作品タイトル不明
21話 魔人国の国宝
マジックアイテム経由で、ゴウとドクの敗北を知った魔人国第一王子ヴォロスは、『巨塔の魔女』がエルフ女王国のように魔人国を傘下におさめようとするだろうと勝手に想像する。
実際、攻めてくるのは確かだが、傘下におさめようなどとは考えていない。
ライトの逆鱗に触れた結果、住民はともかく王城を灰にされるとはさすがに想像していない。
……自業自得ではあるのだが。
そんなヴォロスは、魔人国『マスター』でも勝てなかった『巨塔の魔女』に対して、彼がこの世で最強と考える存在、切り札を切る覚悟を固めた。
彼が向かった先は『C』が眠る王城最地下――ではなく、まず宝物庫へと足を運ぶ。
宝物庫で魔人国の国宝である『身代わりのペンダント』を持ち出すためだ。
『身代わりのペンダント』は、『どのような攻撃からでも一度だけその身を守ってくれる』という国宝級マジックアイテムである。
過去に居た『マスター』から得たマジックアイテムだ。
一度使用すると破損して二度と使えなくなる。
(これから我がおこなうのは前人未踏のおこない。魔人国のためにも我に何かあってはならぬからな)
魔人国を導く者として、自身の命を優先する。
実際はまだ病気で寝込む現国王から王座を譲られていないため、まだ第一王子という立場でしかないが。
『身代わりのペンダント』を身に付けた後、『C』の眠る王城最地下へと向かった。
☆ ☆ ☆
「ヴ、ヴォロス様、『C』の復活をなさるのですか?」
「そうだ。ゴウ達『ますたー』共が破れた以上、なりふり構っている暇はない。クソッ、本来ならばゴミのような人種だが、『ますたー』だから我に不遜な態度を取っても許してやっていたというのに! まさか全員、敗れてしまうとは! 所詮、どれだけすぐれていても ヒューマン(劣等種) は ヒューマン(劣等種) だな! だから魔人種以外信じられぬのだ!」
王城の最地下で『C』を目覚めさせる研究がおこなわれている。
その研究の責任者が、ヴォロスの指示に震える声で返答した。
ヴォロスは返事をするが、後半はゴウ達魔人国側『マスター』に対する愚痴が出てしまう。
研究の責任者は、『C』復活の研究をしているだけあってゴウ達魔人側『ますたー』の存在について知っていた。
彼らの強さもだ。
それでも研究の責任者は青い顔で反対の声をあげる。
「ヴォロス様、ゴウ様達が敗北したことは心中お察ししますが、『C』を強制的に目覚めさせることには了承しかねます。どのような問題が起きるか分かったものではありませんよ」
元々、『C』が眠る棺を魔人国が遺跡で発見。
回収し、王城最地下に研究施設を作り出した。
そこで秘密裏に『C』の棺を開封し、復活させる方法を模索していたが、その方法は未だ発見されていない。
しかし何事も例外がある。
長年の研究から、『乱暴に棺を破壊して開封すれば復活するのでは』と考えられていた。だが問題が一つあるとするならば、『どのような状態で復活するかまでは不明』という点だ。
ただ簡単な推論は立てられる。
静かに眠っているところを顔も合わせたことがない第三者が、滅茶苦茶乱暴な方法で叩き起こしたら――当然、激怒させてしまうだろう。
正直、危険度が圧倒的に高い。
わざわざ『C』の不興を買う必要はないため、棺の蓋を穏当に開く方法を長年研究していたのだ。
だが、この提案にヴォロスが激怒する。
「巫山戯るな! ゴウ達が敗北した以上、いつあの『 巨塔の魔女(売女) 』が攻めてくるか分からぬ状況なのだぞ!? ゴウ達『ますたー』が破れた以上、それ以上の戦力! レベル9999の『C』を復活させなければならないのだ! でなければ魔人国はプライドがないエルフ女王国のように、魔女の 属国(犬) にされてしまうのだぞ! それでも貴様達はいいのか!?」
「そ、それは……」
「第一、貴様達が無能なせいで、このような乱暴な方法を採らざるを得ないのだろう! 我に意見する前にどれだけの金! 年月! 資材! 人材を用いているんだ。それでも何の成果もあげられていない貴様達の無能を恥じろ!」
『…………』
ヴォロスのヒステリックな叱責に研究責任者だけではなく、他研究員も黙り込むしかなかった。
実際、表に出せない多額の経費を投入し、長年『C』復活の研究がされていたが、未だに成果をあげられていない。
その事実を指摘されたら黙り込むしかなかった。
研究員達に怒鳴り散らしたヴォロスが苛立ちを抑えつつ、指示を出す。
「理解したらさっさと『C』を強制的に復活させる準備を開始しろ! いつ魔女が攻めてくるか分かったものではないのだぞ! さっさと動け無能共が!」
『か、畏まりました!』
ヴォロスの言葉に研究員達が返事をすると、大あわてで動き出す。
『C』の眠る棺は完全な長方形だ。
下半分が石材のような色をしているが、どのような武器、マジックアイテム、強い衝撃を与えても傷一つ付かない。恐らく見た目は石材だが、まったく別の素材なのだろう。
上半分は磨りガラスのような半透明な素材で出来ている。こちらも同様に傷一つ付かない。
半透明のお陰で内部に眠る人物『C』を目視することが出来た。半透明のためぼんやり見える顔立ちと身長から男性で、鑑定を使うと一部レジストされるが、レベル9999と表示される。
他にもいくつかの称号のようなモノが表示され『神』の文字も入っている。
故に魔人国は彼を『C』と判断したのだ。
石材と半透明なガラスはピッタリと接着され、長方形の棺を一本の線が一周するような形になっている。
諸々の実験過程の説明を省いて端的に説明すると……その接着部分を破壊すれば、棺の蓋を強制的に開くことが出来ると、実験者達によって考えられていた。
そのためには国宝にもなる魔力純度の高い『特級魔石』が複数必要になる。
魔力純度の高い『特級魔石』など、相当レベルの高いレアモンスターを倒さなければ手に入らない。
そのため理論上は出来ても、実行するための素材が無い状況だったが……発見後、数百年も経ったお陰で最低限の『特級魔石』を準備することが出来ていた。
ヴォロスの指示に研究員が強制復活させる準備を順調に進める。
棺の線に沿って『特級魔石』を設置。
強制復活後、怒り、暴走された場合に対応できるよう地上世界で最先端の対物理、魔術、鎮圧用のマジックアイテムも準備する。
(我の安全のためにも暴走した際、時間稼ぎが出来るゴウ達が居れば……。いや、たとえ彼らが生きてこの場に居たとしても、『C』の存在を知られる訳にはいかぬから、詮無きことか)
順調に進む強制復活を眺めながら、ヴォロスは軽く溜息を漏らす。
彼は服の上から、胸元を撫で自分の命綱である『身代わりのペンダント』の存在を改めて確認する。
――全ての準備が整うと、研究員達は距離を取り、臨時設置したバリケードの影に隠れつつ、ヴォロスへと向き直る。
「ヴォロス様、全ての準備が整いました。後はこのスイッチを入れれば、理論上、『C』の棺を破壊し強制的に復活させることが可能です」
研究の責任者が握るスイッチからはコードが、棺の線に沿って等間隔で設置されている『特級魔石』へと伸びていた。
同時に起爆し、エネルギーを棺の線に集中させ、吹き飛ばす仕様になっている。
ヴォロスは短く頷くと、躊躇いなく告げる。
「やれ」
「か、畏まりました」
研究トップ責任者の方が声を上擦らせ、僅かな躊躇いの後、スイッチを入れる。
一瞬、眩しい光が研究室に満ちるが、音、衝撃共に設置されたマジックアイテムの効果によって大幅に抑えられている。
お陰でヴォロスが眩しそうに眼を細めただけで終わる。
爆発が落ち着くと……半透明の蓋が衝撃によって床に落ちている。成功だ。
「……『C』の復活にしては地味だな」
ヴォロスが希望した通り『C』を強制復活させたが、一瞬光った程度で、気付けば蓋が開いていた。
あまりの地味さに思わずツッコミを入れてしまう。
「音も、衝撃も、何もかもマジックアイテムで防いでしまったので……派手さに欠けてしまうのはいたしかたないかと」
研究トップ責任者が気まずそうに呟く。
本来なら『特級魔石』の爆発エネルギーが破壊する部分に集中するとはいえ、余剰の光、音、衝撃などが外部に漏れて、最悪、死亡する場合もあった。
しかし、今回用いられた対物理、魔術などを防ぐ最新鋭のマジックアイテムがその全てを防いでくれたのだ。
その点にツッコミを入れられても、研究責任者も困るというものだ。
2人が会話を重ねていると、他研究員がざわめく。
未だ晴れぬ煙りの中で動く影があったのだ。
あの中に居るのは棺に眠っていた『C』だけ。
つまり、動く影があるということは『C』の強制復活が成功したということで――。
『qおj害gじゃいt8jhrjh憎ー9うt-9悪4t-94うt!!!』
異音。
刹那、『特級魔石』の余剰エネルギーすら防いだ最新鋭の対物理、魔術マジックアイテム防壁が吹き飛ぶ。
それだけではない。
魔人国王城そのものが地下から丸ごと吹き飛ばされてしまったのだった。