作品タイトル不明
71話 年上の幼馴染
百地から恋愛相談を受けたその放課後、俺と星良は彼女の案内の元、2年生のクラスへと向かっていた。
まずは彼女の意中の幼馴染の姿を見るべく、直接クラスまで赴く事にしたのだ。
「なんだか緊張するね誠也君」
「そうだな。俺も内心ちょっとドキドキしてるかも」
「こらこらお二人さん。君たちのお仕事は私のサポートだからね?」
本人を差し置き盛り上がる俺たちに百地が呆れ顔で笑う。
俺もそうだが、星良はこの恋の行く末にかなり関心があった。
恐らくだが幼馴染同士の恋愛という部分で好奇心をかなり惹かれているのだろう。
目的のクラス前の渡り廊下に差し掛かると、これまで余裕ぶっていた百地の様子が変化し始める。どこか落ち着きがなくなり、目に見えてソワソワしだした。
やっぱり軽口を叩いても好きな相手の前では緊張するよな。
一緒にクラスを出るまでは、よく俺と星良をからかっていた時の様に飄々としていたが、今はどう考えても恋する乙女と言わんばかりの顔をしていた。
「ここにその幼馴染が居るんだな?」
俺が確認を取ると、彼女は小さく頷いて教室内を指差した。
「ほら、あそこの席の人。あれが私の幼馴染の 御手洗蓮司(みたらいれんじ) だよ」
百地が指をさしている席には1人の男子が座っていた。
見た感じでは端正な顔立ちに、爽やかそうな雰囲気を纏っていかにも女性人気の高そうな先輩だった。
教室の窓から目的の相手の姿を確認する。
しばし様子を眺めていると、相手の御手洗先輩も俺たちの視線に気づいたらしく席を立ってこちらに近づいてきた。
「百地じゃないか。わざわざ2年のクラスまで来るなんて珍しいな。もしかして俺に用だったか?」
「う、うん。押しかけるみたいでごめん」
「別に謝る事じゃないよ。今日はバスケ部も練習は休みだし。それにそっちの二人は?」
爽やかな笑みと共に出迎える御手洗先輩。
彼は滝川と軽い会話を終えると、同行して来た俺たち二人に目を向ける。
「あれ、この娘ってこの学校のアイドルの北條星良さん?」
「あっ、2年生の間でもやっぱり有名なんだ。流石は星良だねぇ」
初対面のはずだが、星良はこの学園で3大アイドルの一角だ。その知名度は上級生の間でも広まっているようで、一目見ただけで彼女だと御手洗先輩は理解したらしい。
御手洗先輩は星良と向かい合うと挨拶をする。
「初めまして、2年の御手洗蓮司だ。百地と仲良くしてくれているみたいだね。君の様な優しい人が彼女と仲良くしてくれて幼馴染として嬉しいよ」
「こちらこそ初めまして。百地さんからあなたのお話は伺っています。自慢の幼馴染だって言ってましたよ」
「ちょ、やめてよ星良~」
「ははっ、学園のアイドルさんにそう言われると照れるな」
御手洗先輩は社交性も高く、初対面の後輩である星良ともすぐに打ち解け仲良くなっていた。まだ顔を合わせて一分も経過してないのに、和気あいあいと話し込んでいる。
むぅ……なんか……嫌だな……。
御手洗先輩と星良が仲良くしていると何故か胸が痛んだ。
いや、誤魔化さずに言おう。ハッキリ言って嫉妬しているのだ。
相手は年上で落ち着きもあり、それに顔立ちも良く性格まで良い。そんな男性と自分の恋人が楽し気に笑うとモヤモヤしてしまう。
俺の不満は分かりやすかったらしく、さりげなく百地がフォローを入れた。
「ほら星良、あんまり他の男子と仲良くしたら誠也君がむくれちゃうよ」
「ああごめんね。別に誠也君を蔑ろにした訳じゃないよ!」
「別に気にしてないよ。初めまして、星良の〝彼氏〟の大道誠也です」
気にしてないと言いつつ、先輩に星良の彼氏であることをアピールしてしまっていた。我ながら器の小さな男だと自覚しつつも、やはり恋人が他の男性と自分を差し置いて仲良くしているのは嫌だった。
ステータスの高そうな先輩と違い、平凡な俺はそのままスルーされるかと思ったが……。
「もしかして君が噂の大道誠也君でいいのかな?」
「え、はい。あの噂って……」
星良の様な有名人なら分かるが、俺の様なありふれた一般生徒のことを、彼が知っているのは驚きを隠せなかった。
それに噂の大道君ってどういうことだ?
どうして俺の名を知っているのか疑問だったが、その謎はすぐに彼の口から解明された。
「学校内では君のことは軽い噂になってるよ。何しろ学園の3大アイドルの1人に彼氏が誕生したってね」
なるほど、そういう意味合いでの有名か。もしかしたら双葉やサッカー部の一件が噂を加速させたのかもしれない。
とはいえこれはあまり喜べる目立ち方ではない。むしろ悪目立ちで、多くの男子のヘイトが向けられそうで怖くすらある。
「えへへ、誠也君と私の関係ってもうそこまで広まっているんだ」
俺が不安を抱える一方で星良はとても嬉しそうな顔をしていた。
「噂通り仲の良い恋人みたいだね」
「はい、ラブラブです」
御手洗先輩の言葉に星良は俺の腕に抱き着きながら、屈託のない笑顔でそう言い切る。
「あはは両想いでいい関係だね。大道君も彼女さんを大事にね」
他の男子と違い微塵も邪気のない笑顔でそう言われ、改めて彼と自分の男としての差が見せられた気がした。
口では『ありがとうございます』なんて言っても、俺の内心がへこんだのは内緒だ。
「それで百地、一体俺に何の用で来たんだ?」
挨拶も終わると、先輩は改めて訪問理由を尋ね始めるのだった。
本題を突き付けられこれまで平静だった百地の顔には緊張が走り、俺と星良は固唾をのんで見守るのだった。