軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5・2 シルヴァン様が狙われる日

ついに月例会の日になった。

開催場所である会議室からほど近い部屋に、シルヴァン様、近衛隊長とその部下数人、国王の補佐官、それからアロイスほか数人の魔術師が集まっている。

壁には数枚の大きな鏡がかけられて、会議室や魔法省内の廊下、王宮のエントランスホールなどが映っている。

監視カメラのような術がかかっていて、リアルタイムの状況を見られるらしい。

これなら元魔術師が装置をしかけたところを、確実に押さえることができる。

「そろそろ会議室の施錠魔法を解く時間ではないかな」アロイスがそう言って、なぜか私を見た。

「ロクサーヌはもう出ないと」

え? どうして?

そんな予定はないわ。

私もここで一部始終を見るのよ?

シルヴァン様だって、これから起こることを知っている私がいたほうがいいと判断して、それを許可してくれたのだもの。

困惑して、私の上司を見る。

「これから来る 彼(・) は」とアロイスが言う。「一級魔術師だ。シルヴァン殿と私がいれば捕縛可能だとは思うが、万が一ということもある。大規模な魔術合戦になったら、危険だ」

「確かに」と近衛隊長が同意する。「ご令嬢が怪我でもしたら大変だ。避難してください」

「ですが……」

「ベルジュ公爵令嬢」

抗議しようとした私をシルヴァン様が遮った。外向きの穏やかな表情をしている。

「彼らの言うとおりです。私の部屋で待機をしていてください」

「そんな!」

ひどいわ。シルヴァン様は私との約束より、自分のイメージが壊れないほうを優先するのね。

「あなたにもしものことがあれば、オラスに顔向けできません」

嘘ばっかり!

だけど、私がここにいても役に立たないことは、自分が一番よく知っている。私は元魔術師の素顔だって知らないのだもの。

ごねたって、シルヴァン様が意見を変えてくれるとは思えないし。

諦めるしかないのだわ。

◇◇

シルヴァン様の執務室近くまで戻ってきたところで、オラスに会ってしまった。

きっと、また彼の仕事をやれと言われる。顔を会わせるたびに、諦め悪く迫って来るのよね。

あげくに『雑用係の仕事があるといったって、休日はヒマだろうが』とも言っている。休日は休むためにあるということを知らないのかもしれない。

それについ先日、私がサロンに閉じ込められた件で、お兄様はオラスに復讐をした。彼の所領で、三年にわたって税金を誤って取りすぎていることを 発覚させた(・・・・・) のよね。

この事務に私はノータッチ。もちろん、オラスもノータッチ。他人に任せきっていたせいで、何年もミスに(本当にミスか怪しいけれど)に気づかなかったみたい。

社交界での反応のほとんどは、『あの 聡慧(そうけい) な王太子が、こんな初歩的なミスをするなんて』という驚きと、『それだけお忙しいのだろう』という同情心だった。

でもこれは、オラスのプライドをおおいに傷つけたみたい。

ざまあみろ、よね。

ただこの件のせいで、だいぶ苛立っているらしいのよね。

きっと今日は、八つ当たりも含まれているわ。

案の定オラスは不機嫌な顔で、私の前に立ちはだかった。

面倒くさい。

ただ、この様子をシルヴァン様たちが監視術で見ているかもしれない。

オラスが私には酷い態度を取るということを、たくさんの人に知ってもらえる機会になるかもしれないわね。

「ロクサーヌ。いい加減、私の仕事に戻れ」と、居丈高なオラス。

監視映像に音声がついていたらよかったのに。

「何度も言わせないでくださいな。陛下より、シルヴァン様の雑用係に専念してよいとの許可をいただいております」

「それは父上が――」

「殿下がほぼすべての仕事を私に任せているとは、ご存じなかったのでしょうね」

私も両親もお兄様も、幾度となく進言したけれど、本気にはしていなかったのだろう。

『ロクサーヌは大袈裟なんだ』と笑う息子のことを信じて。

「……こんなところで、滅多なことを言うな」と、オラスがすごむ。

「あら、私がなにを主張しようとも、すべて殿下が『嘘』認定をしてしまうではありませんか。それでは私はこれで」

ささっと脇を通り抜けようとしたけれど、オラスに腕を掴まれてしまった。

「今日という今日は、逃がさないぞ。従者が対応しきれないと困っているんだ」

「まあ、私の代わりに従者に仕事を押し付けているのですか。ご自分でやろうという考えはありませんの?」

「つべこべ言うな!」

オラスは今日もしつこかった。まったく話が通じない。しかもこんなときに限って、誰も廊下を通らない。

参ったわ……。

オラスがため息をついた。

「もういい。叔父上にはあとで連絡をする。行くぞ」

彼はそう言って、呪文を唱え始めた。

しまった。転移魔法を使われるてしまう。

シルヴァン様たちが見ていればいいけれど、そうでなかったら――。

慌てて手を振りほどこうとしたそのとき、

「なんだお前っ!?」と、オラスが叫び声をあげた。

何事かと振り返る。

誰もいなかったはずのそこには、小柄な男が立っていた。左肩が血に染まり、凶悪な表情をしている。

もしかして、例の元魔術師では?

きっとシルヴァン様たちが捕縛に失敗して、ここへ転移して逃げてきたのだわ!

どうしようと思ったとき、彼の後ろにシルヴァン様とアロイスが現れた。

間髪入れずに元魔術師の姿が消える。

次の瞬間、彼は私たちの目と鼻の先にいた。

「うわあ!」

叫んだオラスが私を突き飛ばした。

なにが起こったかわからないうちに、私は元魔術師に背後から押さえつけられていた。首にがっしりと血まみれの腕を回されている。

「この女を殺されたくなかったら、攻撃をやめろ!」と、元魔術師がシルヴァン様たちに向かって叫ぶ。

ピタリと動きを止めるシルヴァン様たち。