軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7話 メイvs黒4

「ッゥ……」

「……ッ」

メイは『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で作り出したナイフで、 黒(ヘイ) の鎖骨辺りを刺し、彼は黒刀で彼女の腹部を刺し貫いた。

黒は腕に力を込めて黒刀を引き抜き、距離を取ろうとするが、メイは素手で黒刀を掴み引き抜かれないように抗う。

引き抜かれたら、穴が空き致命傷になる。

なので引き抜かれないように抗っている……というのもあるが、別の目的もあった。

黒は腕力では引き抜けないことを理解し、瞼を閉じて魔眼を切り替える。

瞼を開くと、六芒星が回り、斥力の魔眼に切り替わった。

「くッ!」

さすがのメイも黒の腕力+魔眼の力には抗えず、じりじりと黒刀が腹部から引き抜かれていく。

このまま引き抜かれば傷が致命傷となり、勝敗に決着がつく。

もちろんメイが敗北、黒が勝利という形でだ。

――しかし、黒が勝利する未来は訪れなかった。

「……ッゥ!? 視力が消えた!? 体も動かない!?」

「ふぅ……どうやらギリギリ間に合ったようですね」

視力が消えたせいで、『ランダム魔眼』の効果が停止。

さらには体が動かなくなる。

意味が分からず、無口な黒が思わず驚きの声を上げてしまった。

よほどど驚いたのだろう。

メイは黒に刺さったナイフから手を離し、

「ぐぅ……ッ!」

柳眉を苦しげに寄せながら、黒刀を腹部から引き抜く。

「『SSSR 祈りの息吹(オーバーヒール) 』、解放」

メイは黒刀を引き抜くと自身の傷を『SSSR 祈りの息吹(オーバーヒール) 』で癒やした。

メイド服に穴は空いたが、傷口がしっかりと治癒される。

お陰でどうにか一息つくことができた。

彼女は軽く呼吸をすると、未だ動かず、視界も奪われた黒を『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で拘束。

床に転がし、『ランダム魔眼』を封印していた目隠しを再度着け、その上から『 魔力糸(マジック・ストリング) 』でガチガチに固定する。

視覚は未だに奪っているが、念のため意図的に外せないようにした。

メイがどれだけ『ランダム魔眼』に苦しめられたかが、その行為から分かるというものだ。

彼女は一連の作業をしつつ、種明かしをする。

「私は戦闘が得意ではないので、貴方を倒すためには危険な賭けに出るしかありませんでした。しかも、途中、まるで『未来が視えている』ように戦われていましたよね? 私の予想では『未来視』の魔眼を使っていたと思うのですが?」

「……正解だ」

「ですよね。お陰で私の勝率はより一層下がりました」

普段、顔色一つ代えず、ライトを甲斐甲斐しく世話したり、妖精メイド達を采配、ナズナの面倒を見たりしている。

にもかかわらず、メイは心底疲れたように溜息を漏らした。

この一戦がどれだけ彼女にとってしんどかったのだろう。

「お陰で腹部を貴方の刀で刺されることを覚悟し、動きを止めて『 魔力糸(マジック・ストリング) 』のナイフを刺すしかありませんでした。その後、足止めをしてナイフが抜けないように固定。貴方の体内に『 魔力糸(マジック・ストリング) 』を潜り込ませて視力、体の自由を奪う時間を必死に稼ぎました。途中、魔眼で吹き飛ばされそうになった時は内心で敗北を覚悟したほどです。薄氷の勝利とはまさに今回のような戦いのことですね」

「!?」

メイの台詞に黒が再び驚いた。

メイの切り札――最後の奥の手が、相手の体内に『 魔力糸(マジック・ストリング) 』を潜り込ませ自由を奪う、というものだ。

言葉にすると凄い技に聞こえるかもしれないが、敵の傷に『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で触れ続けなければならない。

もしそんなことができるなら、『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で敵を捕縛した方が早い。

今回は奇跡的に上手くはまったが、正直、メイとしては『奥の手』と呼ぶには憚られる際物技だと考えている。

(幸運だったのは、視力を奪ったら魔眼の効果も消えたことですね。もし視力が消えても魔眼の効果がなくならず、あと数秒経っていたら、私が吹き飛ばされて負けていました)

メイの台詞通り、本当に薄氷の勝利だった。

(仮に彼の相手がライト様、アオユキ、エリー、ナズナなら、私のような無様な戦いなどせず一瞬で倒してお終いだったのでしょうが……。本当に私には戦闘センスがありませんね)

戦闘以外はなんでもそれなりにこなす自信があるのだが……。

メイは改めて自分の戦闘センスの無さに溜息を漏らした。

「……ひとつ、頼みがある」

「なんでしょうか? 命乞いですか」

「違う。もし貴女がこのダンジョンを進み、金髪で上半身裸、口が悪い男――カイザーという名前の人物に会ったら、彼だけは殺さないでくれ」

「……ご友人ですか?」

「親友だ」

黒は迷わず断言した。

彼は続ける。

「コレのせいでカイザーをこんな魔法、魔物、怪物などがうろつく世界に連れてきてしまった。カイザーは何も悪くない。この世界ではモンスターを倒し、レベルを上げて、アークをひたすら修理していただけだ。彼は何の罪も犯していない。もし彼を罰するなら、コレが全て肩代わりする。どのような扱いをしてもかまわない。命を狙ったのに虫の良いことを口にしているのは理解している。だが、頼む」

「…………」

黒は自分の命、どのような責め苦を受けようと、カイザーだけは助けて欲しいと懇願した。

つい先程まで殺そうとしていた相手、メイにプライドを投げ捨て懇願する。

そんな黒の姿にメイは――。

「そうですか……貴方もまた『メイド道』を歩む同志だったのですね……」

「…………」

黒は『何を言っているんだこいつは?』というツッコミを思わず無言でしてしまう。

しかし、無言だったのと、黒の自身の命、プライド、尊厳を投げ捨てた献身的な態度に感銘を受けたメイは、『自分も同じだ』と言いたげに何度も頷く。

「自身の命に代えても尽くすと誓った相手に、言葉だけではなく行動で示す献身。まさに『メイド道』。敵ながら敬意を払うに値する心意気かと」

「…………」

メイの台詞に対してどういう反応をすれば正解なのか分からず、結局、黒はただ黙り続けるしかなかった。

そんな二人の会話を新たに広場へ姿を現した人物が眺めていた。

距離はあるが、周囲を気にせず二人は話をしていたため、『そうですか……貴方もまた「メイド道」を……』云々辺りからまるまる耳にしていた。

その人物……エリーは冷めた視線で同格のメイを眺める。

(メイさんは優秀で聡明、尊敬に値する人物ですが……『メイド道』のことになると頭がナズナさん級になりますわよね……)

エリーは海生モンスター達を倒し、なんとか仲間と合流を果たすと、仲間であるメイは敵らしい拘束した男性に向けて『貴方もメイド道を歩む者なのですね』と一人納得し、同志を見つけたような態度をとっていたのだ。

思わず残念な者を見つけたような視線をしてしまうのも無理はないだろう。

一方、メイは、エリーの存在にも気づかず、床に拘束している黒に対して『メイド道』について気持ち良さげに語り出す。

暫く、メイの独演会時間が続くのだった。