作品タイトル不明
69話 幼馴染カップルへの相談
「ええ~? 百地さんにもそんな人が居るの!」
唐突なカミングアウトに星良はとても嬉しそうな顔でテンションを上げる。それに対し、俺は驚きのあまり彼女の様な大袈裟なリアクションを取れず、むしろ一周回って落ち着いた。
「意外だな。滝川は異性に対してそういう感情を持たないと思っていたが……いでっ!?」
「ちょっと、それってどういう意味?」
俺が意外と言った事が癪に障ったのか、彼女からのデコピンが飛んできた。
「だってさ、滝川に恋愛のイメージって湧きづらいからさ」
クラスの男子にも同姓の様に接するあの姿を見ると、異性を意識するタイプには見えなかった。
「お前ってどっちかっていうと、自分が恋を謳歌するよりも人の恋路を茶化して楽しむタイプに見えるんだもん。実際に俺や星良を毎日からかって遊んでいるし」
デコピンでジンジンと痛む額を押さえながらそう言うと、彼女は星良に泣きつき始める。
「あーひっど。ねえ星良、おたくの彼氏さんって女の子の気持ちを見抜けない節穴ですぞ。これは別れた方がいいんじゃないかな~?」
「別れる気はないけど今のは誠也君が悪いかな。どんな性格の女の子でも恋をするのは不思議じゃないよ。それがたとえ百地さんでもね」
「おやおや? もしかして君も私をディスってない?」
さりげなく失礼をかます星良はさておき、これは俺の失言だった。
いつの間にか偏見のような決めつけをしていた自分を恥じ、彼女の相談に真面目に乗ってあげる事にしよう。
「悪かったよ。それで、気になる男子が居るって話だけど誰なんだ?」
「あっ、うん。そのぉ……」
本題に入ると百地の調子は途端に崩れ、モジモジと指を合わせて口ごもる。
「多分このクラスの人間じゃないよな?」
そう質問しながらも、俺の中では相手が他クラスの生徒である事は確信していた。
このクラス内の男子と話すとき、彼女の態度や表情など、特に露骨な変化などは見られない。どの男子相手にも平常運転であり、とても意識している人物がクラス内に居るとは考え難い。
その考察は案の定であり、百地は頷きながら続きを話す。
「誠也君の言う通りこのクラスの子じゃないんだ。もっと言えば同学年でもない」
つまり相手は2年、もしくは3年と言う事になる。
確かにコミュ力の高い陽キャな彼女なら、上級生相手でもすぐに距離感を縮められるだろう。その過程で気になる先輩ができたという事だろうか?
「私が好きになった相手は2年の先輩だけどさ、この高校に入ってからその人を好きになった訳じゃないんだ。高校入学よりも前、もっと言えば中学時代から彼を好きになったの」
「それってもしかして……幼馴染ってこと?」
星良がそう尋ねると、彼女はこくりと頷く。
「小学生時代からの幼馴染でね、意識しだしたのは中学からかな。でもそれまでは友達感覚が強くてね、今更になって異性として意識してもどうしたらいいか分からなかったんだ。だから結局は中学でも告白もせず高校に進学した感じ」
そこまで言うと彼女は俺と星良をじっと見つめる。
この時、どうして彼女が俺たちに相談を持ち掛けたのか、俺も星良も理解できた気がした。
幼馴染というのは長い時間を共に過ごし、そして良くも悪くも近い距離の存在だ。だが近すぎる故に家族や肉親に近い感覚を持つこともあり、恋仲として踏み出しにくい事もある。
俺の場合は幼馴染である双葉とは決別したが、星良とは幼馴染を超えて恋仲まで一気に距離が縮まった。
百地は幼馴染から恋人に無事に至った俺たちにアドバイスを求めたのだろう。自分とその先輩の関係も確実にステップアップしたいがために。
「正直さ、このまま幼馴染の関係で終わってもいいかなぁって考えもした。でもさ、二人のラブラブっぷりを見てると私も欲張ってみたくなったんだ。あいつともっと距離を縮めたいなって……」
自分の肩にかかっている毛先をいじりながら百地は照れ顔で笑って言った。
「だから幼馴染カップルの二人から意見が欲しいんだけど、ダメかな?」
その言葉には断ってくれても構わないというニュアンスが入っていた。
しばし顔を見合わせる俺たちだが、すぐに答えは出た。
「まっ、俺たちにできる事なら協力するよ」
「私も応援するよ! 同じ幼馴染に恋した者同士、むしろ応援したいぐらい!」
「ほんとっ、ありがと二人とも~」
俺たちの協力が得られると知ると、百地は俺と星良の手を握りながら口を開く。
「神様仏様、誠也様に星良様、この私の恋路をどうか応援してくだされ~」
すっかりいつのも調子に戻りながらも、百地は心底嬉しそうに笑ったのだった。