軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第296話、レーラとお話

聖女復帰のお祝いの会は、仲間内で盛大に盛り上がった。

クレイマンの食料庫による無尽蔵とも言える肉や食材の提供で、全員が腹を満たし、それぞれの部屋に帰った。

後片づけ後、ぼんやりしていたソウヤのそばには、お祝いの会の主役だったレーラがいた。

バーベキュー会場となった浮遊島広場の椅子に座るソウヤと、その隣に座るレーラ。二人して夜空を眺める。

長い沈黙。というより、何を言ったらわからないというのが本音だった。それはソウヤだけでなく、レーラも同じのようで。

どれくらいそうしていたのか。ポツリとレーラが口を開いた。

「何というか、すべて終わってしまったんですね……」

「まあな」

すべて、というのがどこまでを指しているのかはわからない。だが魔王は十年前に倒れ、その残党がコソコソ活動している以外に、大きな問題は起きていない。

取り立てて、今すぐ何とかしないといけない、という事柄はなかった。

「石化から解かれて、もう魔王はいないんだって聞いたのに、あの時はまだ魔族の残党が故郷を占領していました……」

「ああ、でも君のおかげで、王国の魔族化は回避された。残党も去って、また平和が戻ったわけだ」

「その節は、またもソウヤ様のお手をわずらわせてしまいました」

謝るレーラに、ソウヤは首を横に振った。

「何を言ってるんだ? 君がいなきゃ、大惨事だったんだぜ」

「でも、またも倒れてしまい、あなたや皆様に苦労をかけて……」

「レーラはそれだけのことをしたんだ。皆が君から受けた恩を返したかった。嫌々手伝っていた奴は、うちにはひとりもいなかった」

銀の翼商会にいた面々は、誰もがレーラを助けるための行動に異議を挟まなかった。レーラとの直接の関係に薄いライヤーやセイジも、無理、諦めよう、とは言わなかった。

「そうですね。皆様が恩を感じているように、私も皆様に恩を感じています。せめてお礼だけでも言わせてください」

「ああ、またこうして話すことができて嬉しいよ」

「私もです」

レーラは微笑んだ。

「……それで、これからの話なのですが――」

「うん」

聞きましょう――ソウヤも、その話がしたかった。

「家に帰って、両親に会っていきたいと思います」

「それがいいと思う。国王陛下もきっと喜ぶだろう」

レーラの復活を託したグレースランドの王。その約束は果たせたわけで、レーラをきちんと城に帰すところまでが、使命のうちだとソウヤは思った。

「それで、十年の月日というものを見つめ直したいと思います。私にとって、魔王討伐の旅が終わったんだと受け止めるのが難しくて……」

「わかるよ」

「前回目覚めた時は、魔王軍の残党と戦ってましたし」

「今度はゆっくりできるんじゃないかな」

国を脅かしていた魔王軍の残党は追い払った。魔王を倒している世界だ。レーラもしばしゆっくりした時間が取れるだろう。

「それはどうでしょうか……」

レーラは目を伏せた。

「私は聖女ですから。……世界には救いを求めている人がたくさんいて――」

そこでふと、レーラは口をつぐんだ。

「レーラ?」

「いいえ」

彼女は首を横に振った。

「そのあたりも含めて、整理の時間をください」

「うん、それでいいと思う」

ソウヤは小さく頷いた。そこでレーラは立ち上がった。

「今日は楽しかったです。皆さん、優しくて……。心の奥底から魔王という不安がなくなった人たちの顔を見れて――」

聖女は微笑んだが、どこか寂しげだとソウヤは感じた。

この表情には見覚えがあった。本心を隠している。聖女とか使命を盾に周囲の踏み込みを拒み、頑張る時のあれ。

――あれだ。顔で笑って、心で泣いているみたいな。

ただ、ソウヤの見たところ、そこまで切羽詰まったものでない。本当にヤバい時は笑顔のまま、おかしな行動を自分でも気づかないうちに取ったりするのだ。

だから、今のレーラの症状としては軽いほうだ。さりとて気になっていることはあると思う。

やはり十年のブランクが、彼女に整理の時間を必要としている。

家族と会って、その時間を埋めるべきだ。

幸い、両親はレーラの帰還を望んでいる。魔王亡き今、彼女には休養が必要だ。それでなくても、聖女、聖女と周囲がうるさい。

「あの、ソウヤ様……」

「ん?」

「ひとつ、聞いてもよろしいですか?」

「なんだい?」

聞いてみれば、しかしレーラは黙り込んだ。言おうか言うまいか、葛藤が表情に出る。

「――何か悩みが?」

心配になって口に出すソウヤだが、レーラは顔を赤らめた。

「い、いいえ。やっぱりいいです、そのごめんなさい! ……忘れてください」

レーラは笑顔で手を横に振った。とても思わせぶりな態度。やっぱり何か言いたいことがあるのではないか――

「それでは、失礼します。おやすみなさい」

「あ……お休み」

頭を下げて、丁寧なお休みの後、レーラは部屋へと戻っていった。

ソウヤの見たところ、彼女の背中は気落ちするでもなく、放っておいたらいけないような雰囲気を感じなかった。

「悩みがあるなら言ってくれてもいいのに……」

いざ言おうとしたが、しかし留まったようにも見えた。

――オレに相談するような内容じゃなかったってことか……?

たとえば、男には分からない女性特有の相談だったとか。だとしたらリアハあたりに相談しそうではあるが。

――そのリアハ絡みの悩み、か?

実の姉妹とはいえ、十年のブランク。うまく付き合えているように見えて、どこかでギャップを感じて、相談しようとしたとか。

これはそれとなく、リアハのほうも注意して見たほうがいいかもしれない。せっかく戻った姉妹だ。微妙なズレで、お互いに苦しむとか嫌である。

そしてレーラの調子も気をつけておこう。もし態度に不審なものが続くようなら、積極的に聞いてみようと思った。

オレはお節介だからな――ソウヤは浮遊島から見える夜空に再び視線を戻した。