作品タイトル不明
21話 時計屋vs
「キェェエエエェェェェェ!」
奇声を上げて『SSSR 時計屋 レベル1051』が、『巨塔』に不法侵入してきた敵魔術師へと殴りかかる。
「ぁあぁああぁッ!?」
敵魔術師――竜人帝国の魔術軍団現トップ、ドラドナは、時計屋に襲われ悲鳴を上げた。
ドラドナは、エリーによって『巨塔』地下訓練場に強制転移後、しばらくは辺りに罠がないか確認の時間についやす。
罠がないことを確認した後、脱出を試みようと塞がれた出入り口を攻撃。
攻撃によって出入り口の塞ぐ壁そのものを破壊することは可能だった。
しかし、破壊後、すぐに高速再生してしまうせいで、訓練場から抜け出すことが出来ずにいた。
今回の『巨塔の魔女』暗殺で、ある意味一番やる気があるのは彼だ。
それ故、なんとかこの場から抜け出て、『巨塔の魔女』を暗殺しようとやっきになって、出入り口を破壊して、抜け出そうとしていた。
その最中、突然、時計屋が『いつのまにか』高速再生中の扉の前に立ち、奇声をあげて襲いかかってきたのだ。
人種(ヒューマン) 、獣人種、 竜人(ドラゴニュート) 種、エルフ種、ドワーフ種、魔人種でもない。
モンスターでも見たことがない顔が時計の二足歩行の人物が奇声をあげて殴りかかってきたのだ。
いくら『巨塔の魔女』暗殺に誰よりやる気を持って挑んでいたドラドナでも、思わず悲鳴をあげてしまうというものだ。
「時計を壊した恨み晴らさずおくべきかぁぁぁぁぁぁッ!」
時計屋は時計屋で、今回、時計破壊の原因であるドラドナに対して、文字通り『恨み晴らさず』にはいられなかった。
彼にとって時計とは、とてつもなく大切な物だ。
それを傷つける者がいたら、たとえナズナが相手でも殴り、怒声を飛ばすほどである。
逆にドラドナからすれば、『時計』というアイテムは、過去文明からたまに出土する『時間を知るためのアイテム』程度の認識である。
確かに物によっては芸術品として好事家に高額取引される過去文明遺跡品だが……。
時計屋レベルでブチ切れるほどの物だとはとうてい考えられない。
驚愕、恐怖、困惑から、悲鳴を上げ身体が硬直してしまうが、
「ふべぇッ!」
ドラドナが手にしている杖、先端に複数のモンスターの頭蓋骨が付いている。
そのうちの一つが巨大化して、襲いかかってきた時計屋を吹き飛ばす。
お陰でドラドナに傷一つ付かず、時計屋が地面へと転がった。
思いの外、ドラドナが持つ杖『モンスターヘッド』の一撃が上手い具合に入ったのと、戦闘職ではないため、時計屋はダメージを受けて動けなくなる。
そんな彼を見下ろし、ドラドナは困惑を深める。
「い、一体、こいつはなんなのだ!? 何がしたいのだ!? まったく分からんぞ!」
時計屋という存在に困惑してしまったが、ドラドナが危険を冒してまで『巨塔』に来た理由は一つ。
自分の手で『巨塔の魔女』の首を打つことだ。
「そうだ……こんな訳の分からん存在にかまっている暇は無い。さっさとここから抜け出て魔女の首を討たなければ! でなければ儂は、いつまで経ってもあの忌々しいますたー共の後塵を拝するだけだ!」
竜人帝国の魔術軍団現トップ、ドラドナは、現地人としてはレベルも高く、魔術知識も深い非常にすぐれた魔術師だ。
しかし、竜人帝国皇帝を含めた上位者は、常に『マスター』達を優遇してきた。
理由は単純に『強い』からだ。
ドラドナは竜人の魔術師としてはトップ中のトップだが、『マスター』と比べたら子供の遊びレベルでしかない。
結果、『マスター』の存在を知る竜人帝国上位者達からは常に『マスター』と比較され、見下されてきた。
「『ますたー』達を超えるため、成長限界を突破するために、長年 ヒューマン(劣等種) 共を女子供関係なく殺し続けてきたが、いっこうに成長限界を超える気配はない。まったく無駄な投資をさせおって……ッ!」
成長限界とは?
ある一定の数値に達すると、それ以上レベルが上がらないとされている。それを一般的には『成長限界』と呼ぶ。
ドラドナは、『人種を殺すと成長限界を突破する』という与太話を信じて、長年、人種奴隷を買っては殺害を繰り返してきた。
最初はいくら殺してもレベルが上がらないため、試行錯誤しあらゆる残虐な方法――ほぼ拷問に近い殺し方などもおこなってきた。その方がレベルが上がるという噂を耳にしたからだ。実際は与太話でしかない。
結局、彼は成長限界を超えることが出来ず、思わず怨嗟の呻きを吐き捨ててしまう。
「だがあの『ますたー』連中ですら恐れる『巨塔の魔女』を殺せば、儂こそがもっとも優秀だという証明になる! あのクソ生意気な『ますたー』連中の鼻を明かし、皇帝陛下達もきっと儂の優秀さを認めてくださるはずだ!」
ドラドナは『プロジェクト・アーク』から漏れ出た人材だが、本人としてはそれ以上に『ますたー達の鼻を明かし、竜人帝国上層部に認められたい』一心で今回の暗殺計画に立候補。
そのため彼としては『プロジェクト・アーク』の座席より、『巨塔の魔女』の首を欲していた。
とはいえ成長限界を超えていない彼が、『マスター』達ですら敬遠する『巨塔の魔女』をどうやって倒すのか?
当然、無策ではない。
必勝は彼の手の内に、物理的に存在した。
マジックアイテムの杖―― 幻想級(ファンタズマ・クラス) の武具『モンスターヘッド』だ。
「ドラゴの持つ、『終末の槍』で 増幅強化(ブースト) し、準 神話級(ミトロジー・クラス) 武具化した『モンスターヘッド』の力を以てすれば確実に魔女を殺すことが出来る! いや、もしかすればあの『ますたー』達ですら超えているかもしれん。だとしたら、魔女を殺した後、『終末の槍』と『モンスターヘッド』をなんとしてでも手に入れなければ……ッ」
ドラドナは『巨塔の魔女』暗殺を終えた後に帰国した際、『終末の槍』と『モンスターヘッド』を手に入れるためなら、全財産、マジックアイテム、人種奴隷を差し出してでも、絶対に手に入れると堅く心に誓う。
……実際には、どれだけ堅く心に誓っても、『モンスターヘッド』はともかく 神話級(ミトロジー・クラス) 武具、『終末の槍』を手に入れるのは不可能だが。
「そのためにもこんな訳の分からない生物? でいいのか? と、ともかく、この変な輩にこれ以上かまってはいられん! さっさと始末して、『巨塔の魔女』を討たねば!」
ドラドナは、これ以上の妨害を受けないよう床に倒れている時計屋に向けて『モンスターヘッド』を向けた。
「『モンスターヘッド』! あの邪魔な輩を始末しろ!」
サーベルタイガーのように2本の長い牙を持つモンスターの骸骨が巨大化して、床に倒れている時計屋を食い殺そうとする――が、
激しい落雷によって弾かれ、その攻撃が防がれる。
「それ以上、彼に手を出すのは止めて頂きましょうか」
僅かに『巨塔』地下訓練場の出入り口が開き、その外側から、ひとつの影が飛び込んでくる。
その影は間一髪の所で、食い殺される時計屋を救うことに成功した。
新たな参加者――参加犬にドラドナは再び混乱する。
「は? な? 犬?」
時計屋の暴走を止めるため、彼を確保するために『奈落』最下層から『レベル5000 雷鳴の統括者 ウルシュ』が駆けつけてきたのだった。