島を離れて、一路、グレースランド王国を目指した。

レーラを故郷に帰してやるための移動だったが、そこでちょっとした出来事があった。

姉を復活させるために銀の翼商会に同行していたリアハが、旅の続行を希望したのだ。てっきり家族水入らずで、レーラと一緒にいると思っていたのだが。

「まだ世界には魔王の残党が活動しています」

リアハは決意のこもった顔でそう言った。

「銀の翼は世界を飛び回ります。魔族の動きや行動にも素早く対応できる。私は、二度と故郷が奴らに襲われないように、ここで敵を見張ります!」

これを聞いて、レーラも『それなら……』と言いかけたが、リアハは首を横に振った。

「いいえ、レーラ姉様は、お父様たちと王国にいてください。あなたは充分に務めを果たした」

「でも……」

「お父様とお母様を安心させてください、姉様」

二人がどれだけ心配していたか――そう情に訴えられては、優しいレーラはそれ以上言えなかった。

レーラは城に、リアハは引き続き残る。

いいのかな、とソウヤは首を捻る。

リアハがレーラを助けるために銀の翼商会に同行するのは、グレースランド国王のお許しがあったわけだが、その後も、となると、さすがにお伺いを立てたほうがよいのではないか?

せっかく両親姉妹が揃うのだから、リアハもしばし付き合ってあげればいいのに――、と余計なお節介を考えてしまう。

グレースランド王国首都に、一日か二日、 逗留(とうりゅう) して、家族水入らずの時間をとってあげよう、とソウヤは決めた。

さて、それはそれとして、もうひとつ、大事なことがある。

クレイマンの遺跡の発見について、だ。

持ち主がいない遺跡というなら、発見したと発表するのが普通だ。ただ、財宝を巡って皆が遺跡のあるウィスペル島に殺到するのも目に見えている。……そこで血みどろの争いになる可能性もある。

だが、現実には、ジン・クレイマンという持ち主、いや主が実在している。ウィスペル島と浮遊島は彼の持ち物であり、当然、許可なく手を出せば、不法侵入に略奪行為ということで処されても仕方がない。

ソウヤたち銀の翼商会は、ジンの許可を得て、お宝やらアイテムをもらったわけで、これについては問題はない。

「主であるジンがいる以上、浮遊島とウィスペル島はクレイマン王の領地だ」

ソウヤは一同を集めて、そう告げた。

「オレとしては、遺跡発見のことは黙っておこうと思う」

「異議なし」

カーシュが賛同の手を上げ、ミストも頷いた。ソウヤ、そしてダルがライヤーを見た。

「……」

クレイマンの遺跡を見つけるのが彼の夢のひとつ。見つけたことを発表すれば、発見者として歴史に名を残すチャンスでもある。その名誉に預かれるなど二度とない機会だ。

「ああ、おれも今は黙っておくほうに賛成するわ」

諸手を挙げるわけではなく、どこか自分を納得させるような調子だった。本当にそれでいいのか、と確認したくなる顔である。

「『今』は?」

ダルが案の定突っ込めば、ライヤーは手をヒラヒラと振った。

「ジイさんには世話になってるからな。そんな人の家に泥棒を呼び込むような真似はできんよ」

それに――とライヤーは腕を組んだ。

「本物のクレイマン王と友人なんだぜ? それだけでも充分、一生ものの自慢さ。いつか回顧録にでもそう書くさ。……信じる信じないは読んだ奴に任せるがね」

他の面々も、クレイマンの遺跡の件は口外しない、ということで一致をみた。ジンからもらった物について世に出す場合は、沈没船を引き上げたとか、そのあたり適当にでっち上げることにした。

・ ・ ・

アイテムボックス内。騎士メリンダは、暇をもてあましていた。

十年前、魔王を討伐する勇者パーティーに参加し、しかしその道中で重傷を負い、つい最近になって復活した口である。

だが、魔王は彼女が眠っている間に討ち取られ、戦争は終結。留守にしていた十年の間に、恋人はメリンダの妹と結婚。目的を失い、生きる活力を失い、メリンダはタダ飯食らいの役立たずと成り果てていた。

もちろん、ソウヤはそんな酷いことを言ったりはしなかったし、働け、とも言わなかった。

彼は寛大だ。しかし、同僚だったカーシュや、ここで初めて知り合った銀の翼商会の面々からの視線が、メリンダにはそろそろ痛く感じるようになっていた。

だが、今さらどうしろ、というのだ!

メリンダは目的を見いだせず、無為に過ごしている。

「ふははー、おねーさん、今日もいたー」

「……」

メリンダは、ウンザリした。現れたのは影竜の子供――この人懐っこさはフォルスだ。

「今日も、地面にお絵かきするのー?」

「……」

別に書いていない。指先で、地面をなぞっているだけだ。……アイテムボックス内の地面は土や砂ではないので、指では何も書けないし。

「ねえねえ、おねーさん。字ー教えてー」

そう言うとフォルスは、紙とインクを用意して、そっと近くに置いた。首から小さなポーチをぶら下げていて、短い手ながら器用に使っている。

メリンダは泣いた。

「おねーさん、どうしたの? お腹痛いのー?」

「ううん、お前がいじらしくて……」

子供とはいえドラゴン。何も知らなければ、ただの魔獣にしか見えないのだが、舌っ足らずな言葉を使い、幼児そのものの行動を取ると、愛おしさがこみ上げるから不思議だ。

「子供……」

もし自分が、アイテムボックス内に収容されることなく、魔王討伐後に故郷を凱旋できていたら――メリンダはさらに泣けてきた。

――きっと子供がいたに違いない!

「うああああん……」

いい大人が声をあげて泣いた。フォルスは座り込んだ。

「おねーさん、だいじょうぶ? 背中に乗る?」

「いったいどうしたのですか!?」

声を聞きつけたのか、現れたのはレーラだった。

しかしメリンダは泣き続け、フォルスは『よくわかんない』といった顔で首をかしげるばかり。

レーラは困惑するしかなかった。