軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40.屋根裏部屋

(のどが渇いたわ……)

そんな考えが頭に浮かび、オパールは急激に覚醒した。

ぱっと目を開けて起き上がろうとするが、肩から背中にかけて痛みが走り、そのまま起き上がれずに呻く。

すると、足元のほうから低い笑い声が聞こえた。

「おはようございます、公爵夫人」

「……ジュリアン、ここはどこ?」

「どこだと思います?」

「――屋根裏部屋ね」

「さすが、よくご存じですね」

椅子に座っていたのか、床に何かこすれる音がしてジュリアンが立ち上がった気配がした。

それからゆっくり足音が近づき、ジュリアンの姿が視界に入る。

その顔にはいつもの小ばかにしたような笑みが浮かんでいた。

「こんな馬鹿げたことをするように指示を出したのは誰? コナリー? コール? どちらにしろすぐに露見するわよ。そうなればあなたは無事ではいられないわ。どうするつもり?」

「別にどうとも」

「こんなことに関わるなんて、あなたは馬鹿よ」

「自分を賢いと思っているよりはマシだね」

「思ってないわよ」

「じゃあ無意識なんだ」

「はあ!?」

はじめは冷静に話そうとしていたオパールだったが、ジュリアンの言葉には我慢できなかった。

つい大きな声を出してしまったオパールを脅すように、ジュリアンは圧しかかるようにベッドに手をついた。

「黙れ。大きな声を出すなよ。でなければ口をふさがなければならなくなる」

「私を殺すの?」

「……鉱山で事故死に見せかける案もあった。だが、それでは逆に多くの者たちを呼び寄せることになる。コールさんにとっては早急に国王派の者たちをこの土地から追い払いたいからね」

「だとすれば、私を監禁するのは悪手じゃないかしら? そろそろ私は戻らないと、ナージャが心配して騎士たちに捜すように言うわ。そうすると、すぐにでも屋敷中の捜索が始まるわよ」

「彼女が動ければ、そうするだろうね」

「ナージャには手を出さないでって言ったでしょう!」

ナージャのことに話が及んだ途端にオパールは怒りに任せてジュリアンを押しのけた。

そして起き上がったが、体を起こしてベッドわきに立つジュリアンに結局は見下ろされている。

「そんなに怒らなくても、ちょっと手足の自由を奪っただけだよ。だけど、お前がおとなしく言うことを聞かないと、彼女の無事は約束できないな」

「――何をすればいいの?」

「素直で嬉しいよ。ちょっと手紙を書いてくれればいいんだ。『ジュリアンのことを愛してしまいました。だから二人で慎ましく生きていきます。捜さないでください』って感じでどうかな? 駆け落ちするんだよ」

「クロードがその手紙を読んだら、お腹がよじれるほどに笑うでしょうね」

今回のことを知らされた時のクロードを想像して、オパールの顔に笑みが浮かぶ。

ジュリアンは何でもないことのように肩をすくめた。

「あいつが信じなくても別にかまわないさ。他の者たちが信じればね。コナリーさんは証言してくれるはずだよ。『奥様は特別にジュリアンに目をかけておられました』って。屋敷の者たちも、今回旅に同行した騎士たちも納得するはずだ」

「コナリーがわざわざあなたを紹介してきたのもそれが目的だったのね? 私を誘惑させるため?」

「『奥様は旦那様に放っておかれて寂しい思いをされている』そうですから」

「親切なことね。だけどナージャは信じないわよ」

「ああ。だから彼女も拘束したんだよ。手紙には彼女も連れていくと書いてくれ。お前を追って騎士たちが発ったら、彼女と再会させてあげるよ」

ひとまずナージャの無事は保証されそうだとわかってオパールはほっと息を吐いた。

ジュリアンならきっとナージャを粗雑に扱ったりはしないだろう。

もしナージャに何かあればオパールがおとなしく従わなくなるとわかっているからだ。

「それで、これからの予定は? 私があなたと駆け落ちしたことにすれば時間は稼げるかもしれない。だけどクロードが知ればすぐに私を捜しにくるわよ」

「涙ぐましい夫婦愛だな。だが、それはクロードが無事ならって話だよね?」

「どういうこと?」

不穏な言葉にオパールはジュリアンを睨んだ。

ジュリアンはそんなオパールを見てにやりと笑う。

「アレッサンドロが玉座に就いて四年。十分な時間だと思わないか? 反王弟派は負けたわけじゃない。力を再び蓄えるために沈黙していただけだ」

「まさか今さら反乱を起こすつもりじゃないわよね? そんなことをすれば犠牲になるのは国民よ?」

「国民なんて、コナリーさんたちにはどうでもいいことさ」

「では、絶対にアレッサンドロ陛下をお守りしなければならないわね。クロードだって同じ気持ちのはずよ。だから、私は私のするべきことをするわ」

「……言うだけは自由だからな。だが、今お前がするべきことは手紙を書くことだろ?」

ため息混じりにジュリアンは便箋を差し出した。

それはオパールが普段から使っているもの。

勝手に自分の荷物を触ったのかと思うと気分はよくないが、オパールは指示されたとおりにそれらしく置き手紙を書いた。

ジュリアンはそれを読んで満足げに頷く。

「素直で助かるよ。もちろん、屋敷には見張りが多くいるから、逃げようとしても無駄だからな」

「ナージャは?」

「騎士たちが無事に屋敷から出ていったらナージャにも会わせてやるよ」

そう言ってジュリアンは手紙を持って屋根裏部屋から出ていった。

その後すぐに扉に鍵をかける音が大きく響く。

オパールは詰めていた息を吐き出すと、硬いベッドに再び横になった。

ひとまずナージャの無事が確認できるまではおとなしくするべきだろう。

それからどうするか、それまでもどうするかを考える。

以前は自分から屋根裏部屋に閉じ籠もった。

だが今度は違う。

自由のきかない今、反国王派の暴走をどうやって止めればいいのか。

(いいえ、私が止める必要はないわ。きっとクロードたちはもう情報を摑んでいるはずだもの)

ただ、オパールが一人でボッツェリ公爵領に行くことをクロードが許してくれたことが気にかかった。

まさか、と思いつつも疑わずにはいられない。

(いいえ、そんなことがあるわけないわ。私を囮にしたなんて……)

しかしクロードにそのつもりがなくても、アレッサンドロなら考えられる。

だからこそ、クロードは急な用事を言いつけられたのかもしれない。

(だとすれば……。どちらにしろ、この件が無事に解決したら陛下のことは一発お見舞いしてみせるんだから!)

オパールは華奢な右手を固く握りしめ、天井に向かって高く突き上げたのだった。