軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第173話、町長と飲むワイン

ソウヤとエルク、ボルックの三人はバイク事業の話をしながら、町長の館へ到着した。

館――ちょっとした貴族の邸宅だとソウヤは思った。町長の名は、イリジオ・クレル・バッサン……男爵だった。

――貴族じゃねーか!?

普通に領主だった。兼任していたのだ。

「貴殿が、月下の盗賊団を殲滅した白銀の翼のソウヤ殿か」

非常に厳めしい顔つきの、四十代男性。短めに整えられた髭。頭髪には心労のせいか白いものが混じっていた。

「まずは礼を言わねばなるまいな。この町の交易路を荒らしていた一盗賊を潰してくれてありがとう」

ダンディーなお声だった。礼を言われているのだが、その顔つきのせいか、不機嫌そうに見えるのは気のせいか。

実際、気のせいだった。両ギルドの偉い人を交えての会談は、ソウヤが特に何かするでもなく、とんとん拍子に進んだ。

「――君たち白銀の翼には、南だけでなく北街道の盗賊も叩いてほしい。もちろん、報酬は払う」

「仕事であるなら、やります」

「ぜひお願いする」

男爵は頭を下げた。厳つい人がそれをやると、何故かされた方が緊張してしまうのは何故だろう。

報酬の話の後、浮遊バイクとその製造工場について話題は移る。

「――なるほど、この町も大いに潤う事業になりそうだ。ぜひ進めたまえ。必要な援助は町を上げてやらせてもらうよ」

概ね好意的な意見を頂けた。浮遊バイクと、そこから発展した浮遊車、あるいは小型飛行ボートなど話題に事欠くことなく、話し合いは長時間に及んだ。

エルクとボルックに事前に話したせいか、彼らがドンドン話を進めていくので、ソウヤとバッサン男爵がむしろ困惑するくらいだった。

気づけば、男爵が秘蔵のワインを開けて、四人でそれを飲みながらの談笑となっていた。

「――浮遊バイクを普及させるなら、もっと大々的に宣伝できないものか」

男爵の言葉に、ボルックは考える。

「ソウヤさんが行商で色々まわっていると言っても、まだまだバイクの知名度はそれほどでもないでしょうし……」

「いっそバッサンの町の商人全員、浮遊バイクを使えばどうだ?」

エルクが言ったが、商業ギルドのサブ・マスターは顔をしかめた。

「無茶を言うな。現状に満足している者もいるのに、強制するようなことはできん!」

馬がいいのに、バイクを押し付けられたらたまらない――という者もいるだろう。保守的な人間はどこにでもいるし、それが悪いことはない。ソウヤも強制されるのは嫌いだ。されたら反発する。

「王にバイクを献上するというのはどうだろう?」

バッサン男爵は提案した。

「この町の特産品として出せば、国中の貴族や商人らが注目するだろう。金持ち連中なら、手に入れようとするかもしれない」

「名案です、さすが男爵様!」

ボルックは笑みを浮かべた。

「どうです、ソウヤさん?」

「王族に献上するのはいい手だと思いますよ」

コメット号を差し出せ、と言われないのであれば、良案に思える。浮遊バイクが普及すれば、ソウヤたちのバイクが悪目立ちすることもなくなるだろう。今は逆に目立つことで宣伝効果になると考えておこう。

「そして注目を集めたら、バイクでレースをするのも悪くない」

「はい?」

「レースだと?」

ソウヤの発言は、三人の注目を集めた。

「浮遊バイクを使ったレースをやるんですよ。スピードを競って、一位には賞金を出してね」

国中の貴族の偉い人が注目している場で、バッサンの町でバイクレースがあれば、否が応でも盛り上がるのではないか。

「お祭りにすれば、バッサンの町を訪れる人も増える。宿泊施設や関係する店も儲かる」

「それはとても魅力的な提案だ!」

男爵が強面をほころばせた。……怖い!

「レースともなれば、その着順で賭けもできるでしょうね……」

競馬とか競輪とかのノリである。それを浮遊バイクでやるわけだが、興味を持っている者たちの前で、よいデモンストレーションにもなる。

「もちろん、これらのバイクは性能向上型を当てます。いいバイクは金持ち連中も欲しがるでしょうし、そういう人は金払いもいい」

「おおっ! それはいいですな!」

「商業ギルドも大賛成です! ぜひやりましょう!」

周りの熱が一気に高まった。酒に酔ったせいだけではないだろう。

「個人……いや、商会とか組織でバイクやレーサーを用意させるのもいいかも。より速いマシンを作る技術の発展は、バイクの性能向上にも繋がる」

「個々の組織で競い合うというのもいいですね」

ボルックはそう言ったが、すぐに小首をかしげた。

「しかし、そうなるとライバルへの妨害とかありそうですね。賞金が掛かっているのなら余計に」

「そういうインチキや妨害行為は失格にすればいい。あまりに悪質なら参加資格を剥奪する!」

「それ採用!」

ソウヤの案に、エルクが声を張り上げた。男爵が苦笑する。

「おい、お前。飲み過ぎじゃないか?」

冒険者ギルドのギルマスに何の権限があって採用などと言うのか。すっかり出来上がってしまったエルクをよそに、ソウヤはふと思う。

「ボルックさん、性能向上型で思ったんだけど、高ランク魔石の入手が難しいって言ってたじゃないか? あれさ、武器とか防具作るように、オーダーメイドで対応するっていうのはどうだろう?」

「オーダーメイドですか……」

「そうそう。魔石がないなら、その魔石持ってきたら割安で作ってやるっていうの。一番金のかかる部分を、作ってほしい方が持ってくるなら、調達しなくていい分手間もかからない」

「貴族や騎士などには受けそうですね、それは」

位の高い人間の服装や装備ほど、オーダーメイドは基本中の基本。一点物を注文するというのが当たり前だから、さほど抵抗はないだろう。

「いや、むしろ、こっちのほうが当たり前ですね。そうしましょう」

そんなこんなで、大人たちは、浮遊バイクに関係する話をわいわいと話し続けた。

夢は広がるが、現実問題として、いくつか低スペックの浮遊バイクを、まず披露して、製造工程、必要な人員、設備などを決めていくことになった。

千里の道も一歩から、である。