軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

意志と依存

彼を永遠に彼女の傍に留め、彼女だけを見つめさせていたい。しかし、そうしてはならない。彼は生きている人間なのだから。意志を持つ存在を、彼女の思い通りにしてはならないのだ。

この暗い衝動を、どうすれば消し去ることができるのだろう。

「あんたの場合は、他の魔女たちよりも特殊さ。普通の魔女は極めて幼い頃に覚醒する。だからこそ愛も人も知らない。だけどあんたは愛を知っていたし、人と結ばれたこともあっただろう?」

ユフィに近づいたリベリカが、彼女の髪を優しく撫で下ろしつつ告げた。

「それなら、一生こうして執着しながら生きていかなければならないのですか? 私が他のものに目を向けるのは難しいでしょうか」

「ユフィ。意志にはしても、依存をしてはならないよ」

「意志、と、依存……ですか?」

「そうさ。彼が大切なら、閉じ込めて懐に囲うのではなく、強くなれるよう見守ってあげなきゃいけない。人間はあんたの思うより強いよ。傷にはいつか瘡蓋ができるし、頽れても立ち上がることができる」

リベリカの言葉に、ユフィの瞳が揺れ動いた。そうだ、人間は強い。ユフィもまた平凡な人間だった頃があるゆえ、それは分かっている。分かってはいるけれど……。

「ハルは……普通の人とは違うでしょう? 心も体も、これ以上は壊れようがないほどに壊れてしまっているのに」

「それでも生きているじゃないかい。あんたと再会する前も彼は生きていたし、今もこうして生きているだろう?」

「……」

リベリカの言う通りだった。

終戦から半年が過ぎたというのに、彼は壊れた体を抱えて生き延び、魔女の村まで独りでやって来ることができた。

苦しくとも、痛もうとも、生きていくことはできる。人間とはそういうものだから。

「まだ若い魔女であるあんたが混乱を覚えるのは当然の事さ。王冠の魔女であればなおさら、他の魔女たちよりも感情を失いやすい。そんなあんたたちのために、先輩である私たちがいるんだからね」

「師匠……」

「何事も最初が一番難しいものさ。だけどね……今のあんたの状況も納得はいくよ。年季の入った魔女であっても、そう簡単には心を落ち着けられないことばかりだったんだから」

腕を組んだリベリカが、自らの頬をトントンと叩きながら思考を巡らせた。二人の間にしばし静寂が舞い降りた後、魔女は言葉を続けた。

「ちょうどいいものがあるじゃないかい。ユフィ、大迷宮へ行っておいで」

「えっ? 大迷宮、ですか?」

「そうさ。大迷宮は、貪食の魔女が自らのあらゆる知識と能力を総動員して創り上げた揺り籠だよ。魔女のためのすべてがそこに存在するんだ」

「……」

大迷宮。確かに魔女になって間もない頃には、大迷宮へ行ってみたいと考えたこともあったような気がした。

村には大迷宮から生還した冒険者たちもいたし、近隣の村の中には大迷宮を探索するために冒険者たちが作り上げた場所もあったから。

湧き上がっていた強烈な好奇心が消え去り始めたのは、いつからだっただろうか。

(引き金というのは一つだけじゃない。本来、引き金というものは行為に近いもの)

大迷宮へ行けば、また別の引き金を見つけ出すことができるだろうか。そうすれば、この異常なまでの依存と執着も消え去るのだろうか。ユフィの視線が、大迷宮のある黒い山脈へと向けられた。

「師匠。私が大迷宮へ行ってもいいのですか? 私の魔法は危険でしょう?」

「おやおや。ふふっ。心配はおよし。貪食の魔女は人間の歴史が始まって以来、誰一人として勝つことができなかった最凶の魔女であり、あんたと同じ王冠の魔女なんだからね」

「そこまでなのですか?」

「数千年も前に創られた大迷宮が、なぜ未だにびくともせずその場所に佇んでいると思うんだい? あんたと同じ王冠の魔女が、一人も大迷宮に挑まなかったとでも思うのかい?」

貪食の魔女は新米であるユフィとは比べ物にならない存在だと言いたげな師・リベリカの説明に、プライドが傷つきながらも、期待が膨らんでいった。

大迷宮へ行けば、数千年が過ぎても世に名を残している魔女の知識を知ることができるのだろうか。

(もし、そうだとしたら)

彼へ向けられたこの暗い感情も、すべて消えてなくなるのだろうか。

「……師匠。大迷宮には、すぐに行ってもいいですか?」

「駄目だよ」

「えっ? なぜですか?」

当然、肯定の返答が来るものと思っていたため反射的に問い返すと、リベリカは含み笑いを帯びた声で答えた。

「弟子の伴侶を、師匠である私が看病するわけにはいかないだろう?」

***

ハルに依存してはならない。しかし、依存しないためにはハルを看病しなければならない。実に皮肉な状況だった。

リベリカとの対話を終えた後、ユフィは複雑な胸中を抱えたままハルの部屋へと向かった。カーテンの引かれた室内は薄暗く、ハルの呼吸音だけが不規則に響いていた。

その間に熱がさらに上がったのか、赤く染まった顔が痛々しいほどに苦しそうに見えた。その苦しげな姿を見つめていると、胸の奥が締め付けられた。

いっそユフィが代わりに苦しんであげられたらいいのに。代わってあげることもできず、もどかしい。

(はぁ……)

この感情もまた、いつかは消え去るのだろうか。ベッドの縁に腰掛け、ハルを見下ろしていると、悪夢でも見ているのか彼の顔が苦痛に歪んだ。

「あ……」

そういえば、彼は夜にまともに眠ることができなかった。

最近は容態が良かったため、すっかり失念していた。香草でも灯しておけば、少しはマシになるだろう。火を点けるためにユフィが立ち上がろうとした、その瞬間だった。

「……っ?!」

ハルが彼女の手首を強く掴んだ。立ち上がろうとした瞬間に引き留められたため、その反動で彼の上に覆い被さるように倒れ込んでしまった。

乾いた唇が微かに開いた。微かな、泣きじゃくるような声が耳元で小さく響く。

「ユフィネル……頼む、から。行かないでくれ……去ら、ないで……」

「……」

そっと顔を上げると、固く閉ざされたまぶたから涙が流れ落ちていた。彼は一体、いつの日の夢を見ているのだろう。

「私はあなたのことを想って涙を流したことなんて、一度もなかったのに」

あなたはそれほどまでに、私を心の片隅に留め置いていたのね。

「あなたが夢を見ながら涙を流していたすべての日々の中に、私はいたのかしら」

手を持ち上げ、彼の頬を伝う涙を拭ってあげる。せっかく依存すまいと心を決めたばかりだというのに、彼はあまりにも容易く彼女の決心を打ち砕いていく。

「ねえ、ハル」

私、あなたが苦しまないように努力するわ。執着せず、束縛しないようにする。だから、今だけは。

彼の頬を愛おしそうに撫でていたユフィは、そっと彼に唇を重ねた。

吐息を通じて流れ込んだ魔力によって、彼の熱がほんの少しだけ引いていった。

もう一度、今度はもう少し深く、心を混ぜ合わせていく。

(あなたを慰めるこの瞬間だけは、私のものになって)