軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 元夫があらわれた!

「――ディウドの町を守りし勇敢なる守備隊の精鋭達よ、我らが魔獣討伐部隊と共に魔獣どもを討ち払い、この地に安寧をもたらそう!」

檀上で朗々と挨拶の口上を述べる黒衣の美丈夫、アドルファス・デュアー将軍。

その深い青の瞳は、片時も離れず私に向けられている。

だらだらと変な汗が止まらない。

(絶っっっ対、気づかれてるんですけど~~~!?)

しかも、ものすっごく視線が厳しい気がする!

え? 怒ってる? 怒ってるの?? なんで?? って、思い当たることしかなかったわ、そういえば!

そもそも結婚を押し付けられて超迷惑してた上に、結婚後わずか五日で離縁届置いて行方をくらませた非常識な女を相手にニッコ二ッコしてたら、そっちの方が怖いよね!

(あ~~~! そしてこんな時にホントどうかと思うけど、やっぱりアドルファスめちゃくちゃ格好いいな~~~!?)

艶やかな黒髪に宝石のような青の瞳。逞しくもすらりとした長身に、黒の騎士服が似合いすぎている。

思い出の中で美化しちゃってるんじゃないかと思っていたけど、実物はもっと格好良かった! というか、三年経ってますます男の色気が増してない!? 眉間に皺を寄せた表情にすら色気が滲んでるんですけどー!

などと、あれやこれや考えを巡らせているようで実質的に思考停止に陥っている私に向かって、挨拶を終えたアドルファスが一歩、また一歩と近寄ってくる。

その鋭いまなざしは相変わらず私の顔に固定されたままで、私は今さらその場を離れることもできず、服の上から指輪を握り締めた。

(あ……近くで見ると、本当にローちゃんに似てる……)

ロウェルは間違いなくこの人の子どもなのだ。初めから分かっていたことなのに、胸の奥がきゅっと苦しくなった。

「……強くて格好いい、氷属性の貴族……。まさか……」

私の隣で若様が呆然と呟き、アドルファスと私を見比べる。

それに反応を返すより早く、アドルファスが私達の前に立った。

三年ぶりに、間近で彼と視線が絡み合う。指輪を握る手に、ドキドキと胸の鼓動が伝わってくる。

アドルファスがいっそう眉間の皺を深くし、唇をぎゅっと引き結ぶ。それから、薄く形の良い唇を開けた。

「ロザリ――」

「おわーっ! デュアー将軍、はじめまして! ロジーと! 申します! 元気が一番! ピッカピカの平民です! どうぞお気軽に、ロジーと呼んで下さい! ロジーでーす!」

「あ、あぁ……?」

思いっきり元気よく自己紹介すると、アドルファスが気圧されたように目を見開いて固まった。

あっぶな~! 危うく本名の「ロザリンド」が皆にバレるところだった!

結果的に、自分の名前を連呼してイケメン将軍に猛アピールする痛い人みたいになってしまったが、背に腹は代えられない。さすがに本名を知られてしまったら、私が元王女だということに気づく人も出てくるだろう。そうなったら、私とロウェルはきっと居場所を失ってしまう。

ついでに初対面アピールもしてみたけど、どうでしょう!? 「元妻かと思ったけど、他人の空似か~」なんて思ってくれたりしませんか、ね……?

その時、妙な空気で固まる私とアドルファスの間に、すっと割って入った人がいた。

「お初にお目にかかります、デュアー将軍。ディウド守備隊の隊長を務めるフィリップ・バロウでございます。この度は英雄と名高い将軍御自らご足労くださり、感謝の言葉もございません」

「アドルファス・デュアーだ。フィリップ殿、貴殿の勇名は王都にまで届いている」

「なんと……光栄です」

若様はにこやかに、アドルファスも元の引き締まった表情に戻って、握手を交わす。

ようやくアドルファスの視線から解放されてホッとしたが、それもほんの数秒のことだった。

「そしてこちらのロジーが……」

手を引かれ、若様の隣に並ぶ。アドルファスの視線が再び私に向けられた。

「我らが守備隊の聖女です。つい先日、聖属性の魔法に目覚め、以来、救護班の一員として力を尽くしてくれています」

「聖魔法……やはりあなたが……」

「ロジーのおかげで、負傷離脱した隊員の九割が復帰を果たしています。彼女は我らが守備隊の……いえ、ディウドの町の救世主ですよ!」

「ちょっと若様、大袈裟に言うのやめて下さいってば!」

芝居がかった調子の若様の脇腹を軽く肘で小突く。

私達を見つめるアドルファスが、不愉快そうに目を眇めた。ほら! あんまり大袈裟に言うから不審に思われてるじゃないですか!?

アドルファスが、私を厳しく見据えたまま、一歩近付く。

「ロザ……ロジー、あなたには聞かなければならないことがたくさんある。聖魔法に目覚めたのはいつだ? きっかけは?」

「えっと」

また一歩。

「この町にはいつから住んでいる? 住まいはどこだ? 安全な地域に住んでいるのか? 自宅に警備の人間は何人いる?」

「え、ちょっ……」

さらに一歩。

「守備隊に入る前は何の仕事を? 何か危ない目に遭ったのではないか? いや待てその前に、一人で暮らしているのか? もしや――」

「ちょっと待ってください! そんないっぺんに聞かれても困ります!」

両手を前に出して遮ると、ようやくアドルファスが足を止めた。決まり悪げに眉尻が下がる。

「あ、あぁ……すまない、気が急いてしまった。俺はあなたに――」

「ねぇアドルファス様、そちらの方は?」

その時、アドルファスの背後から鈴を鳴らすような愛らしい女性の声が聞こえた。

アドルファスの隣に並び、その腕にたおやかな手を添えた女性を見て、私は小さく息をのんだ。

光を集めて流れる金の髪に、珍しい桃色の瞳、すらりとした肢体。

目の覚めるような美少女がそこにいた。