軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第190話、影竜対策

「そもそも霧竜って?」

ライヤーが問えば、カーシュが答えた。

「上級ドラゴンだよ。白くて美しく、また非常に賢い」

霧竜本人であるミストを前にしてか、やたらと持ち上げる元聖騎士。

「上級だけあって、とても強い竜だ。しかも、彼女は霧に溶け込む能力を持っていて、濃霧の中で戦うことになったら、こちらに悟られることなく奇襲されて、防御の余裕もなくやられるだろう」

「彼女?」

ソフィアが目を丸くした。

「霧竜ってメスなの?」

「――あー、僕が会ったのは、そうだ」

「霧竜に会ったことがあるの?」

「まあ、そうだ」

ちら、とカーシュはソウヤを見た。助け船は出さなかった。

「その霧に溶け込むというのは、まったくわからないのかね?」

ジンが質問すれば、カーシュは肩をすくめた。

「ええ、霧の中ならどこからでも、突然襲いかかってきますよ。霧竜は巨体ですが、霧の中だと足音もニオイもわからない」

「それは厄介だな」

考え込むジン。ライヤーは感心したように言う。

「お前、そんなドラゴンに遭遇してよく生き残ったな」

「我らが勇者様が、彼女と交渉してね」

その言葉に、ソフィア、セイジ、ガルの視線が、ソウヤに集まった。完全に流れ弾。

「交渉か。霧竜は話し合いができるドラゴンだったのかね?」

「ええ、話せばわかりますよ」

カーシュは、じっとソウヤを見た。

「ただドラゴンと正面から話し合おうと考える人間が珍しくはありますが。普通は、なかなかそこまでいかないでしょう」

「すると――」

ジンはソウヤとミストを見た。

「その影竜も、話し合いの可能性はあるのかな?」

「どうなんだ、ミスト」

ソウヤは聞いた。もし話し合いが通じる相手なら、やりようもあるのではないか?

「ワタシの感じたところでは、無理かもしれない」

ミストは悩ましげな顔をする。

「闇の中のアイツの目、かなり強い殺気をまとっていた……。とても話し合いの雰囲気じゃなかったわ」

「ミストがビビるくらいだもんな」

彼女を怯えさせるくらいだから、かなりのものだ――ソウヤは思ったが、ビビる発言に気を悪くしたのか、ミストに睨まれた。

こほん、とソウヤは咳払いで誤魔化す。

「で、敵が影竜だとして、何の対策もしていないと、地下の暗闇の中を奇襲されて全滅すると思う」

勇者時代に遭遇した霧竜と同程度の能力を持っているなら、暗闇空間の地下は、霧竜にとっての濃霧と同じだ。

影竜はどこからでも攻撃ができる。しかも上級ドラゴンの爪などの攻撃は、上位の魔法武具だろうと引き裂くだろう。

――うん、これヤバいな。

「完全に殺意丸出しで向かってきたら……防げると思うか、カーシュ?」

「無理だね」

カーシュは即答した。

「霧竜と同じようにくるなら、仲間と背中合わせになっていたとしてもわずかな隙間から実体化して襲ってくる。人間、必ず死角があるから、そこを突かれておしまいだ」

「実体化?」

ジンが確認するように問うたので、カーシュは頷く。

「ええ、実体化です。霧竜の場合は、それまでは霧だったのに攻撃の瞬間に爪を形成してグサリと」

「……実体化ねぇ」

「爺さん、何かアイデアが?」

期待を込めてソウヤが見れば、老魔術師は答えた。

「実体化するということは、触れるということだ……違うかねソウヤ?」

「触るころには、やられてるんじゃね?」

「だが、触れたとして、君ならアイテムボックスに影竜を閉じ込めることはできるだろう?」

「あ……」

ソウヤは、ジンの意図を理解した。

「なるほど、アイテムボックスに入れられりゃ、無力化できるわ」

「触れんの?」

ライヤーが疑う。

「旦那もさっき言ったよな? 触る頃にはやられてるって」

「そう、つまり、そこをクリアする必要がある」

ジンは認めた。

「だが、先ほどより前進したと思わないか?」

手も足も出ないと思われた影竜に大して、対策の糸口が見え始めてきた。

「問題となるのは、敵の奇襲を防ぐ方法――二、三回程度防げるだけでよい。そして影竜を追い込む方法があれば、なおよしだ」

老魔術師は相好を崩した。

・ ・ ・

ルガードーク近郊の地下ダンジョンに、白銀の翼一行は挑んだ。

話し合いの末、影竜をどう追い込むかを考え、準備を整えてきた。

「捜索隊の報告から、影竜とおぼしき敵は、地下三階中央エリアの一定範囲をテリトリーとしている」

大柄なオーガクラスが余裕で暴れられる広さの坑道を、ソウヤたちは進む。

「それ以外のエリアに行った連中は、帰ってきているからな」

捜索隊の未帰還者が向かった中央エリアに、敵は潜んでいる。

「そういうわけで、オレとミストと爺さんで、そちらを担当する。残りの者は、その範囲に入らない位置で待機だ。……明かりを絶やすなよ」

影竜は闇を自在に動ける。ならば、その闇の範囲を明るく照らしてやれば、行動を制限させやすくなるに違いない。少なくとも、攻撃はできても奇襲ではなくなるだろう。

「ガル、気配察知を頼むぞ。カーシュ、万が一そっちに現れたら盾はよろしく!」

「了解」

「引き受けた」

ガルとカーシュは頷いた。二人には、セイジやソフィア、ライヤーらを守ってもらう。

「そっちは大丈夫なのか?」

ライヤーが心配する。ソウヤは頷いた。

「こっちには頼りになる魔術師がいるからな。頼むぞ、爺さん」

「ああ、任された」

ジンは鷹揚に答えた。ソウヤはミストをちらりと見やる。

「お前は大丈夫か?」

「ええ、ここまで来たら覚悟を決めるわ」

ミストは竜爪槍を握り込む。ふだんの余裕はまったく感じられない。それだけ、ミストも影竜を警戒しているのだ。

ソウヤたちは、邪魔なモンスターを叩き潰しながら、地下三階へと降りた。