軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13、茉莉花は失敗しました

「ただいまです」

ギルドに戻ってきた茉莉花をいそいそとジークが出迎えた。記録石関係の家族はギルド長と相談中でフロアにはいなかった。

「おかえり。待っていたよ」

「あのね、お買い物をしたんです」

腕いっぱいの戦利品に茉莉花が嬉しそうに笑う。

「これ、これです」

茉莉花が鳥籠を掲げて、次に花の形の小物入れをジークに見せようとした。

「痛っ!」

小物入れは木製で、古くなっており少しひび割れて木の表面が粗くなっていた。

「「「「「マリちゃんっ!?」」」」」

冒険者たちが月まで届きそうな悲鳴をあげた。

「見せて!」

ジークが茉莉花の指先を見ると1ミリほどの木のトゲが刺さっていた。

「え!?」

ジークが仰天する。

「ええ!?」

茉莉花入りの箱を持っていたフローラも唖然とする。

「「「「「ひえええっ!!」」」」」

冒険者たちが驚愕して騒いだ。

「う、嘘だろ! 1ミリくらいの木のトゲだぞ! 何で肌に刺さるんだよ!?」

「1ミリだぞ! 1ミリ!」

「1ミリなんて皮膚に刺さるものなのか!?」

「俺、10センチだって刺さらないぜ。ナイフも皮膚が弾くんだけど」

「マリちゃん、人間だし……」

「人間の肌って、ほら、薔薇の棘すら刺さるらしいし……」

「はぁ? 薔薇の棘が? あんなもん、子どもが握って潰すプチプチ遊びじゃんよ」

信じられない、と目を見張る冒険者たちがオロオロする中、フローラが茉莉花入りの箱を床に置いた。丁寧にジークが素早くトゲを抜いて手当てをする。

「ありがとう、ジーク。消毒液だけで十分だから」

「包帯も……」

「平気、平気。小さなトゲだもの」

と言って茉莉花が箱から立ちあがった瞬間、ヨロリと身体を傾けた。

「「「「「ギャアアァッ!! マリちゃん!!」」」」」

冒険者たちが絶叫する。

ハシッ、とジークが茉莉花を支えた。困ったように茉莉花がジークに顔を向ける。

「ごめんなさい。座っていて足が痺れたみたい……」

「足が痺れた? どこかで麻痺魔法をかけられたのか?」

「魔法じゃなくて、普通に足が痺れたの」

「普通に足が痺れる?」

ジークが理解不能な顔をして茉莉花の言葉を繰り返した。

「「「「「足が普通に痺れる?」」」」」

冒険者たちも首を捻って理解不能な顔をしていた。すでに冒険者たちは、サワルナキケンモードで壁一面に貼り付いて、防御態勢の生きた彫像と化している。茉莉花のために風呂に入って洗浄魔法もかけてもらって、人生初のフローラルな香りを纏う者もいた。

「無事にギルドに帰ってこれてよかった……」

フローラも、強気なフローラらしからぬ弱さでボソリと呟く。心臓がギュッと絞られるようであった。

頑丈なこの世界の種族は、神経も血管も鋼のごとく丈夫である。

座ることによって、末梢神経が圧迫されて血流が悪くなり足が痺れる経験なんてしたことがない。

茉莉花も困惑する。

1ミリのトゲが刺さることも、足が痺れることも茉莉花にとっては通常である。しかし、この世界ではありえない異常なことなのだ。

しかし、茉莉花の戸惑いは長く続かなかった。

茉莉花と、この世界の種族とは身体そのものが違うのである。

能力も体格も身体の強健も、全てが異なるのだ。

茉莉花が解決できる問題ではない。

悩んで逡巡した茉莉花であったが、悩むことは無駄という結論に速やかに辿り着き、あっさりと現状を受け入れることにしたのだった。

一方、ジークは顔を曇らせている。

「マリ。結界魔法を常時展開はできるかい?」

「ごめんなさい。私の魔力量では無理です」

心配するジークには申し訳ないが、茉莉花の魔力量は少ない。必要と思える時に結界を張るだけの魔力量しかなかった。

それに、魔法のない世界から来たばかりの茉莉花は魔法を使うことに慣れていない。ジークのように呼吸をするみたいに魔法を使用することはできなかった。

苦悩するジークの手を茉莉花がとった。

「大丈夫です。そんなに心配しないでください。私、健康ですし元気です。けっこう運も(悪運・幸運を含めて)あるみたいですし、ギリギリのところで回避をできているんですよ。だって、アウロラダンジョンに転移させられた時もジークに助けてもらえたでしょう?」

「……マリに何かあったら生きていけない」

「トゲでも足の痺れでも人間は死ぬことはありませんから安心してください」

「……しかし、怪我をしてほしくない。病気もダメだ。人間は風邪というもので寝込むんだろう? 花粉症というものでも体調を崩すのだろう?」

つまり、この世界の種族は風邪も花粉症も無関係なのだ、と悟った茉莉花は羨ましくなった。茉莉花は症状が重くなるタイプなので羨望してしまうのであった。

「その時はジークがお世話をしてくれるのでしょう?」

暗くなっているジークに、わざと茉莉花は明るくねだるように言った。番に甘えられてジークの気分が浮上する。

「当たり前だ。看病は俺がする」

「ね? だから大丈夫です。ジークがいてくれるんですから」

憂鬱な気持ちが100パーセント解消されないものの、ジークは茉莉花に頼られて心が高揚した。

「とりあえず危険だから今日は抱き上げて部屋まで帰ってもいいか?」

ジークとしては譲れない妥協線での茉莉花にした提案であった。

「でも、少しは歩かないと足が弱ります」

「足が弱る?」

「足の運動機能が衰えるんです」

日本ではよくある会話だった。

「座ってばっかだと足が何かさぁ」とか。

「わかる〜。年をとると足が辛いわ〜」とか。

「筋肉が〜。贅肉が〜」とか。

緊急性のない雑談程度の、あまり意味のない一般的な会話の流れであったのだが。

冒険者ギルド内では不用意すぎた。

「「「「「ヒイイイイイィーッ!!」」」」」

三度目の冒険者たちの悲鳴に茉莉花は、しまったと思った。

言い方を失敗してしまった、と。