軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話 ヴォロスのプライド

「ふむ……」

魔人国第一王子ヴォロスが執務室の机で、提出された書類の内容を吟味する。

ヴォロスにとって、その日はいつもと変わらないごくごく普通の日常だった。

朝起きて、使用人達に傅かれ、食事を摂り、病気で寝たきりの国王――父に代わり仕事をこなす。

まだ王冠を得てはいないが、既に周囲からもほぼ国王という扱いを受けていた。

そんな彼は今日も執務室で、書類仕事をこなす。

これもヴォロスにとって、ありふれた日常だった。

――しかし、彼のごくごくありふれた日常は、黒いカラスの来訪で終わりを迎える。

開かれた窓の枠に、一羽のカラスが止まった。

「カァー!」

カラスは短く鳴き、その存在をヴォロスへと告げる。

「オマエ達、下がれ」

「畏まりました」

ヴォロスはカラスの存在に気付くと、側付きメイド、護衛の兵士達を執務室から下がらせる。

彼、彼女達も疑問を挟まず主の指示に従い、一礼して部屋を出た。

窓の枠に止まったカラスは野生の鳥ではない。

一見するとただのカラスだが、マジックアイテムだ。

音声を入力後、指定した相手へと向かわせ、録音した音声を伝えることが出来る。

たまに魔人国側『マスター』達に仕事を依頼することがある。

その経過報告を直接顔を合わせて受ける場合もあれば、今回のようなマジックアイテムを用いてやりとりをする場合もあった。

何度か似たやりとりをしているためメイド、護衛達もヴォロスを怪しげなカラスと二人っきりにすることに疑問を抱かず、大人しく部屋を出る。

内容によっては耳にしただけで自分の首が物理的に飛ばされてしまう。

そんな報告をわざわざ残って聞きたくはない。

ヴォロスも慣れた様子で席から立ち上がり、カラスへと近付く。

(ようやく 人種(ヒューマン) 王国への懲罰を邪魔する『魔女の配下』排除が終わったのか。思いの外、時間がかかったな……。後はドクからの連絡を待ってディアブロ子爵の暗殺後、領地を取り上げる準備を進めないとな。まったく面倒な仕事ばかりが増える)

胸中で溜息をつくが、『仕事のためやむを得ない』と自身を納得させる。

ヴォロスはゴウ達が予定通り、『魔女の配下』メラ分身体を無事に排除し、ドクに依頼した『ディアブロ領民兵士を使った暗殺』が終わった後の段取りを考える。

ヴォロスはゴウ達の敗北など一切考慮に入れていなかった。

近付くとカラスが自動的に音声を再生する。

『――俺様だ。依頼された魔女の配下については問題なく排除できたがァ……。その後、現れた新手の魔女の配下に土を付けられちまったァッ。アイツは異常だぞォッ。現状、俺様でも勝てるビジョンが見えやしねェ。ありえないぞォ。俺様がこの有様なら、ドクも今頃無事じゃ済まないだろうなァ……』

「?」

ヴォロスはゴウの声で伝えてくる情報を理解する事ができなかった。

魔人国側『マスター』達は魔人国第一王子を前にしても無礼な態度を改めない品性下劣な者達だったが、その実力だけは認めていた。

ミキ、ダイゴ、ギラ、ドク、そしてゴウ――彼らが1人でもその気になれば魔人国全軍でも決して勝てず、滅ぼされるほどの強者達だった。

その中でもヴォロスがこの世界で2番目に強いと考えていたゴウが、『敗北した』と告げてきたのだ。

容易にその情報を咀嚼など出来ない。

ヴォロスは混乱したままだが、連絡は一方的に続く。

『俺様は傷を癒すのと、あのクソガキをぶち殺すために、一度身を隠すわァッ。正直、この連絡も、俺様の下まで探知される可能性があるが、長年世話になった義理で特別に連絡してやったんだァ。ありがたく思えよォ。これは忠告だが、さっさと国を捨ててオマエも姿を隠せェ。魔女の逆鱗に触れた以上、恐らく次の狙いは魔人国そのものだろうからなァ。命が惜しかったら忠告に従うんだなァッ。まぁ、決めるのはオマエ自身だァ。俺様の助けがあることは期待するなよォ、じゃあなァッ』

カラスが音声を伝え終えると、マジックアイテムである卵の形に戻る。

ヴォロスは報告を聞き終えた後、青い顔でふらつき、その場に片膝を突く。

右手は窓枠を掴み、左手で口元を押さえる。

顔色は今にも死にそうな病人より悪く、冷や汗がだらだらと流れていた。

ヴォロスは1人自問自答する。

「馬鹿な! あの魔人国『ますたー』最強のゴウが、魔女の配下に敗北しただと!? 奴が我を謀るため偽情報を流した? いや、ゴウにそんなマネをする理由がない。では魔女側に寝返った? どんな益を与えられて? 女、金、地位、名誉……いや、無い。ゴウ達が魔女に寝返えるなどありえない……」

『巨塔の魔女』は『 人種(ヒューマン) 絶対独立主義』を掲げている。

ゴウはともかく、ドクが異常な人種実験を止める筈が無いため、魔女と彼が相容れることはない。

「なら先程の報告は事実ということか……魔人国『ますたー』であるゴウとドクが敗北したというのか……」

魔人国側『マスター』の1人であるギラも、魔女の子飼いである冒険者と決闘に向かってから戻って来ない。

つまり、もう魔人国には『巨塔の魔女』に抗える戦力がほぼ無いということだ。

ゴウの指摘通り、次に狙われるのは魔人国そのもの。

エルフ女王国のように襲われ、『巨塔の魔女』の植民地扱いされてしまうだろう。

「ぐがぁッ! 魔人国第一王子である我がァッ、『巨塔の魔女』とはいえ ヒューマン(劣等種) 如きの下に付けられるなど……ッ! 絶対に許されることではないぞッ!」

ヴォロスが怒りにまかせて床を殴りつける。

レベルと種としての強さによって、床材は簡単に砕けたが、彼の怒りはおさまらない。

『巨塔の魔女』の傘下に、魔人国――自分がついた想像をしただけで、全身の血管がぶち切れて憤死してしまいそうになるほどの強い怒りを感じる。

「許さん……そんなことは絶対に許さんぞッ!」

ヴォロスの魔人種としてのプライドが絶対に許されない屈辱だと訴えた。

故に彼はこの世で最も強い手札を切る覚悟を固める。

「魔人国を守るためだ……『C』を復活させるぞ……ッ」

ヴォロスは覚悟を固め『C』を復活させるために動き出す。