作品タイトル不明
第3話 異変
「失礼いたします、ライト様」
「失礼いたしますわ」
「? メイ、エリー、なにかあったの?」
『奈落』最下層の執務室。
メイ、エリーが珍しく二人揃って、執務室に入ってきた。
メイが代表し、報告を口にする。
「エルフ女王国、ドワーフ王国、獣人連合国、魔人国の海洋から大量の海中モンスターが押し寄せ港を破壊。一部モンスターが陸上に上がり、猛威を振るっているとのことです。恐らく竜人帝国も同じ状況下かと。各国から救援要請が出ておりますが、いかがなさいますか?」
メイの報告を聞いて僕は驚きを抱く。
海中モンスターは地上に比べてレベルが高い。
しかし、自ら遠い海上に出るか、それこそ海に潜り深い場所に向かわなければまず出会う事はない。
もちろん、海中の高レベルモンスターが迷って港に近づき船、建物を破壊する事例はゼロではない。
とはいえかなり珍しい珍事だ。
にもかかわらずメイの報告では、まるで誰かが海中モンスターを操っているかのように押し寄せて、暴れているとのことだ。
その光景は想像しただけで絶望的、終末世界のような状態だろう。
もちろん、僕の返事は決まっている。
「エリー、すぐに『巨塔の魔女』経由で各国家に海中モンスターに対応できる人材を派遣してくれ! 人選は任せる!」
「畏まりましたわ!」
「メイは必要な物資の準備、輸送、配布などを手配してくれ! 制限はなしだ! 人命を優先してくれ!」
「我がメイド道に懸けて!」
僕が指示を出すと、二人は気持ちのいい返事をした。
そして彼女達は返事を終えると、すぐさま行動に移す。
元『種族の集い』メンバー達に裏切られて殺されそうになったが、だからと言って彼ら種族全体を恨んでいるわけではない。
なので見殺しにするつもりはなかった。
僕も書類仕事を中断し、早速行動を開始する。
☆ ☆ ☆
魔人国港。
魔人国港はこの世界で最も北部に存在する。
だが冬期になっても海面が凍ることはないため漁業が盛んで、魔人国港で取れる漁獲類は味も良く重要な外貨手段の一つだ。
そんな魔人国港が、現在進行形で海中から攻めてきたモンスター達によって破壊され続ける。
「お、俺の船がぁぁぁ!」
「馬鹿野郎! 早く逃げるぞ! このままじゃ船を壊されるどころか、命を失うんだぞ!」
「ママ! ママ!」
「だ、だれか……この子を連れて逃げてください! お、お願いします!」
魔人国港には現在、巨大なイカ――クラーケン型モンスターが複数存在していた。
クラーケンは船を破壊し、建物を巨大な触手によってなぎ倒す。
その際、吹き飛んだ瓦礫が魔人種母子に激突。
母親は頭から血を流し、下半身が瓦礫に埋もれ、子供がその側で泣き出している。
他の魔人種達も助ける余裕はなかった。
クラーケンは約レベル5000。
本来、深海にいるような高レベルモンスターが複数暴れ、なかには上陸して港街奥まで進み破壊しようとしている。
まるで主の指示に忠実に従うように。
本来、クラーケンは群れではなく、単独で行動し生活している。にもかかわらず互いに争うことなく、共闘している状態が異常だった。
上陸したクラーケンが瓦礫に埋もれている母親、側で泣く子供ごと潰すように触手を振り下ろす。
普通なら、そのまま母子共々、潰れて、どれが瓦礫化、肉片か分からない状態になるはずだったが――。
『!?』
「ケケケケケケ! 不味いな! 昔、 ゴールド(同僚) からもらった干しイカは美味かったんだが。やっぱり、こういう大型だと味が悪くなるのか? それともしっかり調理して、干せば美味しくなるものなのかね?」
上陸したクラーケンが振り下ろした触手が一瞬で、巨大な口によって噛み切られたことに驚愕した。
もちろん、噛み切ったのは『UR キメラ メラ レベル7777』だ。
武装した妖精メイド達が、次々ドラゴンから降下。
瓦礫をアイテムボックスにしまい母親を救助し、ポーションで治療を開始する。
他にも怪我人、瓦礫に埋もれている、逃げる者達の避難誘導を開始した。
そんな妖精メイド達を護衛するように、アオユキ配下の高レベルモンスター達が、側につく。
メラは彼女達の行動を軽く一瞥すると、改めてクラーケン達へと向き直る。
「ケケケケケ! どうやら怪我人や生き埋め、逃げる住人達は妖精メイド達に任せておけば問題なさそうだな。それじゃあたしは、これ以上、被害が出ないようにオマエ達を始末でもするかね!」
宣言すると同時に、彼女の背中から複数のクラーケンに負けないほどの大きな触手を造り出す。
その触手はクラーケンのものと違って、複数の口がついている。
「ケケケケ! 味は不味いが折角の珍味だ。ただ倒すんじゃ勿体ないよな!」
『!』
上陸したクラーケンは生物的本能から、メラに狙いを絞り攻撃を開始!
その巨大な触手を彼女に向かって狙い振り下ろす!
普通なら、巨大質量×速度によってどれだけ固い鎧をまとっていても潰れてしまう。またどれだけ巨大な剣をもってしても、クラーケンの分厚く弾力がある固い触手を切り裂くことなどできない。
しかし、相手はメラだ。
「ケケケケケケ! やっぱり海産物は活きがよくないとな!」
自分に向かって振り下ろされる触手に一切怯えず、背中から生やしたメラ側の触手を振るう。
クラーケンの触手がメラ触手によって噛み千切られ、咀嚼。
それだけでは収まらず、メラ触手はクラーケンの胴体に巻き付き貪り出す。
最初、クラーケンは抵抗しようともがくが、数秒で力を失い触手が海面に落下。海水を巻き上げる。
その様子を見ていた他クラーケン達は、暴れるのを止めて怯えるように視線をメラへと向けていた。
彼女はそんなクラーケン達に向けて心底愉快そうに笑う。
「ケケケケケケケ! やっぱり不味い、不味い! しかし、いと尊きお方がオマエ達の『死』をお望みだ。一匹残らず喰らってやるから逃げるなよ?」
クラーケンは絶対的捕食者を前にしたような怯えを見せた。
(ケケケケケ! クラーケン共、滅茶苦茶にびびってやがるな……。にもかかわらず、未だに逃げだそうとしないとは妙だな……。普通、命の危機を感じたら逃げ出すものじゃないのか?)
だが、この段階になっても逃げようとはしない。
メラはそんなクラーケン達に疑問を抱きつつも、魔人国港を荒らす海中モンスター達を次々殲滅していくのだった。