軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41.屋根裏部屋

「奥様――オパール様!」

「ナージャ! 無事だったのね! よかった……」

オパールが屋根裏部屋に閉じ込められた翌日。

ナージャが部屋へと駆け込んできた。

その姿は怪我もなく元気そうで、オパールはほっとしてナージャを抱きしめた。

ナージャも遠慮なくオパールを抱き返すと、あちこち体を探って怪我がないことを確かめる。

「よかった。奥様もご無事だったんですね? もし奥様の髪の毛一本でも傷ついていたら、絶対にジュリアンを許さなかったんだから!」

「ずいぶん勇ましい侍女だな。お前が心配する必要もなかったんじゃないか?」

「奥様のことを何て呼び方をするの!? 無礼よ!」

「いいのよ、ナージャ。ジュリアンのことは気にしても仕方ないわ」

「ですが――」

部屋の入口で壁に肩を預けて立つジュリアンにナージャが食ってかかる。

そんなナージャの腕を掴んで止めると、オパールはジュリアンに微笑みかけた。

「私たちは女同士の話があるから、お茶を淹れてきてくださらないかしら?」

「……いいだろう。だが、逃げられると思うなよ」

不敵に笑ってジュリアンは屋根裏部屋の扉を閉めた。

その後すぐに鍵がかかる音がする。

大した鍵ではなさそうだが、壊して出ようとすれば大きな音で家人たちにばれてしまうだろう。

オパールは不安そうなナージャを見てその手を軽く叩いた。

「心配しなくても大丈夫よ。ジュリアンは私たちに危害を加えたりはしないわ」

「あんなやつのことなんて信用してはダメです!」

オパールの言葉にナージャは強く反論した。

だがすぐに泣きそうな表情になる。

「すみません、奥様。本当は私が警戒しているべきだったのに……。奥様は最初からジュリアンを信用してませんでしたよね……」

「気にしないで、ナージャ。敵地に乗り込んできたんだから、これぐらいは覚悟の上よ。殺されることはないと思っていたけれど、まさか監禁されるとはねえ……」

「大丈夫です、奥様。私がどうにか逃がしてさしあげますから!」

「あら、無茶はダメよ。心配しなくても絶対にクロードが助けに来てくれるから。私たちはそのときにクロードの足手まといにならないよう頑張りましょう」

冗談っぽく答えながらも、オパールはナージャの両手を握り、目を真っ直ぐに見て言い聞かせた。

ナージャは素直に頷く。

そこにジュリアンがお茶を載せたトレイを器用に持って戻ってきた。

「あら、意外と力持ちなのね」

「ふんぞり返って命令ばかりするお貴族様とは違うからな」

「奥様はふんぞり返ってなどいません! いつもご自分から動いてくださるんです!」

「ありがとう、ナージャ。ジュリアンはね、きっと捻くれて育ってしまったんだわ。気の毒に」

「黙れよ」

ジュリアンはふんっと鼻を鳴らしてトレイを小さなテーブルに置いた。

すかさずナージャがお茶をカップに注いで口を付ける。

「毒なんて入ってないぞ」

「入っていたとしても、あなたが毒味をする必要はないのよ、ナージャ」

「いいえ、これだけは譲れません」

そう答えながらナージャは新たなカップにお茶を注いだ。

どうやら毒は入っていないと判断したらしい。

オパールの命はいざとなれば盾になるので殺される心配は今のところないだろう。

それでもナージャが納得できるのならそれでいいかと、オパールはお茶を受け取った。

「ありがとう」

「いいえ。なかなか美味しく淹れられてますよ」

オパールはお茶を一口飲むと、小さく頷いた。

さすが公爵家の従僕として働いているだけはある。

お茶請けに甘いものがないのが残念だ。

だがそれ以上に必要なものがあった。

オパールはカップをテーブルに戻すと、皮肉げに見つめるジュリアンに笑顔を向けた。

「このまま屋根裏部屋で過ごさないといけないなら、退屈しのぎに本を持ってきてほしいわ」

「ずいぶんでかい態度だな。自分の立場をわかっているのか?」

「ええ。私は最後の切り札よね。私を盾にすれば間違いなくクロードは手を出せないし、お金に困れば私の資産があるもの」

「本当に生意気なやつだな」

「あら、今さらじゃない? 昔からよく言われているもの」

「まあ、いいだろう。だがあまり生意気な態度は取るなよ? 切り札はお前であって、そこの侍女はどうでもいいんだ」

「なっ――」

反論しかけたのはナージャで、オパールはすぐに手を上げてそれを止めた。

ジュリアンはにやりと笑って屋根裏部屋を出ていく。

もちろんその後に鍵がかけられる音が響いた。

「奥様、どうして言わせてくれなかったんですか!?」

「私にとってナージャは大切な存在だからよ。だけど残念ながらあの人たちにとってはジュリアンの言うとおりだわ。だから危険は冒したくないの」

「ですが私は足手まといになりたくありません……」

すっかり意気消沈してしまっているナージャを励ますようにオパールは声を出して笑った。

ナージャは驚いたような表情になる。

「ナージャがいてくれるから私は無理をせずにいられるのよ。クロードだってナージャに感謝するに違いないわ」

「そんな……旦那様は大丈夫でしょうか!?」

ナージャも反国王派が本気で動きだしたことに気付いたらしい。

オパールは笑みを湛えたまま大きく頷いた。

「クロードは大丈夫。きっとすぐにでも助けにきてくれるわ。だって慣れているもの」

「慣れていらっしゃる?」

「ええ。小さい頃は私が囚われのお姫様でクロードが助けにくる騎士っていう遊びをよくやったの。だけど私がただ囚われているだけじゃなくて、自力で逃げ出そうとするものだから、クロードはかえって大変だって文句をよく言ってたわ。だからナージャが一緒にいることで私が無茶をしないでいられるから、安心して助けてくれるはずよ」

「奥様がお転婆だったというのは、マルシアさんからよく聞かされましたけど、本当だったんですね」

オパールは片目をつぶって悪戯っぽく言うと、ナージャはくすくすと笑い始めた。

どうやら肩の力も抜けたらしい。

ようやくオパールも肩の力を抜くことができ、二人で笑い合ったのだった。