軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第204話、国境を目指して

グレースランド王国はエンネア王国の北西部に隣接するお隣の国である。

ふつう、隣国同士というのは仲が悪いのが相場だが、エンネアとグレースランド両国は親しい。そもそも両国の王族が、元々同じ一族だというのも関係しているだろう。

故に、エンネア王国側でも、グレースランド王国の不可解な国境封鎖は、大きな注目を浴びたに違いない。

「――カマルからの報せだと、何かあったのは間違いない」

ソウヤが言えば、カーシュは眉をひそめた。

「『行け』と書かれていたのかい?」

「いや、行けとは書かれていなかった」

だが――

「こう書けば、オレが行くと奴は思っている」

「その認識は合っていると思うよ、ソウヤ」

カーシュは肩をすくめる。

「報せれば、君が向かうことを知っているだろうからね」

「何かしら起こっているとなると、駆けつけずにはいられないのが勇者の性だ」

「レーラ様の故郷でもあるからね」

カーシュは真顔になった。

「君でなくても、僕だってきっと駆けつける方を選ぶ」

「本当なら、彼女の石化を解決してから行きたかったんだがなぁ……」

ぼやくようにソウヤは言った。

「行くだけ行って、まずは障壁がどんなものか見ないとな。こちらで破壊できるレベルならいいんだが、そうじゃなけりゃ対策を考えねぇと」

「それにはまず実物を見てみないと、だね」

カーシュも同意した。

「やっぱり魔族が関係しているんだろうか」

「結界の類似性、昨今の連中の行動……可能性は高いだろうな」

ソウヤは早速、皆を集めて、グレースランド王国国境へ行くことを告げた。

飛空艇の修理は、アイテムボックス内で並行して行うとして、ブルーアの部品工房には転送ボックスを渡して、注文部品のやりとりはそちらでやることにした。

これでルガードークにいなくても、直接部品に関するやりとりができる。

最初からそうしなかったのは、転送ボックスを信用できる者以外に明かしたくなかったからだ。

正直、ブルーアに対しての信用度というのは、秘密を明かしても大丈夫か、というレベルでは不安もある。が、状況が状況ゆえ、仕方ない。

グレースランド王国の国境封鎖が、魔族の仕業なら、その国の民が危険にさらされている可能性が高い。元勇者としても、それは見過ごすことなどできないのだ。

準備を整え、銀の翼商会はルガードークを出発した。浮遊バイクとトレーラーの一団は、ルガードークよりさらに北上した。

途中、関所があったが、大臣発行の通行証で何事もなく通過。街道を利用する旅人や商人とすれ違うが、基本呼び止められない限りは挨拶だけして移動を続けた。グレースランド王国に急いだからだ。

大抵は、初めてみる浮遊バイク集団を遠巻きに見る程度だったが、中には好奇心旺盛な者もいて、軽食や飲み物を売ったり、不要品を買い取ったりした。同時に、グレースランド王国国境の話を聞いてみれば、芳しい情報はなかった。

――もう少し北に行かないとわからないかな。

なおも北上するソウヤたち。そこでまた、ひとつの出会いが待っていた。

・ ・ ・

「……おたく、大丈夫?」

ソウヤは浮遊バイクを止める。街道で遭遇したのは、ひとりの旅人。フードを被り、黒いマントを外套のようにまとっているが……血塗れだった。

おそらく返り血だろうが、ここで問題になるのは、何の返り血かということだ。

通行人? それともモンスターか何かか?

剣を持っている。細身の体型。戦士、旅人かあるいは冒険者か。

ミストやガルはあからさまに警戒する。カーシュもまたいつでも剣を取れるよう手を柄に添えている。

相手がかなり警戒しているのが見てとれ、どこか殺気じみた気配すら感じた。

――通り魔じゃねえよな……。

返事を待つソウヤ。その旅人らしき人物は口を開いた。

「つかぬ事を聞くが、君たちが乗っているのは浮遊バイクで間違いないか?」

若い女の声だった。凜としたその口調が自然と出てきたところからして、少なくとも人見知りするタイプではないだろう。

しかしソウヤは、その声にどこか聞き覚えがあるような気がした。口調からして、たぶん初めてのはずだが、声がソウヤの知っている誰かに似ていた。

「そうだが、あんたは浮遊バイクを知っているのか?」

「十年前に、一度見ている」

若い女は答えた。十年前と言うことは、ソウヤが勇者だったころの話だろう。

――ひょっとしたら、その頃に会っていたかもしれないな……。

なお素顔を見せてくれないので、知り合いかどうかすらわからない。

「君たちは、勇者の縁者か、関係者か?」

「……勇者マニアの商人だ」

――本物の勇者だけどね。

一応、勇者は死んだことになっているので、初対面の人間にはそう名乗っている。……彼女も現時点では、初対面のカテゴリーに入れる。

「商人?」

若い女は困惑の素振りをみせる。まったく予想外の答えだったのだろう。ソウヤは名乗った。

「オレたちは銀の翼商会だ。行商だ」

「行商……」

女は考えるように押し黙る。

「ちなみに、君たち銀の翼商会は、どこへ行くつもりなのか?」

「それに答える必要ある?」

ミストが槍を肩に担ぎ、あからさまな態度をとった。

「ミスト」

ソウヤは首を振る。見たところ、目の前の女性は、軽装だ。もしかしたらお客さんになってくれるかもしれない。……初遭遇で、警戒されるのはいつものことである。

「オレたちは、グレースランド王国を目指しているんだ」

「……そう」

若い女のフードが動く。

「忠告だが、今国境は封鎖されていて、外部から侵入はできない」

浮遊バイクに乗っている面々が顔を見合わせる。ソウヤは思わずニヤリとした。

「あんたは、グレースランドから来たのか?」

「そうだ。……信じられないかもしれないが」

「いや、信じるよ」

何せ、カマルからの手紙と一致している話だ。むしろ現地から来た人間の情報が欲しいところだった。

「詳しい話を聞かせてくれ。……お礼代わりと言ったらなんだが、よかったらご馳走しよう」