作品タイトル不明
5話 メイvs黒2
「『 魔力糸(マジック・ストリング) 』、界!」
「…………」
メイは『 魔力糸(マジック・ストリング) 』を収束させて作り出した純白の剣を糸に戻し、海底ダンジョン、広間全体に広げた。
竜人帝国側『マスター』である 黒(ヘイ) は、メイの気迫から彼女が勝負に出たことを長年の戦闘勘から察知。
どのような攻撃が来ても対処できるよう心構えをする。
「!?」
そんな彼でも『 魔力糸(マジック・ストリング) 』によって目の前でメイと瓜二つな存在が紡がれ、複数体作り出せされたことに驚きを禁じ得なかった。
メイは『 魔力糸(マジック・ストリング) 』を海底ダンジョン広間に広げ、自身の分身体を編み、複数体作り出したのだ。
ただ作り出したのではない。
『お覚悟を!』
『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で作り出されたメイが、素手で突撃してくる。
黒は複数体メイの突撃に我に返り、迎撃するため黒刀を構え直す。
偽糸メイは素手のため、振るわれる黒刀を防ぐ手段がない。
2、3、4体と次々に突撃しては黒へ切り捨てられてしまう。
斬られた偽糸メイは、ほどけて魔力となって霧散した。
一見するとただ無意味な突撃に思えるが……。
「!?」
黒の足が突然、止まった。
広間全体に広げられた『 魔力糸(マジック・ストリング) 』は当然、地面にも広がっている。
偽糸メイ達の突撃によって足下の注意が疎かになった黒の足に糸が絡みつき、動きを止めたのだ。
それだけでは終わらない。
「……ッ!」
足に糸が絡みつき動きを止められたことで、黒が動揺。
その間にも突撃してくる偽糸メイを切り払うが、動揺したせいでテンポが遅れた。
結果、一人が斬られ、その間に距離を縮めた偽糸メイのもう一人が刀を掴み糸を絡ませてくる。
咄嗟に黒は黒刀を手放し、糸から逃げようとするが……。
偽糸メイに腕を掴まれたせいで、両手すら拘束されてしまった。
これがメイの切り札の一つ、『「 魔力糸(マジック・ストリング) 」、界』だ。
限定された空間を『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で満たし、糸で自身の分身体を作り出す。
敵にけしかけて倒したり、糸で絡めとれればよし。
分身体に注意をそらしている間に、糸で足や体を拘束することもできる。
一見すると非常に有用だが、当然、欠点も存在した。
一つ、魔力消費量が非常に大きい。
一つ、分身体に複雑な動きはできない。全てメイが作りだし、操作しているため、複雑な動きができるほど余裕がないのだ。
一つ、分身体の直接の攻撃力は高くない。魔力糸で武器を作り出す余裕もないため、基本糸による拘束がメインとなる。
以上だ。
無事、黒の動きを止めることができたため、メイは一部『「 魔力糸(マジック・ストリング) 」、界』、を解除。
その余力で糸製ナイフを作り出し、黒との間合いを詰める。
「お覚悟を!」
「くッ!」
初めて黒の表情に焦りの色が浮かんだ。
メイが彼を追い詰めている証左である。
逃げようにも足には糸が絡まり、黒刀で受けようにも両手が縛られまともに振るうことさえできない。
せいぜい動かせるのは上半身ぐらいだろう。
――だが、黒自身の切り札を出すには十分な可動域だった。
彼は腰を曲げて両手に目隠しを押し当て、首を動かし、大きくずらす。
目隠しの下には当然、両目があって、露わになる。
「!?」
メイの背筋が震える。
黒の両目には不思議な図が描かれていた。
六角形の魔方陣に複雑な魔術文字が描かれていたのだ。
彼が瞼を閉じ、再度開く。
「ッゥ!?」
黒が瞼を開くと同時に、突撃していたメイの体が後方へ向けて吹き飛ぶ!
魔術・物理的攻撃を受けた訳ではない。
ただ見られただけで、広場壁まで勢いよくメイは吹き飛ぶ。
咄嗟に、糸製ナイフを解除。
背中にクッションを作り、壁激突の衝撃を和らげた。
メイを不可思議な攻撃で吹き飛ばした黒は再び瞼を閉じる。
彼は魔力糸で拘束されている両手に視線を向け、再度瞼を開くと……。
瞳の中の魔方陣が回転。
糸が何もしていないのに状態を維持できず、魔力となりほどけていく。
「馬鹿な! ありえません!?」
これにはさすがのメイも声を上げてしまう。
強引に引きちぎった訳でも、魔術で対処された訳でもない。
ただ見られただけで、一方的に糸が魔力状態に戻り霧散してしまっているのだ。
両手だけではない、足を拘束している魔力糸も視線を向けられただけでほどけていく。
メイがほどこうとしているわけではない。魔力が解除されている感触もない。
まるで黒が自身の魔術を解放するように、メイの糸がほどけて消えていってしまうのだ。
黒は両手足が自由になると感触を確かめるように軽く動かす。
再び瞼を閉じ、開くと――。
「ッゥ!?」
今度はメイが黒に向かって急速に吸い寄せられた。
彼自身、黒刀を構え突撃するせいで急速に間合いが潰れる。
「『 魔力糸(マジック・ストリング) 』、ナイフ!」
『「 魔力糸(マジック・ストリング) 」、界』の使用で、魔力が極端に減少。
『「 魔力糸(マジック・ストリング) 」、界』を解除しても剣を作り出すことができず、ナイフを作り黒刀を受ける。
次に黒が目を閉じ、開く。
強烈な引きつけられる力は消失。
代わりにメイのナイフが彼の視界に収まるとほどけて消えていく。
『「 魔力糸(マジック・ストリング) 」、界』で拘束した時と同じだ。
「……っ!?」
再度、驚愕するもその間に黒が攻撃をしかけてくる。
メイはほどけるナイフを解除。
回避に専念するが、受ける武器がないためどうしても被弾してしまう。
腕、足、脇腹、頬、肩――浅いが次々に傷をつけられる。
黒が蹴り。
それを両手でわざと受け、ダメージと引き替えに距離を稼ぐ――が、
「!?」
黒が距離を取ったメイの背後に一瞬で移動。
彼女の細首を狙って刀が振るわれる。
赤いメイの鮮血が首から飛び散る。
「ぐぅ!」
しかし、その傷は浅い。
黒刀先端が、彼女の首をかすり軽く血が舞っただけだ。
メイは黒刀を回避しつつ、背後に回り込んだ黒に向かってカウンターで蹴り。
回避されるとは黒自身、想定しておらずもろに腹部へ彼女の蹴りを受け、逆にダメージを負う。
レベル9999の全力の蹴りだったが、黒自身のレベルが高いこともあり、殺害、致命傷までには至らない。
とはいえノーダメージという訳でもなかった。
相応のダメージを負い、端正な顔を歪める。
メイは軽く斬られた首の傷を魔術で癒やしつつ、黒へと振り返る。
「先程の背後に回りしかけた攻撃のお陰で、貴方が『 魔力糸(マジック・ストリング) 』を無力化した方法、私を吹き飛ばし、逆に引き寄せたりした力のタネが分かりました。『ランダム魔眼』それが貴方の 恩恵(ギフト) なのですね」
「…………」
メイの言葉に黒が同意するように睨み、腹部を押さえていた手を離し、黒刀を構え直すのだった。