軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話 一度あることは二度ある

シックス公国の中心会議場の下見に来ると――僕の復讐相手の1人であるディアブロと約3年振りに再会する。

(3年前と変わっていないな……)

魔人種、ディアブロは悪魔の角を頭に生やしている、青白いひょろりと背の高い青年だ。

質が良い衣服を崩すことなく着こなし、瞳は細いが鋭く、一目で神経質な人物だと分かる。

実際、細かいことに気付き、記憶力も良く、『種族の集い』時代は過去の失敗を持ち出しチクチク嫌味を言われたりもした。

この嫌味はパーティーメンバー関係なく、相対する全員に対してよく口にしていた。

だが当時は、チクチク嫌味を言いながらも、僕の面倒を見て、テーブルマナーや礼儀作法、女性のエスコートの仕方などを教えてもらった事もある。

『種族の集い』時代の僕はディアブロを『取っ付き難いが根は良い人』だと思っていた――『奈落』で裏切られ殺される寸前まではだ。

「…………」

奥歯を噛みしめ殺気が漏れ出るのを防ぐ。

レベル9999の僕がここで本気の殺意を向ければ、約3年前レベル400前後のディアブロなど心臓が止まってもおかしくはない。

そんな楽に殺すなど、僕の気が済まない。

なのでぐっと堪える。

中心会議場に顔を出した魔人種はディアブロを含めて5人。

全員、若者で高い衣服、アクセサリーなどを身に付け、如何にも『プライドが高いです』と言いたげな顔をしていた。

その内の1人、背中にコウモリのような羽根を生やした青年が、小馬鹿にした視線をこちらに向けてくる。さらに彼は大仰に両手を広げ、大理石のような素材で出来た円卓を迂回しつつこちらへと近づいてくる。

他4名も彼の後に続いた。

「もしや貴女様は、人種王国第一王女のリリス姫様であられますかな?」

「はい、人種王国第一王女リリスですが、貴方様方は?」

「挨拶が遅れて申し訳ございません、レディ。魔人国伯爵家次男フリードと申します」

フリードと名乗った男が舞台に立つ俳優の如く大仰に頭を下げる。

その際、笑った口元からは犬歯より長い牙が覗く。

ディアブロ含めた他4人も挨拶をした。

フリードが代表して口を開く。

「我々は将来魔人国を支えるエリートですが、会議中はこの会場に入出することが出来ません。なので、我々の将来を考えて今の内に会場を下見しておいた方が良いと皆で話し合い、足を運んだ次第です。リリス王女殿下も同じでしたかな? いや、それでしたらお兄様の第一王子が足を運ぶ筈ですから、ただの観光ですかね?」

フリードの台詞に、背後でディアブロ達が忍び笑いを漏らす。

『オマエは女で、王位を継ぐのは無理なんだからここを見学しても意味無いだろ。なのになんでこの場に居るの? 馬鹿なの?』と言いたいのだろう。

当然リリスも気付いているが、やんわりと笑顔で流す。

「いえ、未来がどうなるか分かりませんので、私も将来のために会議場の確認に来たのです。王族として民のため、常に努力を続けるべきだと思いますから」

「なるほど……リリス王女殿下はなんと民思いな王女なのでしょう! それに自由に動き回れるお時間があって本当に羨ましい! 我々にもそんな時間があればいいんですが」

今度は『無駄な事に時間を費やせて暇で良いよな。自分達は忙しいのに』と言いたいらしい。

(彼らは嫌味を絶対に入れないと喋れないのだろうか?)

僕はつい、そんな事を考えてしまう。

それでも笑みを崩さず相手をしているリリスは流石王族だ。

そんな事を考えていると、今度は彼の興味がリリスからネムムにスライドする。

「所でそちらに居るレディ達は、リリス様の護衛でしょうか?」

「はい、冒険者A級の『黒の道化師』パーティーです。今回、私の護衛を務めてもらっているのです」

「その若さで冒険者A級とはよほどの実力者なんですね。どうでしょうかお美しいレディ、魔人国から持って来た秘蔵の酒があるのですが、今夜、貴女の冒険譚を聞きつつ一緒に杯を交わしませんか?」

「…………」

フリードは、当たり前のように僕とゴールドなど視界に入れず、ネムムを酒に誘う。

彼の態度から飲みだけではなく、ベッドも共にするつもりのようだ。

ゴールドが人種王国第一王子クローに引き続き、自称魔人国若手エリートのフリードにまで絡まれるネムムの姿を見て、口元を片手で押さえ心底愉快そうに『ネムムよ、絡まれ過ぎだろ(笑)。一度、主にカードでお祓いしてもらった方がいいのではないか?』と言いたげに笑うのを堪える。

一方、ネムムはというと、口元をマフラーで隠しつつも不愉快そうに眉根を顰めていた。

彼女は心底蔑んだ瞳で答える。

「お断りします。姫様の護衛で忙しいので」

フリードはまさか魔人国の若手エリートである自分が断られるとは想像しておらず、笑みを強ばらせる。

他のディアブロを含む若者達が失笑を漏らす。

仲間が 人種(ヒューマン) に躊躇いなく拒否される。もし仲間思いならプライドの高いかれらが黙っている筈がない。

にも関わらず仲間の失敗を笑うということは彼ら自身、別に仲が良い訳ではないようだ。

(むしろ将来の座席を奪い合うライバル関係に近いのかな?)

僕が胸中で推測しているとフリードが何かを言うより早く、リリスが揉め事になる前に退散を提案する。

「申し訳ございません。そろそろ部屋に戻らなければならないので、失礼しますね」

「ッ……こ、こちらこそ引き留めてしまって失礼した」

先程まで流し目を送っていたフリードが、『プライドを傷つけられた』と言いたげに目に力を込めてネムムを睨む。

相手は格下に見ている人種だが、一応王族だ。

ここで下手に騒ぎをおこせば後々自分の汚点になるため、フリードは睨むだけで手を出そうとはしない。

一方、ネムムは睨まれても怯える所か、鬱陶しそうな表情を作るだけだ。

彼女からすればフリードの睨みなど子犬の威嚇より脅威ではない。

ネムムはリリスの台詞を幸いとして、扉を開き、さっさとこの場から去ろうとする。

「ダーク様?」

人種側出入口の扉を開こうとしたネムムを止めて、僕が動く。

ネムムとゴールドも僕の意図に気付き、疑問を抱くが自ら扉をあけようとはしない。

僕は扉に手を掛けると、左手で扉取っ手を掴み、一度左足を引いて、次に右足を動かし扉を開く。

「!?」

『種族の集い』時代、ディアブロに注意された昔の僕の悪癖をわざとやる。

ディアブロは当然、食いついてきた。

「そ、そこの仮面! ちょ、ちょっと待ちなさいーッ!」

予想通り呼び止められた僕は、仮面の下で獰猛な肉食獣の如く笑った。