軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話 魚の頭

メラは意図的に生き残らせた賊――魔人国兵士3人を見送り終える。

彼らの背中が見えなくなったのを確認すると、魔人国兵士を食い散らかしたメラは行儀悪くゲップをする。

食い散らかした草原のこの一角は、賊に擬装し密入国してきた魔人国兵士達の血などで赤く汚れてしまっていた。

「ケケケケケケケケケ! 残虐性を示すため生きたまま魔人種を喰ったが、どいつもこいつも不味いったらありゃしない。後で高級ポーションの一本でも飲まないと腹を壊しちまうよ」

当然『高級ポーション云々』はメラのジョークだ。

人種王国兵士――の装備を着て擬装していたモヒカン冒険者達が、兜を取る。

「やれやれ……人種王国兵士に扮するのは別にかまやしませんが、兜でモヒカンが潰れるのだけは勘弁して欲しいや」

「だな。折角、今回の作戦に気合を入れていつも以上に立たせたのに……」

「作戦上しかたないとはいえな」

「ケケケケケケケ! 別にモヒカン――髪が潰れるぐらいどうでもいいだろ。オマエ達はその髪型にちょっとこだわり過ぎじゃないか?」

モヒカン達のぼやきに思わずメラがツッコミを入れる。

彼女の指摘に、モヒカンを直していた彼らが抗議の声をあげた。

「何を言っているんですか、メラ様!」

「このモヒカンはライト様も褒めてくださった由緒ある髪型なのですよ!」

「このモヒカンを蔑ろにする発言! いくらメラ様でも許されませんよ!」

メラはレベル7777、モヒカン達は20~25前後だ。

レベルだけ見るならまったく相手にならず、ついさっき目の前で魔人種が文字通り手も足も出ず虐殺されている。

にもかかわらずモヒカン達は髪型に対するこだわりを注意され、メラへと喰ってかかる。

その勢いと『ライト様も褒めてくださった』に押されて、レベル差が圧倒的にあるのにメラは素直に謝罪した。

「ケケケケケケ! わ、悪かったよ。髪型を馬鹿にするようなことを言って。謝るから許してくれ」

メラの謝罪をモヒカン達は受け入れ、次に疑問を呈する。

「しかし、良かったんですかメラ様……我々の姿を見られた上、金や物資まで渡して逃がすなんて」

事前に国境を越えて人種王国に入国し、賊に扮した魔人国兵士に襲われそうな村をピックアップ。

人種王国女王リリスから許可された権利を使って、その村人を『巨塔』へと移動させた。無駄な村人の犠牲を出さないためだ。

そしてメラ、人種王国兵士に扮したモヒカン冒険者達が、賊共を待ち構えていたのだ。

井戸で水を汲んでいた少女達、異形の怪物達も全てメラが体を分離させて作り出した者達だ。

モヒカン達はてっきり村人に被害を出さず、賊に扮して人種を村ごと絶やそうとしていた魔人国兵士達を皆殺しにすると考えていたのだが……。

なぜか数名だけは生かして手厚く送り返すよう指示を受ける。

残りは彼らの目の前でなるべく残虐に殺すよう指示も受けた。

『なぜそんな手間をかけるのか?』と意味が分からず、つい今回の作戦責任者であるメラに質問をしてしまう。

この質問に対してメラは彼らの疑問を吹き飛ばすように笑い告げた。

「ケケケケケケケケケケ! アタシもこれに何の意味があるかなんて知らないよ。でも、全てライト様からのご指示だ。人種村を襲おうとしたゲス共を一部とはいえ、わざわざ生かして帰す意味が分からなくても、言われたことを完璧にこなせばいいのさ!」

『おおぉ~』

メラの発言にモヒカン達は納得したように声をあげる。

「確かに俺達も 竜人(ドラゴニュート) 帝国で情報収集に失敗、魔人国入国も運悪く出来ず、ライト様に対して申し訳ない気持ちで一杯でした。だから、メラ様の仰る通り、まずは目の前にある作戦を完璧にこなすことを考えるべきですよね!」

「さすがメラ様だぜ!」

「ああ! 今度こそライト様のためにもこの作戦を必ず成功させるぞ!」

メラの言葉に感化されてモヒカン達がより気合を入れて声をあげる。

その士気はまさに天を突く勢いだった。

そんなモヒカン達のやる気に、メラが水を差す。

「ケケケケケケケ! やる気を出すのは良いが、『運悪く』とか、今アイスヒートの目の前では言うなよ。アイスヒートは最近、自分の運の悪さに落ち込み気味で、その手の話題に敏感になっているんだから」

「えぇぇ……何がどうなったら、メラ様と同格のアイスヒート様がそこまで運を気にするようになるんですか……」

レベル20~25前後のモヒカン達からするとレベル7777のメラ、アイスヒートは雲の上のような超常的存在だ。

第一、『奈落』最下層にいた頃のモヒカン達にとっては、アイスヒートにはライトを警護する有能な護衛メイドのイメージしかない。

そんな超常的存在が、『運』を話題にしただけで敏感になる姿が正直想像出来なかった。

『奈落』最下層へ戻らず、地上で情報収集をしている彼らが、魔人国『ますたー』であるミキとの間にあった諸々の事を知る筈もない。

メラは溜息混じりに告げる。

「ケケケケケケケ! まぁ色々あったんだよ、色々な……」

親友の恥をわざわざ口にするほどメラは愚かではない。

だが彼女の言いようがない気苦労がモヒカン達に伝わったのか、彼らは互いに顔を見合わせ提案する。

「あの……なら、俺達も最近知ったんですが、人種の民間呪術なのかな? なんでも魚の頭を玄関前に飾ると運気を上げるというか、邪気や悪いモノを祓うという言い伝えがあるらしいんですよ」

「ああ、あれか」

「そうそう、アレアレ。アレをアイスヒート様にやって差し上げるのがいいんじゃないか?」

「ケケケケケケケ! 魚の頭って……オマエ達、冗談か何かか?」

メラは思わずツッコミを入れてしまう。

しかし、彼らは強気で反論した。

「いやいや冗談じゃないですよ。実際、俺達が滞在していた村でやっていましたから!」

「確かに最初俺達も何かの冗談かと思いましたが、村の人達からちゃんと説明を受けましたよ!」

「しかも邪気や悪いモノを祓う力がちゃんとあると、お年寄り達が力説していましたし」

「ケケケケケ! マジかよ。そんなのが効果あるとか……地上は意外と凄いんだな……」

レベル7777で、地上ではかなりの強者のメラが地上の風習に感心――というよりは恐れおののく。

効果があるなら親友のため、魚の頭ぐらい自分の体から分離させて部屋の前に飾るのも吝かではないが……。

「ケケケケケ! 景観が悪いって話じゃないだろ。ユメ様やナズナ様が夜中に見たら腰を抜かして泣き出すんじゃないか?」

アイスヒートにその話をしたら自室前に、『数が多い方が効果がある気がするから』とびっしり魚の頭で埋め尽くす気がする。

いくらなんでも気味が悪いし、生臭すぎる。

その光景が簡単に想像がついてしまった。

親友アイスヒートのため、教えるべきか、教えないべきか……。

引き続きライトから与えられた任務を先程のようにこなしつつ、アイスヒートの部屋前に魚の頭を飾る話をするかどうかでメラは頭を悩ませたのだった。